「金魚姫」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|荻原浩

金魚姫

著者:荻原浩 2015年7月に角川書店から出版

金魚姫の主要登場人物

江沢潤(えざわじゆん)
主人公。仏壇仏具の販売会社で営業を担当。成績は悪く精神的にも追い詰められている。

リュウ(りゅう)
推定年齢1000年以上。金魚から若い人間の女性に変身する。

菊地亜結(きくちあゆ)
江沢の元カノ。外資系金融の社員。

安川(やすかわ)
江沢の上司。 メモリアル商会の課長。

林泰明(はやしやすあき)
安川の上司。メモリアル商会の社長。

金魚姫 の簡単なあらすじ

人間に変身する金魚・リュウと暮らし始めた途端に、江沢潤には不思議な力が備わり仕事も順調そのものです。

遠い昔に婚約者を奪われたリュウは、中国から日本に渡ってきた敵の一族を抹殺するという本来の目的を思い出します。

九州に来た時に江沢こそが婚約者のかたきと気がつきますが、リュウは報復を諦めて金魚としての生涯を全うするのでした。

金魚姫 の起承転結

【起】金魚姫 のあらすじ①

幸運の金魚をキャッチ

江沢潤は仏壇や仏具などを取り扱うメモリアル商会に勤めていましたが、営業成績がさっぱり振るわないために課長の安川からは標的にされている毎日です。

お付き合いしていた高校時代の同級生・菊地亜結もつい先日になって出で行ってしまい、せっかくの日曜日にも関わらず何もやることがありません。

気分転換に出かけたのは近所の神社で開かれていた夏祭りで、子供の頃に大好きだった金魚すくいにチャレンジしてみます。

沖縄産の金魚・琉金を捕まえた江沢が「リュウ」と名付けて家に持ち帰ると、次の日には赤い民族衣装のような服を着た若い女性に変身してしまいました。

リュウと秘密の共同生活を始めた途端に江沢には亡くなった人の姿が見えるようになり、この力を使うとみるみるうちに外回りに出た時の売り上げがアップしていきます。

今では社長の林泰明にも顔と名前を覚えてもらい、新しくオープンする長崎の支店への栄転を誘われるほどです。

一方のリュウは人間になったり金魚に戻ったりと不安定な状態ですが、時おり口にする言葉から中国の出身であることが分かってきました。

【承】金魚姫 のあらすじ②

島原を流れる生命の水草

リュウには今から1000年以上も前に結婚を誓い合った王凱という男性がいましたが、政敵の劉顕によって無実の罪を着せられて処刑されています。

劉顕の子孫を根絶やしにするために金魚に生まれ変わって日本に渡ってきたところまで記憶がよみがえっていきますが、彼らが国内のどこにいるのかまでは思い出せません。

江沢がさまざまな文献で調べているうちにリュウは生気を失っていき、最近では人間よりも金魚でいる時間の方が多いくらいです。

リュウはオキチモズクという種類の水草がないと人の姿に戻れないようですが、天然記念物にも指定されているほど希少なために九州のごく一部にしか生息しません。

1週間後に林社長が移転先の物件を視察するために、江沢もカバン持ちとして長崎県への出張に同行することに決まっていました。

ひと足先にレンタカーのクーラーボックスの中にリュウを入れて九州に上陸して走り回っていた江沢は、島原市内の用水路でオキチモズクを発見します。

【転】金魚姫 のあらすじ③

憎い相手は愛してしまった人

ようやくリュウは息を吹き返して林社長が長崎空港に到着するまでには時間もたっぷりあったために、母方の祖父のお墓参りのために大村市へと向かいました。

先祖代々の墓は祖父の家に歩いて行ける程度の距離で、海岸沿いの丘陵地帯を見下ろす場所にあります。

墓石には江沢の母親の旧姓・林が刻まれていて、リュウが探していた劉顕の子孫こそが林一族です。

すべてを終わらせるためにリュウは江沢の首を恐ろしいほどの締め付けてきましたが、ここ数カ月に渡って一緒にいたために非情に成りきれません。

リュウは両手の力を緩めたと思うと墓地の奥にある金網フェンスの向こうへと走り出し、真下を流れる川の中へと飛び込んでしまいます。

社長からの携帯電話の呼び出し音を無視して川の中を探し回りましたが、リュウの姿はどこにもありません。

諦めかけた江沢が祖父の墓の前に戻ると、墓石を洗うために使った木製の桶の底に小さな金魚に戻ったリュウが泳いでいました。

【結】金魚姫 のあらすじ④

赤い空に帰った金魚姫

空港へ林社長を迎えに行く約束をすっぽかした江沢はメモリアル商会を解雇されますが、それを機会に東京から長崎へ住まいを移しました。

島原市の小さなアパートを借りたのも、リュウのためにオキチモズクを切らさないようにするためです。

給料は以前よりも落ちますがノルマのないのんびりとした社風の、地元の斉場に就職してセレモニースタッフとして働き始めます。

島原で4年ほど暮らしているうちに江沢の目には死者の姿が映らなくなり、リュウも金魚のままで2度と人間には戻ることはありません。

江沢が吉枝と知り合ったのは島原から長崎へと引っ越して塾の講師に転職した頃のことで、ふたりは間もなく結婚して男の子を授かり揚河という名前を付けます。

5歳になった揚河が水槽の底に沈んでいるリュウを見つけたために、江沢は動物病院まで運びますが既に息はあません。

大村市のお墓に揚河とふたりでリュウの死体を埋めにいった江沢は、赤く染まった空の上から中国の古い歌を聞くのでした。

金魚姫 を読んだ読書感想

日曜日の夕暮れ時まで疲れ果てて眠りこけていた主人公の江沢が、窓越しに祭りばやしを聞いて導かれていくオープニングが幻想的です。

狭い参道の両脇に提灯が輝いて露店が軒を連ねている中を、童心に還ったかのように歩く江沢には心温まりました。

1匹の不思議な金魚との巡り合いを通して、少しずつ生きる気力を取り戻していく姿にも勇気をもらえます。

物語の前半は息苦しいオフィスや無機質なアパートが主な舞台になっていますが、後半以降の長崎の風景は解放感に満ちあふれていました。

積年の恨みを晴らすのか愛を貫くのかという究極の二者択一を迫られたリュウが、悩んだ末に下した決断も驚きです。

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