著者:有川浩 2010年1月にKADOKAWAから出版
塩の街の主要登場人物
秋庭高範(あきばたかのり)
本作の主人公。元航空自衛隊二等空尉で彼を慕う隊員も多かったが、現在は行方をくらまし隠れるように真奈と新橋で暮らしている。口が悪く粗暴な態度から誤解を受けやすいが、正義感が強く根の優しい人間である。
小笠原真奈(おがさわらまな)
本作のヒロイン。塩害により両親を亡くし、暴漢に襲われそうになったところを助けてくれた秋庭と暮らしている。弱っている人を放っておけない優しさを持つ一方で、芯が強く理知的な面も持ち合わせるしっかり者。
入江慎吾(いりえしんご)
陸上自衛隊・立川駐屯地の駐屯司令で、秋庭の高校の同級生。顔立ちの整った柔和な雰囲気の持ち主で頭のキレる強者であるが、自分が正しいと思うことであれば手段を選ばず他人を利用することも厭わない、冷淡な一面を笑顔の裏に隠している曲者でもある。
塩の街 の簡単なあらすじ
突如として謎の隕石らしい物体が東京に飛来し、「塩害」と名付けられた被害に侵され社会は混乱を極めていました。
そんな世界で両親を塩害で亡くした少女真奈は自分を助けてくれた秋庭と慎ましやかに暮らしていましたが、ある日秋庭は元航空自衛隊二等空尉であったことが明らかになり、かつての同級生である入江から隕石の爆撃計画に参加するよう迫られます。
いつ塩害により真奈との明日が失われるかもわからない世界を変えるため、秋庭は危険を顧みず任務につき無事計画を完遂します。
塩害に脅かされていた世界は秋庭の真奈を想う恋の力で救われ、まだまだ復興途中の世界で再び二人はともに暮らし始めるのでした。
塩の街 の起承転結
【起】塩の街 のあらすじ①
突如として謎の隕石らしい物体が東京に飛来し、以降人が塩の柱と化してしまう「塩害」と名付けられた怪現象により、東京の街は崩壊しつつありました。
そんな東京へ群馬から徒歩でやってきた谷田部遼一は、海を目指している半ばで行き倒れているところを真奈という少女に助けられます。
真奈は秋庭という男性と二人で暮らしており、どうしても海に行きたいという遼一の願いを叶えるため、三人は海に向かいました。
海につくとなんと遼一は背負っていたリュックから塩と化した幼馴染を取り出し、美しい海で弔いを始めます。
さらに秋庭と真奈に別れを告げた後、塩化が始まっている自分自身は海に残り、幼馴染と一つに溶け合うことを願うのでした。
その帰り道、刑務所から脱走してきたトモヤに車をジャックされ、真奈を人質にとったトモヤは暴挙の限りを尽くします。
隙をついて秋庭が真奈を救出すると、トモヤは泣きながら自分が塩化し始めていること、刑務所で虫けらのように思われながら最期を迎えるのが嫌で脱出してきたことを話し始めます。
真奈はだんだん塩になっていくトモヤを最期まで優しく人として接しながらみとり、彼を探しに来た自衛官に亡骸を引き渡すのでした。
【承】塩の街 のあらすじ②
遼一やトモヤと出会った日から真奈の様子がおかしいことに気が付く秋庭ですが、二人でともにくらしているものの互いにあまり干渉せず、相手のことを多くは知らない関係性であったため、どうすればいいのかわかりません。
実は真奈は現実を受け止められておらず、隕石らしい物体が飛来した日から両親が「帰ってこない」だけだと思い込もうとして亡くなったのだと認められていなかったのです。
遼一やトモヤと出会ったことで初めて目の前で人が塩害によって本当になくなるのだという事実をようやく実感し、現実を受け止めるためにも秋庭に今まで話していなかった自分の事情を話し、自分の暮らしていた家を見に行くことを決意します。
様子を見に行くと家の状態は惨憺たるもので、真奈を襲おうとしていた二人組が腹いせに荒らしただけでなく、近所の住民がいろいろなものを持ち出した形跡が見られました。
落胆と怒りを覚えているところに近所の住民が心配を装った風で真奈に話しかけてきましたが、真奈を気遣った秋庭が大人の対応で軽くあしらい、両親の形見として二人の好きだった本だけをもって二人は家路についたのでした。
【転】塩の街 のあらすじ③
真奈が自分のことを打ち明け始め二人の関係性が深まってきたある日、秋庭のかつての同級生である入江が突然家に押しかけてきて、自分が今陸上自衛隊・立川駐屯地の駐屯司令として隕石らしい物体を爆撃する計画を立ており、秋庭にその実行部隊を務めてほしいと考えていることを半ば脅すような形で伝えに来ます。
真奈には知らされていませんでしたが、秋庭は実は元航空自衛隊二等空尉だったのです。
入江は飛来した隕石らしい物体はある種の生命体で、その物体を見た人を塩化させる能力を持っている可能性があること、また物体の組成が少しでも変わるとその能力を失うことから爆撃により塩害を止められることを明らかにしていました。
真奈は秋庭が危険にさらされるくらいなら、今の世界のままでいいと訴えますが、秋庭は大切な真奈を守るため、いつ塩害により真奈との明日が失われるかもわからない世界を変えるために、計画に参加することを決意します。
そして作戦通りアメリカ軍の戦闘飛行隊使用機を一機奪取し、それによる爆撃に成功するのでした。
【結】塩の街 のあらすじ④
秋庭のおかげで塩害被害は収束し、社会が復興に向かっている中で秋庭と真奈は結晶処理のため各地を回っていました。
そんな中ルポライターを目指す少年ノブオと出会い、行動をともにするようになります。
ノブオは二人と過ごす間に塩害についての認識を深め、また秋庭と真奈がいかにお互いを大事に思っているのか理解します。
そしていつか必ず塩害とその世界で恋をしていた人々をテーマにした本を出版することを決意するのでした。
その二年後、結晶の処理作業が終わり秋庭は古巣の百里に異動になります。
百里への道中、秋庭と真奈は真奈の両親のお墓の件を相談しに秋庭の実家に立ち寄ります。
秋庭は父親と仲が悪く、その関係について意見を言った際に秋庭が投げかけた心無い言葉を聞いた真奈は、秋庭との関係について深く悩みます。
その夜一人で涙を流す真奈に秋庭は真奈を大切に思っており結婚を考えていることを伝え、仲直りした二人は初めて体を重ねるのでした。
その後秋庭は真奈のフォローもあって父親とも仲直りをします。
さらに3年後のある日、秋庭は上機嫌である一冊の本を真奈に見せます。
それはなんとかつて二人と出会ったノブオの出版した本でした。
二人は本を見ながら昔のことを思い出し、これからのことに思いをはせるのでした。
塩の街 を読んだ読書感想
この作品は私が初めて手にした有川浩さんの作品で、舞台設定のおもしろさにすっかりはまってしまいました。
不思議な生命物体と自衛隊との組み合わせで話が展開される自衛隊三部作の「陸」にあたるものとして知られていますが、私はこの作品が一番切なくそれでいて心が温かくなるすてきな作品だと思っています。
どんなに極限の状況下であっても、人は人を思い、またたった一人の誰かを思う行動が大きな影響を及ぼすことがある、というこの作品のメッセージは印象に強く残りました。
塩害の渦中にあった世界を、「世界が終わる瞬間まで、人々は恋をしていた。」
と表現しているところがとても大好きです。
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