フランソアーズ・サガン「愛は遠い明日」のあらすじと結末をネタバレ

愛は遠い明日

【ネタバレ有り】愛は遠い明日 のあらすじを起承転結で解説!

著者:フランソアーズ・サガン 1982年4月に新潮社から出版

愛は遠い明日の主要登場人物

ゲレ(ゲレ)
フランス北部の町カルヴァンにあるサンソン鉱業で会計課に務めている27才。

マリア(まりあ)
ゲレの下宿先の女将さん。

モーシャン(もーしゃん)
サンソン鉱業の会計課次長。ゲレの上司。

ジルベール・ロムー(じるべーる・ろむー)
マルセイユの宝石密売人。マリアのかつての恋人。

愛は遠い明日 の簡単なあらすじ

鉱山会社で働いているごく普通の青年ゲレは、仕事の帰りに総額総額1000万フランを越える宝石を拾います。下宿の女将マリアとは深い仲になりふたりでアフリカへの移住を考え始めますが、彼女の昔の知り合いでマルセイユのギャングに加担する悪漢の来訪によって思わぬトラブルへと巻き込まれていくのでした。

愛は遠い明日 の起承転結

【起】愛は遠い明日 のあらすじ①

偶然の巡り合わせから手に入れた宝物

サンソン鉱業に勤務するゲレはいつものように上司のモーシャンに嫌味を言われながら、午後6時までにデスクワークを終えて退社します。

事務所の裏庭には選別された粗悪な石炭を積み上げたボタ山があり、側を通りかかったゲレは薄茶色の革袋を発見しました。

中には光輝く数点の宝石が詰め込まれていて、こっそりと持ち帰ったゲレが向かった先は町の中心にある貴金属店です。

店主の鑑定によって総額1000万フランもの価値があることが判明しますが、翌朝の新聞にはベルギーからフランスへ来た仲買人が殺害され持ち込んだ宝石が行方不明となった事件の顛末が報道されています。

ゲレが自らの抱える秘密を打ち明ける相手に選んだのは、下宿先の女将マリアでした。

【承】愛は遠い明日 のあらすじ②

変わり始めていく日常

マリアは冴えない下宿人が大胆不敵にも殺人を犯して宝石を強奪したと勘違いしてしまい、すっかりゲレのことを見直してしまいました。

彼女はかつてマルセイユで暮らしていたことがあり、昔の恋人・ジルベール・ロムーに宝石の密売を依頼します。

ゲレとマリアの関係は何時しか大家と間借り人以上のものへと変わっていき、宝石を売却した代金でアフリカへ行くことを計画し始めました。

マリアの影響を受けて強気になったゲレは、勤務時間中もモーシャンに盾突くようになっていきます。

金遣いが荒く服装も派手になったゲレは、夜の酒場で大盤振る舞いをしてすっかり地元の人気者です。

マリアはそんなゲレのご機嫌を取りつつも、次第に世間知らずの年下の愛人をコントロールしていくのでした。

【転】愛は遠い明日 のあらすじ③

世間から孤立していくふたり

宝石の売買の手続きは1か月ほどかかるために、ゲレとマリアはフランス国内を自由気ままに豪遊旅行します。

親子ほど年齢の離れているカップルに、周りの人たちは余りいい顔をしません。

ゲレの昔からの友人やガールフレンドたちも、次第にふたりから距離を置くようになっていました。

サンソン鉱業の上層部からの評価が上がっていたゲレに舞い込んできたのは、モーシャンの後釜として会計課主任に就任する有り難い話です。

出生コースに乗って安定した人生を送ることに心惹かれていくゲレでしたが、マリアは言葉巧みに言いくるめて辞退させてしまいます。

せっかくの昇進をふいにしたゲレは「造反者」の烙印を押され、社内でも孤立を深めていくのでした。

【結】愛は遠い明日 のあらすじ④

港町マルセイユからの危険な来客

マルセイユから密かにマリアの下宿へとやって来たジルベールは、未だにマリアに未練たらたらです。

彼女が若い男性と一緒になって、異国の地へ旅立ってしまうのは面白くありません。

裏社会に面識のあるジルベールは、ゲレが殺人犯ではなく単に宝石を猫糞したことを見抜いていました。

全てを暴露してふたりだけで宝石の売却金を山分けすることを提案しますが、マリアにはまるで相手にされません。

その場に駆け付けたゲレを、ジルベールは嫉妬からナイフで刺してしまいました。

パニックに陥ったジルベールは車で逃走し、重傷を負ったゲレは救急車で運ばれていきます。

心からゲレを愛するようになったマリアは、遠ざかるサイレンの音を聞きながらゲレの帰りをいつまでも待つことを誓うのでした。

愛は遠い明日 を読んだ読書感想

「悲しみよこんにちは」や「ブラームスはお好き」に代表されるような、サガン文学の持ち味である美しい海辺の風景や思春期を迎えて揺れ動く美少女は一切登場しません。

煤で汚れた下宿先と勤め先や場末のカフェを行き来するしがないサラリーマンのゲレが哀愁たっぷりでした。

自分だけの秘密を持った途端に強気になり、会社でハンフリー・ボガートの真似をしながらシガレットに火をつける姿が格好良かったです。

ルーティンワークの如く毎日を繰り返してきたゲレの、豹変ぶりにも繋がるものがあります。

嫌味たっぷりな会計課の次長モーシャンを、言葉巧みにやり込めるシーンも実に痛快でした。

贅沢の象徴としてヤマハのオートバイを衝動買いしてしまう場面も微笑ましく映ります。

莫大な財産を目前にして、それぞれの本性が剥き出しになっていく展開もスリリングです。

極限状況下に置かれたゲレが、宝石よりも大切な存在を見つける瞬間には強く心を揺さぶられます。

粗悪な鉱石を積み上げた労働現場や無機質なオフィスビルの中でも、それぞれの人生にとって光り輝く宝物を見つけられることを考えさせられました。

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