著者:有川浩 2012年11月に株式会社文藝春秋から出版
旅猫リポートの主要登場人物
ナナ(なな)
本作の主人公。狩りが上手なオス猫。
サトル(さとる)
本作のもう一人の主人公。猫好きの30代前半の青年。
コースケ(こおすけ)
サトルの小学校時代の親友。写真館の跡取り息子。親に逆らえない気の弱さから、奥さんが実家に帰ってしまっている。夫婦共に猫好き。
ヨシミネ(よしみね)
サトルの中学校時代の親友。中学時代、両親の離婚問題によるゴタゴタで祖母の家に身を寄せていた。農業を営む。
スギとチカコ(すぎとちかこ)
サトルの高校時代の同級生。スギとチカコの二人は幼馴染。二人は夫婦であり、動物と一緒に泊まれるペンションを営んでいる。
ノリコ(のりこ)
サトルの叔母。独身。検事として長年勤めてきたが、サトルの為に検事を辞めて弁護士となる。
旅猫リポート の簡単なあらすじ
ナナとサトルは旅に出る。
病によってナナを飼えなくなってしまったサトルが、これまでのサトルの人生で出会った友人たちにナナを託す旅に出ます。
しかし学生時代の友人たちを訪ねるも、さまざまな事情からナナを引き取る事がかないません。
そしてナナとサトルは旅路の終点、北海道のおば、ノリコの許に身を寄せる事となったのでした。
サトルの病が進行し、ついにサトルは天国へ旅立ちますが、最後までサトルの傍にいたのはナナでした。
旅猫リポート の起承転結
【起】旅猫リポート のあらすじ①
吾輩は猫である。
名前はまだない。
—という、かの有名な一文からこの本は始まり、猫であるナナの視点から物語は始まります。
ナナは5歳のオス猫であり、もともとはノラ猫として気ままに暮らしていました。
冒頭の通り、夏目漱石の著書『吾輩は猫である』に登場する猫のように、ナナは人間を俯瞰的に見ながら生きる、誇り高きノラ猫でした。
ナナは、愛想を振りまけば餌を分け与えてくれる存在として人間を見ており、自由気ままな猫ライフを満喫していました。
器用に生きるそんなナナでしたが、運命を変える出来事が訪れます。
ナナは車にはねられてしまいました。
痛くて動けなくて叫んでいたところに、ナナに餌を分け与えてくれている大勢の人間の一人であるサトルが駆けつけてくれました。
ナナは動物病院に連れていかれ治療を施されました。
すっかり良くなったナナはそのままサトルの猫として飼われる事になりました。
この出来事が、ナナとサトルが初めて出会うきっかけとなりました。
そして5年の月日が流れたある日の事。
ナナとサトルは、サトルの銀色のワゴンに乗り込みます。
ナナの飼い主を探す、二人の旅が始まります。
【承】旅猫リポート のあらすじ②
初めにサトルは小学校時代の親友であるコースケの許を訪れました。
コースケは父の仕事を継いだ写真館の二代目店主です。
小学生のころ、コースケは自分が見つけた猫を飼いたがりましたが、コースケの父親は厳しい人で、猫を飼うことを認めませんでした。
その猫は結局サトルが飼うことになり、名前をハチと名付けました。
思い出話の中で、サトルの両親がサトルの修学旅行中に交通事故にあってしまい、二人とも亡くなってしまう過去も明かされます。
そして、ナナは毛の模様がハチに似ているのでコースケも引き取りたがりましたが、コースケは健在な父に頭が上がりません。
実はそんなコースケに愛想をつかして、コースケの奥さんが実家に戻ってしまっている状況なのでした。
そんなコースケの状況を見てサトルは、なんのしがらみもない、まっさらな猫を飼うと良いとコースケに勧め、ナナの引き取りを見合わせることにします。
コースケの奥さんも猫が好きなので、コースケは猫を飼うことを理由にもう一度やり直す決意を新たにします。
次は二人目の飼い主候補であるヨシミネを訪れました。
ヨシミネは中学校時代の親友です。
両親の離婚問題を抱えている背景から祖母の家に引き取られている事情があり、両親を亡くしているサトルはヨシミネに親近感を抱き仲良くなります。
祖母の農家で土いじりに親しんでいたヨシミネはサトルと一緒に園芸部に入部し、現在では一人で農業を営んでいます。
サトルから猫をもらってほしいと連絡がきた後に茶トラの子猫が迷い込んで来て、そのまま飼うことになりました。
ナナは子猫に狩りの仕方を教えますが、ナナはこのままヨシミネの猫になるつもりはありません。
子猫を威嚇するナナを見てサトルは、ヨシミネにナナを預けることは出来ないと判断し、ヨシミネの家を後にしました。
【転】旅猫リポート のあらすじ③
スギとチカコ夫妻は富士山の絶景が見られる場所でペットと泊まれるペンションを営んでいる、サトルの高校時代の親友です。
