著者:倉知淳 1996年6月に東京創元社から出版
占い師はお昼寝中の主要登場人物
辰寅(たつとら)
主人公。渋谷の雑居ビルで営業を続ける占い師。暇さえあれば寝ているが並み外れた推理力の持ち主。
美衣子(みいこ)
辰寅の姉の娘。 渋谷近辺の大学に通う。好奇心が強く行動力もある。
新杉田浩二(しんすぎたこうじ)
商社マン。仕事ひとすじで家族との時間が取れない。
松兼スミ子(まつかねすみこ)
専業主婦。 倹約家だか旅行にはお金を惜しまない。
西成真一(にしなりしんいち)
小学生。 父親思いでしっかり者。
占い師はお昼寝中 の簡単なあらすじ
大学進学のために田舎から東京へと出てきた美衣子は、母の弟で風変わりな占い師・辰寅の占い所でアルバイトを始めます。
放っておけばいくらでも寝ているような辰寅でしたが、お客さんが来た時にはまるで別人です。
次から次へと持ち込まれてくる不思議な相談事を解決へと導いていくうちに、あっという間に1年が過ぎていくのでした。
占い師はお昼寝中 の起承転結
【起】占い師はお昼寝中 のあらすじ①
大学進学と同時に美衣子は母親の弟に当たる辰寅を訪ねて、道玄坂のビルの一室にある霊感占い所を手伝い始めました。
7月も下旬に差し掛かったある時に、失くした物を探してほしいという40歳くらいの新杉田浩二という男性が訪ねてきます。
新杉田の勤め先は一流商社の亀ノ菱商事で、失くなったのは自宅に置いてあったビジネス書とゴルフクラブです。
「キツネが軒下にくわえて行った」という占いの結果に半信半疑のようでしたが、1週間後に新杉田は大喜びでお礼にきました。
本やクラブが失くなったのが夏休みに入って最初の週末に当たることから、辰寅は犯人が小学3年生になる新杉田の娘と見破っています。
せっかくの休みの日も接待ゴルフや読書に明け暮れていた父親を、困らせてやろうとした子供らしいイタズラです。
辰寅は悪いキツネを封じるためのおまじないとして、1枚のお札を新杉田に手渡して家族の目立つところに貼っておくようにアドバイスします。
父の大切なものを隠してしまった女の子から、罪悪感という名のキツネを追っ払うありがたいお札となるでしょう。
【承】占い師はお昼寝中 のあらすじ②
秋に入ってようやく残暑が落ち着いた頃、いかにも仕事ができそうな30歳前後かと思われる女性が訪ねてきました。
コンピューターのハード機器メーカーで事業部門に携わっているという彼女は、本名までは明かしません。
依頼者が夜遅くに帰ってくると寝室が散らかっていて、化粧品や香水の中身がこぼれていたのは半月ほど前のことです。
さらには出張先の神戸から戻ってきた1週間ばかり前になると、キッチンの食器が棚からしょうゆやソースが床の上にこぼれていました。
辰寅は彼女の夫が無職であることと、まったく料理をしないことに注目します。
香水をまきちらしたのは他の女性の残り香を消すためで、食器が散乱していたのはその女性が作った料理の匂いをごまかすためです。
辰寅はあえて「浮気」という言葉を使わずに、今の住んでいる場所に水溶霊というタチの悪い霊がいるといって引っ越しを勧めました。
頭の回転の早い彼女はそのひと言ですべてを悟って、新しい生活圏で立ち直ることができるのか夫に最後のチャンスを与えてみることにします。
【転】占い師はお昼寝中 のあらすじ③
今年もあと半月あまりになり東京に雪が降り出した日、松兼スミ子という江戸川区に住んでいる主婦から不思議な体験を聞かされました。
銀座の老舗の宝石店・天銀堂から忘れ物を預かっているという電話がかかってきましたが、松兼には心当たりはありません。
来月の中頃には町内の婦人会で旅行に行く予定でしたが、いつの間にかキャンセルされています。
松兼の祖母の実家には二人雪姫という言い伝えが残っていて、雪の降る日には自分とそっくりなもうひとりの人間が外を歩き回っているそうです。
来年の2月で松兼が銀婚式を迎えることから、辰寅はすべては彼女の夫の仕業だと見抜きます。
天銀堂に行ったのはプレゼント用に指輪を買うためで、忘れ物の正体は妻の指のサイズを確認するために持っていった手袋でした。
婦人会の旅行を無断でキャンセルしたのも、新婚旅行以来となる夫婦旅行を前々から用意していたからです。
美衣子はいくつになっても素直になれない男たちにあきれながらも、夫婦のささやかな幸せに安心して窓の外の雪に目を移しました。
【結】占い師はお昼寝中 のあらすじ④
梅雨が明けずに荒れた天気が続いていた7月のある日、辰寅の占い所に最年少記録を更新するお客さんの来訪がありました。
12歳の西成真一は世田谷代田の工場で働いている父親に夜食を届けに行った昨日の夜、巨大なひとつ目の大入道を目撃します。
今朝になって工場の金庫から200万円の現金がなくなっていましたが、疑いが掛かったのはひとりで残業していた真一の父です。
辰寅は工場の従業員・金子の車に被せてあったカバーシートと、工場の入り口に付いていた数字錠から真相にたどり着きました。
暗くなってから数字錠を外すためにはペンライトが必要で、外に明かりが漏れないように大きな布で覆います。
昨夜は台風が近づいていためにカバーシートが強風にあおられて、あちこちに動くライトを真一が目玉と見違えるのも無理はありません。
美衣子はホステスのふりをして所轄の警察署に電話をして、金子の金回りがよくなったと密告をします。
物事を深く考えずに盗みをする金子のような人間は、警察に少しでもつつかれるだけで簡単に白状するでしょう。
真一の父の疑いが晴れたのを祝福するかのように、雲間からは青空が広がって夏の訪れを告げています。
東京に出てきてから2度目の夏を迎えたことに気がついた美衣子は、今度こそ得たいの知れないおじさんの謎を解き明かしてみることを決意するのでした。
占い師はお昼寝中 を読んだ読書感想
かすかに日が射し込むおんぼろビルの片隅に年をとった駄猫みたいに丸まって、昼間から眠りこけている辰寅はおよそ名探偵らしくありません。
対する助手の美衣子は若さとエネルギーの固まりのような女の子で、両者のギャップによってうまくバランスが取れています。
お客さんの前ではキツネから悪霊に大入道ともっともらしいキーワードを並べながらも、頭の中では理論的に答えを導いていくところも面白かったです。
誰よりも先に真実に到着しながらも、時には依頼人に伝えずに自分の胸の内に仕舞い込むところもこれまでのミステリーにはない斬新な展開でした。
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