【ネタバレ有り】夜の国のクーパー のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:伊坂幸太郎 2012年5月に東京創元社から出版
夜の国のクーパーの主要登場人物
僕(ぼく)
主人公。仙台に住んでいた。妻の不貞が原因で家庭環境が悪化している。一人で小舟に乗って釣りに出たところ遭難し、トムの国に迷い込む。
トム(とむ)
人間の言葉を話す猫。草むらで僕と遭遇し、自分の国に起きていることについて相談する。
片目の兵長(かためのへいちょう)
トムの国の隣である、鉄国から来た兵士。
夜の国のクーパー の簡単なあらすじ
主人公である僕は、目を覚ますと見知らぬ草むらの中で、蔓に縛られた状態で目を覚ましました。困惑していると、一匹の猫が胸の上に載ったのでした。僕の困惑はこの後、さらに大きいものに変わります。胸の上に座った猫が、人間の言葉でしゃべり始めたのでした。そして猫は、こういいます。「ちょっと話を聞いてほしいんだけど」僕は驚きを隠せませんでした。唖然としている僕を尻目に、猫はこう続けます。「僕の国でいろいろなことが起きた、戦争が終わったんだ」僕は不思議な猫が語る、不思議な国の話に耳を傾けるのでした。そして、世界が隠していた秘密に触れることになるのです。
夜の国のクーパー の起承転結
【起】夜の国のクーパー のあらすじ①
僕は仙台に住む公務員で、趣味である株や釣りをして平穏な生活を送る、ごく普通の男性でした。
ある日妻の不貞が発覚し関係がぎくしゃくしてしまいます。
家に居づらくなった僕は、小舟で釣りに出かけます。
すると突然の天候悪化で遭難してしまうのでした。
目を覚ますと、僕は草むらの中で蔓に縛られていました。
混乱する僕の前に、子猫のように小さな灰色の猫が現れます。
すると猫は、僕の胸の上に腰掛けました。
そして人間の言葉で、僕に話しかけたのでした。
猫が喋ることに驚愕を覚えずにはいられませんでしたが、すべて現実の出来事で受け入れざるを得ません。
トムと名乗った不思議な猫が語る話もまた、不思議なものでした。
トムの住む国の隣には鉄国という大国があります。
鉄国との8年にも及ぶ戦争が終わり、トムの国が支配されることになってしまったのです。
支配するために、鉄国から兵士が送られてきたのでした。
兵士たちを率いている片目の兵長は、国王を住民の皆の前で撃ち殺します。
良き王を失い、絶望が住民達に暗い影を落としたのでした。
また、トムは僕に、彼らの国に伝わるクーパーという動く巨大な杉と、それを刈るクーパーの兵士についても語るのでした。
戦争の話と、クーパーの兵士の話を、動けない僕はただ聞くほかありません。
トムの周りで起きた、バタバタとした出来事は、戦争だけではありませんでした。
トムたち猫は、猫であるが故に、ネズミを襲います。
しかし、国が鉄国の兵士に支配された1日目に、トムがネズミの仕掛けた罠に捕らえられてしまいます。
その時、ネズミはトムに、自分たちを襲わないように頼むため、猫を捕まえたというのでした。
トムはそれまでネズミが喋れるなど考えてもみませんでしたが、ネズミの言葉を聞き考えを改めざるを得なくなります。
けれども、トムはすぐにネズミを襲わなくする約束は結べず、交渉は後日に持ち越されます。
【承】夜の国のクーパー のあらすじ②
さらにトムは、僕に国の様子について語り続けます。
支配された翌日、トムはクーパーについて片目の兵長から尋ねられたという住民の話を聞きました。
クーパーを倒すために、クーパーの兵士が集められていましたが、10年前からクーパーが現れなくなったことにより、現在は募集されなくなっていたのです。
住民たちの会話を聞きいた後、トムは仲間の猫たちに、ネズミとの一件について相談するのでした。
そして、トムがネズミと話す代表になったのです。
待ち合わせ場所である倉庫に向かうと、ネズミ達のまとめ役である、中心のネズミがいました。
会話の途中で外から大きな物音と、鉄国の兵士が殺された、という声が聞こえてきました。
トムが広場に向かうと、すでに住民が集まっています。
中心の台の上には、片目の兵長が鉄国の兵士の死体を抱えて、犯人は誰かと住民に問いかけました。
もちろん名乗り出る者はいません。
緊張に包まれた広場で、兵長は犯人と思しき人物の名を密告するように促したのでした。
住民の不安が強まります。
暗澹たる雰囲気の中、男性医師の娘が毒をもつ黒金虫という昆虫を毒に加工して兵士に飲ませるという提案をします。