高校時代にサトルは、用水路に落ちた犬を助けた縁でスギとチカコの二人と親しくなりました。
サトルは両親が交通事故で亡くなった時に、飼っていたハチを九州の親せきの家に託さなければなりませんでした。
ずっと心残りだったサトルは、ハチに会いに行く事を決めました。
チカコの申し出で、スギと一緒にチカコの家の果樹園にてアルバイトをすることになりました。
しかしアルバイト中にハチが交通事故で亡くなった知らせが九州から届きましたが、サトルはアルバイトを続けてハチのお墓参りに行ってきました。
スギとチカコはおさななじみですが、動物が好きなサトルとチカコが親しくなっていく様子にスギは嫉妬心を覚えていきます。
結局スギとチカコは付き合うことになりそのまま結婚しましたが、現在スギとチカコのペンションで買われている犬の虎丸は、主人であるスギの微妙な心情を読み取っています。
虎丸は、ナナがペンションに来るとスギが落ち着かなくなるから帰れ、とほえたてます。
さらに虎丸は、サトルからはもう助からない匂いがする、とここまで明かされなかったサトルの真実をナナに話します。
もちろんナナは初めから分かっていました。
ナナと虎丸のけんかを見たサトル達は、ここでもナナを預けるわけにはいかないと決心し、最後の旅へと向かいました。
おばである、北海道のノリコの家に向かいます。
【結】旅猫リポート のあらすじ④
ノリコはサトルの母の妹であり、長年検事として勤めてきた独身のキャリアウーマンです。
一人で生きて来た勝気さからか、普段の会話でも言わなくて良い一言を相手にぶつけてしまいます。
サトルの両親が亡くなった時もそうでした。
両親が亡くなって落ち込んでいるサトルに、サトルの両親は本当のサトルの両親ではないという事実を突きつけてしまいます。
サトルは、ノリコが検事として担当していた児童虐待事件の、虐待されていた当事者なのでした。
そしてその当事者、つまりサトルをノリコの姉夫婦が引き取って育てたのでした。
サトルの病気が進行していく中で、その事をノリコはサトルにわびますが、サトルは愛情を注いでくれた両親と出会わせてくれた事に、ノリコに感謝の言葉を述べました。
ナナはノリコの家に身を寄せていましたが、サトルが病院から家に戻らないことを悟ると、野良猫に戻ることを決意します。
天気の良い日にサトルが病院から外に出る時には、どこからともなくナナが現れます。
そうやってサトルの最後の時までナナはサトルと一緒に過ごしました。
そして最後の時がやって来ました。
ノリコは病室にナナを連れてきて、サトルはナナのぬくもりを感じながら旅立っていきました。
ナナはサトルと会えなくなってしまいましたが、寂しくはありません。
ナナはサトルと過ごした五年間を得ただけであり、何も失ってはいないからです。
旅の途中でサトルと一緒に見た景色。
サトルが育った街、ぐうっとこちらに迫ってくるような富士山、北海道のどこまでもだだっ広い地面、地面から生えた二重の弧を描く大きな大きな大きな虹。
ナナは旅の思い出を数えながら、いつかまた地平線の向こうにいるサトルと出会うために、また次の旅へと向かいます。
旅猫リポート を読んだ読書感想
有川浩さんの作品のなかで一番好きな作品です。
サトルの学生時代の友人たちを訪ねながら、サトルの過去と現在が明らかになっていく作品です。
主人公はあくまでもナナですが、有川さん作品の特徴通り、物語の要所要所で主要な登場人物の視点で物語は描かれています。
サトルは両親の実の子供ではなかったり、飼っていた猫とも引き離されてしまい、結局その猫も交通事故で亡くなるので会うことはできませんでした。
ついにはサトル自身も、がんに侵されてしまい30代前半でこの世を去ってしまいます。
しかし、物語全体に暗い雰囲気は漂っておりません。
それはひとえにサトルの、恨み言や愚痴を一切言わない前向きで、物事に感謝をする性格が物語を明るくしていると思いました。
不幸な境遇にもかかわらず、その中でも自分は不幸ではない、愛情をくれた両親と出会えたことは素晴らしい、と言います。
そして、ナナの名言があります。
『僕は何も失っていない。
サトルと出会えた5年間を得ただけなんだ。
』このセリフは目からうろこが落ちました。
私は数年前に父を亡くした時、途方に暮れてしまいました。
しかしこの本を読んで、私は父を亡くしたけれども、何も失っていない。
父と過ごした日々を得ただけなんだと思えるようになりました。
そしてこの物語のように、地平線のかなたでいつかまた父と出会えることを信じております。
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