【ネタバレ有り】映画篇 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:金城一紀 2007年7月に集英社から出版
映画篇の主要登場人物
僕(ぼく)
在日朝鮮人で、中学までは日本の民族学校に通っていた。現在は日本名を取得し、サラリーマンを経て小説家に転身。同級生の龍一と映画を通じて親友になるも、日本教育の高校へ進学を機に、親交が途絶える。
龍一(りょんいる)
僕の親友。在日朝鮮人で民族学校に通っている。サッカーが得意でいつも輪の中心にいる。僕同様、父親がいない。中学時から徐々に荒れ始め、高校では悪い先輩につかまり退学。そのまま闇の世界に身を置くように。
永花(よんふぁ)
民族学校の同級生。龍一と結婚し、子供をもうけるも離婚。現在はヘアメイクとして働きながら、女手一つで男の子を育てている。
映画篇 の簡単なあらすじ
在日朝鮮人の僕は、デビュー作の小説が映画化することが決まり、現場に顔を出します。そこで、中学時に通っていた民族学校の同級生・永花と再会。近況を語り合います。高校から日本学校へ進学した僕は同級生から裏切り者呼ばわりされていました。それでも尚、親しくしていた龍一という男がいました。成人式で会って以来疎遠になっている龍一。永花から消息を聞かされ、僕は龍一との思い出が溢れかえってきます。
映画篇 の起承転結
【起】映画篇 のあらすじ①
在日朝鮮人の僕は、デビュー作の小説が映画化することが決まり、現場に顔を出します。
そこで、中学時に通っていた民族学校の同級生・永花と再会。
お互い近況を短く語り合います。
僕は高校から日本の学校に進学した為、民族学校の同級生からは裏切り者呼ばわりされ、誰一人として連絡を取っている者はいませんでした。
その後、大学に進み、サラリーマンを経て、デビュー作の小説が今回映画化されたことを報告します。
永花はヘアメイクとして働きながら、女手一つで男の子を育てている言います。
僕と永花は直接言葉を交わしたことはあまりなく、近況を話したところで、気まずい空気が流れます。
それでも僕は永花に聞きたいことがありました。
同級生の龍一についてです。
成人式の時に龍一と付き合っていた永花なら、龍一の消息を知っていると思ったからです。
どう切り出せばいいものかと考えていると、遠くで永花を呼ぶ声がします。
映画の打ち上げで再会できることを確認しながら、永花が去り際に渡したい物があるから必ず打ち上げに来て欲しいと言います。
『渡したいものって』と問いかける僕に、永花は笑いながら、ブルース・リーのブロマイドだと答えます。
そして、言葉少なめに龍一の消息を話して、永花は現場へ戻っていきます。
【承】映画篇 のあらすじ②
龍一と僕は民族学校に通う同級生でした。
サッカーが上手でいつも輪の中心にいた龍一と、友達と遊びまわるよりも小説や映画を観ている方が好きだった僕は、同じクラスでありながら、口をきいたことはありませんでした。
初めて口をきいたのは二人きりのスクールバスの中でした。
映画『大脱走』のテーマ曲を口ずさんでいた僕の隣の席に、いつの間にか座っていた龍一が『それ、『大脱走』のテーマでしょ?』と声をかけてきました。
映画の話で意気投合した二人は後日、僕の家に『荒野の七人』を観に行く約束をします。
しかし、担任教師の浅はかな思いやりによって、父親がおらず寂しい者同士だというレッテルを貼られてからは、距離を置くようになってしまいました。
再び口をきいたのは、体育の授業中、誤って龍一に怪我を負わせてしまった僕に、龍一が掴みかかった時です。
殴り合いの喧嘩をしてお互いボロボロになりながら、感情をぶつけ合った二人は、それから親友になります。
テレビで放映された映画の感想を言い合いながら、自転車で学校に向かう時間が僕は何より好きでした。
龍一はわかりやすいアクション映画が好きで、とくにブルース・リーの『ドラゴン怒りの鉄拳』が大好きでした。
それは僕も同じで、ブルース・リーは僕たちの憧れでした。
龍一は父親、もしくは両親がいない設定の主人公が出てくる映画をとりわけ好んでいました。
小学五年生になってからは、僕たちは映画館に通い始めます。
学校ではほとんど口をきかない二人でしたが、放課後は二人連れだって映画館通いに精を出します。
映画を観終えると、近所の堤防で映画の感想を夢中で言い合いました。
