【ネタバレ有り】真実の10メートル手前 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:米澤穂信 2015年12月に東京創元社から出版
真実の10メートル手前の主要登場人物
大刀洗万智(たちあらいまち)
主人公。フリージャーナリストとして、全話の事件に関わる。恥ずかしがり屋で無表情だが、自分でも感情が表に出にくいことを気にしている。
藤沢吉成(ふじさわよしなり)
カメラマン。「真実の10メートル手前」に登場。万智とコンビを組み取材に向かう。
都留正毅(つるまさたけ)
週刊深層編集部の記者。「恋累心中」に登場。たまたま近くにいた万智と組んで取材することとなる。
ヨヴァノヴィチ(よ?ぁの?ぃち)
万智の高校時代の亡くなった友人の兄。「ナイフを失われた思い出の中に」に登場。イタリア系企業で働いており、仕事で日本に来たついでに万智と会う約束をする。
大庭(おおば)
万智の大学の後輩で雑貨屋を営んでいる。「綱渡りの成功例」に登場。
真実の10メートル手前 の簡単なあらすじ
フリージャーナリストの大刀洗万智を主人公とした全6話構成の短編集です。「真実の10メートル手前」のみ万智がフリーになる前の話で、その他はフリーとなった後の話となっています。周りから見ると何でそんな事を調べるのかと思えるような事に対しても、万智は記者として真実を追求していきます。
真実の10メートル手前 の起承転結
【起】真実の10メートル手前 のあらすじ①
フューチャーステアの社長早坂一太と妹で広報の真理が失踪しました。
フューチャーステアは急成長を遂げて世間から注目を集めていたもののある事業の失敗が原因で倒産してしまい、世間からはバッシングを浴びていました。
東洋新聞記者の大刀洗万智はかつて早坂真理に取材をした際の公正な取材態度から真理に信頼されており、真理の妹の弓美から相談を受けます。
弓美に昨夜真理から電話があり様子が怪しかったので、録音した通話内容から居場所を突き止めて欲しいという依頼でした。
万智は本社には内緒で個人的に真理を探すことにし、後輩カメラマンの藤沢と共に山梨へと向かいます。
電話内で真理が話した内容から居場所と行動を追っていきます。
ようやく早坂真理が乗っていると思われる車を見つけ、10メートル手前まで近づいて藤沢がカメラを構えますが、万智は車に目張りがされているのを見て真理が自殺を図った思い慌てて車に駆け寄ります。
しかしその時救急車のサイレンが聞こえ、誰かが通報済みだったと安堵します。
しかし、既に手遅れで昨夜のうちに真理は睡眠剤と大量の飲酒、車の排気ガスによる一酸化炭素中毒で自殺したと発表されます。
【承】真実の10メートル手前 のあらすじ②
桑岡高伸と上條茉莉という高校生カップルが自殺しました。
現場の恋累という地名から、恋累心中と呼ばれた事件はさほど大きなニュースも無い時期であったことからワイドショー中心に大きく取り扱われました。
週刊深層担当記者の都留が現地入りすると、編集長から大刀洗万智という記者が近くにいるので協力して取材して欲しいと言われます。
ちょっと癖はあるがキレ者なので上手くやって欲しいと言われ、実際会ってみると確かに手際よく取材準備を整えてくれており都留は感心します。
共に事件現場を確認し、二人に関係のあった教師下滝と春橋へのインタビューを行なった後、別の取材に戻る万智と別れます。
万智は元々政治家や教育委員会に爆発物が送り付けられるという事件の為に一週間程先に現場入りしていました。
都留は知り合いの記者から上條は親族の男に妊娠させられていたようだという事実を聞きます。
桑岡は上條を守ろうと戦ったものの何も出来ず、絶望して二人で自殺することにしたようです。
二人の死因が発表されると、黄燐を服毒した後で上條は刺殺、桑岡は崖から飛び降りて死亡していました。
遺書や集めた証拠から万智なら何かに気づいていたのか気になり会って話しを聞くと、あっさりと察していたと答え、万智は何か考えがあるらしく都留に明日時間を空け共に言って欲しい取材先があると依頼します。
都留は本来なら上條の兄に話を聞きたい所でしたが、万智の頭のキレを信じることにし承諾します。
翌日、高校へ行き下滝が逮捕される場面をカメラに収めることに成功すると万智は種明かしをし、下滝は爆発物の事件の犯人であり学校の理科室から盗んでいた黄燐の量を調整する為に教え子の桑岡と上條の自殺に使わせたということでした。
【転】真実の10メートル手前 のあらすじ③
ヨヴァノヴィチはイタリア系の企業に務めており、仕事で来日した際、かつて妹が日本で友人となった大刀洗万智に会います。
万智は仕事で忙しく、ヨヴァノヴィチは1日自由な時間がある為、万智の仕事に付いて行くこととします。
