【ネタバレ有り】泳ぐのに、安全でも適切でもありません のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:江國香織 2002年3月に集英社から出版
泳ぐのに、安全でも適切でもありませんの主要登場人物
葉月(はづき)
小説家として生計を立てている。無職で酒飲みのろくでもない男と同棲中。高齢の祖母が入院したと聞き、病院に駆け付ける。
薫(かおる)
葉月の妹。コンピューターのプログラマー。二年間イギリス人男性と結婚していたが離婚。現在は結婚せず彼氏と住んでいる。
母親(ははおや)
葉月と薫の母親。夫は二十年前に亡くなり、女手一人で姉妹二人と祖母の面倒をみてきた。
祖母(そぼ)
葉月と薫の祖母。九十三歳。肺炎になり現在入院中。
泳ぐのに、安全でも適切でもありません の簡単なあらすじ
小説家として生計を立てている葉月は、無職で酒飲みでぐうたらな男との同棲生活をかれこれ五年続けています。財布から勝手にお金を抜き取られる度に捨ててやると毒づく葉月ですが、体の相性がすこぶる良く、未だに別れることができません。九十三歳になる祖母が病院に運ばれ、お見舞いに駆け付けた葉月は、久しぶりに母親と妹と再会します。
泳ぐのに、安全でも適切でもありません の起承転結
【起】泳ぐのに、安全でも適切でもありません のあらすじ①
午前七時に妹からの電話を受けた葉月は急遽病院に向かうことになります。
九十三歳になる祖母が肺炎で入院したというのです。
体が丈夫なことが自慢の祖母でしたが、年齢が年齢だけに、いよいよ危ないかもしれないと覚悟を決めて車を走らせます。
そして、祖母はもう十分生きたのだから感傷に浸ることはないと自分に言い聞かせます。
鎌倉の病院までは道が混んでいたこともあり、到着したのはお昼近くになっていました。
こんな事態でも葉月は冷静で、家を出掛ける前に同棲相手とセックスをしたり、車で向かっている途中、マックに寄ったり、病室を訪ねる前に煙草を吸ったりしました。
祖母が入院している病棟は老人ばかりで、病院というより老人ホームのような雰囲気です。
葉月は、元気だった頃の祖母の思い出を頭から締め出し、ベッドに寝ているのは、老いて休息を求めている物体で、祖母とは別人だと思い込もうとします。
祖母が寝ているベッドを先に到着した妹の薫と母親が祖母を取り囲んでいました。
【承】泳ぐのに、安全でも適切でもありません のあらすじ②
祖母は酸素マスクをつけられ、体のあちこちにチューブをつながれてベッドで寝かされています。
動かない祖母を見て、葉月は『生きてるの?』と横にいる母親と妹に聞きます。
妹は『生きてる』と答え、母はもっと別な言い方はできないのかと眉を吊り上げます。
祖母は二回りも小さくなって、なんだか干からびたように思えますが、それもでそこにいるのは葉月の知っている「ばばちゃん」なのでした。
ぱっちり目を開いてこちらを見ている祖母。
しゃがんで視線を合わせると、ゆっくりとうなづき返してくれる様子を見て、思わず『元気そうじゃないの』と驚いてしまいます。
重病人なので、この感想はとんちんかんなものでしたが、目の前にいるのは紛れもなく、自分が知っている「ばばちゃん」で、別の物体なんかではありません。
酸素マスクをしている祖母を、薫は『からすとんびみたいでしょ』と冗談交じりにからかいます。
祖母はちゃんと生きていると安心した葉月でしが、医者の見立てでは、祖母はもう退院できず、その日が来るのは避けられないことであるのは間違いないとのことでした。
【転】泳ぐのに、安全でも適切でもありません のあらすじ③
とりあえず一命をとりとめた祖母に安心した葉月は、部屋で寝ているであろう一緒に住んでいるひもの男に電話をかけます。
第三者に祖母が生きていることを伝え、大好きなばばちゃんの奇跡を実感したかったのです。
しかし、男は出掛けているようで電話に出ません。
諦めて電話を切った葉月は、財布のお金がなくなっていることに気が付きます。
犯人はわかっています。
一緒に住んでいる男です。
お札の抜き取りは初めてではなく、やられる度に別れてやると毒づくのですが、結局なあなあになり付き合い続けていました。
怒りを鎮め病室に戻ると、祖母は酸素マスクを外されていました。
驚異の回復力です。
祖母の意識ははっきりしており、手を握れば握り返し、笑いかけると微笑み返してくれます。
母が持ってきていた小さなホワイトボードに『苦しかった?』だの『こんにちは』だのと書いてみると、時間をかけてゆっくりと読み、首を横に振ったり、縦に振ったりしました。
薫はどうしてだか、子供っぽい字で大きく『ばばちゃん』と書き、祖母はにっこりして、薫の手をポンポンとたたきました。
【結】泳ぐのに、安全でも適切でもありません のあらすじ④
祖母は短いやりとりを交わした後、疲れたのか眠ってしまいました。
葉月たちは病院の外へ遅いお昼ご飯を食べに出掛けます。
鎌倉にある病院を出て路線バスに乗り、海が見える高台のレストランで乾杯をしました。
家族で外食するのは久しぶりです。
五分に一度は笑い声を上げる三人は、到底死に瀕した近親者を見守る者にはみえません。
白ワインで乾杯し、サラダやパスタ、オニオンリングをつつきながら、お互いの近況を語り合います。
薫は、相変わらずクレオパトラのような奇抜な髪型をしていて、葉月は歳のわりに短いスカートをはき、髪にはたくさんメッシュを入れています。
個性的な恰好の二人ですが、幼い頃に母が手作りした家族お揃いの水着にはかなわないと、お決まりの話を持ち出します。
葉月も薫も現在結婚しておらず、彼氏はいるものの、飲んだくれのひもだったりするので、母親は呆れ気味です。
そして、夫は最高のパートナーだったとのろけ話を始めます。
葉月たちの父親は二十年前に亡くなっており、母は以来女手一人で姉妹二人と祖母の面倒をみてきました。
薫は『ところでからすとんびって何?』と頓狂な質問をしてきたりします。
馬鹿馬鹿しい質問にまた笑いだしてしまう葉月たち。
祖母が一命をとりとめたいうこととと、じきに死ぬという事実両方が三人を陽気に高揚させていました。
泳ぐのに、安全でも適切でもありません を読んだ読書感想
死をテーマにしていながら、重苦しい雰囲気が一切ないの不思議な話です。
「泳ぐのに、安全でも適切でもありません」という一文は、作中に登場します。
アメリカ旅行の途中で田舎の川べりに立っていたとして、『私たちの人生に、立てておいてほしい看板』として紹介されています。
祖母の死期が近いことを悟りつつ、まだ到底死なないと信じてみたり、無職で酒飲みで財布からお金を盗るどうしようもない男を愛していたり、人生は矛盾ばかりです
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