中学三年生になり、お互いの進路について話す機会がありました。
僕は日本の高校に進学することを打ち明けます。
将来は小説家や脚本家など物語を作る職業に就きたいという僕の夢を、龍一は馬鹿にすることなく応援してくれました。
【転】映画篇 のあらすじ③
日本の高校に進学した僕は、友人と呼べる友達もおらず、学校とアルバイトの隙間時間でたくさんの映画を観ました。
一人で映画を観る度に龍一のことが思い出され、その度に深い孤独感に襲われました。
龍一の家に電話をかけても本人不在でつかまることはありませんでした。
龍一が気になり、民族学校の同級生に電話をかけました。
現在龍一は高校を中退し、暴力金融でやくざまがいのことをしているらしいと聞きます。
その後僕は大学に進学し、ガールフレンドもできました。
そして成人式を目前に控えたパーティーで、久しぶりに民族学校の元同級生たちと再会します。
龍一が参加するらしいと聞いていたのですが、龍一の姿はありませんでした。
残念に思いながら帰ろうとすると、エレベーター前で一目で闇の世界の住人とわかる、いかつい男が立っていました。
目を合わせないよう前を通り過ぎようとした僕の肩を、その男は強く掴みます。
そして『俺だよ』とひどく悲し気な顔で声を掛けます。
龍一でした。
変わり果てた龍一の姿に驚きながら短いやり取りをし、会場を後にした僕。
一旦別れた二人でしたが、龍一が僕の後を追ってきます。
そして笑みを浮かべながら『映画観に行こうぜ』と誘います。
【結】映画篇 のあらすじ④
夜も遅く、目ぼしい作品はほとんど上映されていませんでした。
それでも僕たちは映画を観ることにこだわり場所を変えながら映画館をまわりました。
結局見つけた作品は、二人が毛嫌いしているクソみたいなフランスの恋愛映画でした。
最後まで観終えて映画館を出た二人は、公園で近況を話し合います。
僕は大学生、龍一は借金の取り立て屋をしていることを短く説明します。
龍一は、高校を退学になり、金融業に身を置いてから、ますます映画を観るようになったと打ち明けます。
自分の人生が腐っていけばいくほど救いを求めるために映画が必要になったと。
そして、一人で、僕と一緒に観た映画を観直していると、あの頃はずいぶん幸せだったと感じると照れながら話すのです。
別れ際、僕の作品が世に出ることを楽しみにしていると言って龍一と別れます。
『俺たちを救い出してくれよな』と言い残して。
それから僕は大学を卒業して、製薬会社に就職し、初めて人生で安定した時間を手に入れます。
恋人ができ、小説やストーリーを書くこともしなくなった頃、龍一から電話がかかってきます。
どうしてこの番号を知っているのか訝しげに問い質す僕に『お前のオモニから聞いたんだよ』と謝りながら答える龍一。
会話をするのはあの夜以来、二十年近く年月が経っていました。
警戒心を強める僕に、龍一は『映画を観に行かないか?』とポツリと言います。
近所の公民会で『ローマの休日』を上映するから一緒に観ようと誘います。
僕は、そっけなく用事があって行けないと返します。
『そうか……』と消え入りそうな声で電話を切った龍一。
電話の後、たまたま『太陽がいっぱい』の小説を読んだ僕は、ついに執筆活動を始めます。
今度龍一から電話が掛かってきたら、映画とは違って、小説版のリプリーは捕まらないことを教えるつもりでした。
しかし、その後龍一から電話がかかってくることはありませんでした。
映画撮影の現場で永花と再会した僕は、龍一が死んだことを知ります。
永花との間に子供が生まれ、結婚した二人でしたがその後離婚。
龍一の遺品からボロボロになったブルース・リーのブロマイドが見つかり、永花はそれを僕に渡そうと探してくれていたようでした。
僕は龍一を救うため、龍一の物語ーー幸せな物語を書き始めます。
映画篇 を読んだ読書感想
数々の名作映画を織り交ぜながら、ある男たちの友情を描いた『太陽がいっぱい』をご紹介しました。
『映画篇』には5編の短編が収録されており、本作はその一つです。
最後に登場する公民会で上映される『ローマの休日』は、『映画篇』通じてのキーワードで、どの作品にも登場し、同時収録されている『愛の泉』でその謎が解ける仕掛けになっています。
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