万智の仕事が記者であり、今は3歳の女の子松山花凜がその叔父にあたる16歳の良和に刺殺された事件を取材していると知ると、ヨヴァノヴィチは露骨に嫌な顔をします。
ヨヴァノヴィチはかつて自国が内戦で焼かれ、記者が世界中から集まってきて偏向報道をし、結論ありきで取材していたという経験がありました。
また公正な取材をした人もいたのですが、その人は不公平だと罵られ破滅させられました。
このような経験からヨヴァノヴィチは記者の仕事を正当化する理由は無く、何故記者などになろうとしたのか理解できないと言います。
万智は回答として良和の手記を見せます。
良和は世話になった姉が花凜により自由を奪われているのに耐えきれなくなり殺したと書いていましたが、良和のオタク趣味が明らかになると世論は性的な目的で殺したのだという方向に向きます。
しかし万智は手記の中に真実に繋がるヒントを見つけ、証拠探しをします。
証拠を見つけた万智の推理では、犯人は良和の父親で良和の姉の部屋に金を盗みに入った所を花凜に騒がれて殺したというのが真相だろうと言うことでした。
ヨヴァノヴィチは万智の仕事ぶりを見て、万智は自身の仕事で罪に苛まれている少年の心を救おうとしていると気づきます。
万智を友とした妹は幸せだったのだろうと思います。
【結】真実の10メートル手前 のあらすじ④
台風12号により発生した水害で孤立した老夫婦戸波夫妻の救出劇は大きな感動を呼びました。
消防団として救出のサポートをしている大庭は、雑貨屋を営んでおり移動販売も行っていることから時々利用してくれる戸波夫妻とも面識がありました。
夫妻は無事救出され、翌日には全国ニュースで取り上げられます。
戸波夫妻は電気も使えなくなった家で三日間も閉じ込められていましたが、食糧が無くなりそうになった時に息子がもしものために置いていてくれたコーンフレークを食べて凌いだとインタビューで答えていました。
大庭は中華料理屋でニュースを見ながらこのコーンフレークは自分が売ったものだと周りに自慢しますが、周囲の反応は冷ややかなものです。
大庭が家に戻ると数年ぶりに会う大学の先輩大刀洗万智が待っていました。
取材で来たという万智は、戸波夫妻救出の場面で消防団の中にいた大庭の姿を見つけたそうです。
戸波家の隣の原口さんは遺体で見つかり、戸波夫妻は正に九死に一生を得たという状況でした。
万智は大庭に頼んで戸波夫妻に取材に行き、コーンフレークはどうやって食べたのか尋ねます。
戸波夫妻は正直に牛乳をかけて食べたと言い、自分の家は電気が使えなかった為に隣の原口家の冷蔵庫を使わせてもらったと話します。
原口さんが生き埋めになっているのに気づいて助けようとしたものの大きな石がゴロゴロとあり、力が弱い戸波夫妻ではどうすることも出来なかったそうです。
仕方なく冷蔵庫だけは借りましたが、戸波夫妻は他人の命を救えず自分達だけが生き残ってしまったという罪悪感にかられていました。
事実を告白した戸波夫妻は最後に大きく息を吐き、万智に話を聞いてもらった礼を言いました。
大庭は万智が戸波夫妻の心境を読み切って取材したのだと思い、取材前にどこまで分かっていたのか尋ねると、万智は今回は運が良かっただけでいつも取材は綱渡りだと答えます。
真実の10メートル手前 を読んだ読書感想
本作は大刀洗万智を主人公とした短編集で、作中で大刀洗万智の高校生時代を描いた「さよなら妖精」に関連する人物も登場します。
名前は出ませんが、さよなら妖精の主人公である守屋路行が登場する「正義漢」では、たまたま電車で出会った万智に守屋が協力して犯人をおびき出すことになります。
さよなら妖精に出てきたマーヤの兄スロボダン・ヨヴァノヴィチが登場する「ナイフを失われた思い出の中に」では、当初万智の取材姿勢に疑問を持つヨヴァノヴィチですが、最後には万智はマーヤから聞いていた通りの人物だったと認めてくれます。
万智は記者として真実を伝えること、公正である事などを念頭に置きながら取材を進めていきます。
しかし時には失敗もあるようで、知らなければ良かったと思うような悲しい真実を暴いてしまったり人から蔑まれるような経験もしているようです。
それでも人の心を救ったり、助けを求める小さな声を拾う事もあるので、共に行動した人達からは感心されたり尊敬されたりしています。
万智はなかなか本心を語らずコンビにも取材の意図を説明せずに勝手に進めていくような所がありますが、これは昔からの癖のようなものです。
さよなら妖精でも周りにはあまり説明しなかったもののマーヤの母国にはいち早く気づいており1人苦しんでいたということがありました。
さよなら妖精を読んでみると、本作をより一層楽しめると思います。
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