早速、準備を始めた医者でしたが、彼の友人の男性が兵士に連れていかれてしまったのです。
トムは連れていかれた男性の後を追いかけますが、男性のいる屋敷に侵入できません。
中の様子を探るために、トムは近くにいたネズミを利用するのでした。
中の様子を探ったネズミ達は、ある提案をします。
猫ができないこと、やりたくないことをやる代わりに自分たちを襲わないでほしいというものでした。
けれども、トムにはすぐに返事ができません。
中の様子を少しでも知りたかったトムは、ネズミから情報を聞き出すのでした。
ネズミが言うには、片目の兵長はこの国は鉄国に比べて圧倒的に小さいといったそうなのです。
さらに情報を得ようとしましたが、それはかないませんでした。
【転】夜の国のクーパー のあらすじ③
住民の男性が連れ去られた後、医師とその仲間は、毒を盛って鉄国の兵士に反撃を開始するのでした。
トムもこの作戦を見届けるべく、屋敷に向かいました。
屋敷の前で、中心のネズミに話しかけられます。
先を急ぐトムを意に介さず、ネズミは話を続けます。
最終的な提案として、あえて襲わせるネズミを、ネズミ側が提供するというものでした。
トムはこの提案に答えあぐねていると、片目の兵長の声が聞こえてきます。
人の声に驚いたネズミは、姿を消してしまったのでした。
トムも屋敷の中に入り、作戦の成り行きを見守ります。
結局、国王の息子が裏切り、作戦は失敗するのです。
その時、また更なる住民が連れてこられたのでした。
彼は心優しい青年で、兵長にクーパーの兵士について聞かれた人物でもありました。
兵長は驚愕の事実を伝えます。
クーパーは存在しないというのです。
クーパーの存在は、トムの国の猫をも含む住民にとって常識のものでした。
すると青年は、馬を奪ってクーパーの元に向かおうとします。
この混乱の際にトムは、兵長によって外に放り出されてしました。
この時、青年が奪おうとして暴走した馬の荷台に入り込んでしまうので。
そして、しばらく走り続けた馬を降りた先で、遭難した僕に出会います。
僕にこれまでのことを話し終えたトムは僕に、一緒に国に戻って、これからやってくる50人ほどの鉄国の兵士を追い払ってほしいと、頼むのでした。
了承した僕は、トムと共に国に戻ります。
国に近づいたとき、僕とトムは一度分かれ、トムは国に戻っていきました。
トムが戻ると、住民代表として心優しい青年と、鉄国の代表として国王の息子が、決闘をすることになっていたのでした。
そして、決闘が始まります。
結果は住民側の勝利です。
誰も勝てると予想していませんでした。
片目の兵長が国王の息子の武器に細工をしていたのです。
すると彼は、住民に向かって、実は自分はこの国の味方なのだ、と言ったのでした。
【結】夜の国のクーパー のあらすじ④
すべての真相はこのようなものでした。
片目の兵長をはじめとする、鉄国の兵士達はクーパーを退治するために、国を出たクーパーの兵士だったのです。
さらに、トムの国は鉄国に対して50分の1ほどの大きさしかない、小さな国だったのでした。
また、クーパーについても真相が隠されていたのです。
クーパーの兵士とは、鉄国が利用するための人員だったのでした。
片目の兵長は毎年クーパーの兵士を鉄国に連れていく役割でしたが、当時の鉄国は人員を特別欲しておらず自分がしていることに疑問を感じたのです。
ですが、当時王だった兵長に殺された王は、鉄国からの自分に対する評価が下がることを恐れ、クーパーの兵士を送り続けました。
まるで、トムに自分たちを襲わないように願うネズミのように。
さらに国王は、生きているクーパーの兵士を殺してでも、真実を隠すことにしました。
しかし、住民に対しては脅威から国を守る良き王を演じていたのです。
兵長から、隠されていた真実が次々と語られていきます。
そして、本物の鉄国の兵士が近くまで迫っていることを住民に話すのでした。
兵長たちが戦いを始める前にトムは動きました。
僕と別れた際、トムは自分が合図したら、鉄国の兵士の前に現れるように頼んでいたのです。
そして、合図が放たれました。
僕は兵士を追い払います。
さて、僕はただの中年男性です。
なぜ屈強な兵士たちを追い払えたのか、それは僕以外の動物すべてが小さかったのです。
僕は、トムを見ていて猫も人も小さいのでは、と薄々勘づいていたのでした。
トムを不思議な猫だと感じていたのは、人の言葉をしゃべるだけでなく大きさが普通の猫よりずっと小さいからでした。
突然現れた巨人に恐れをなした兵士は、逃げていきます。
すべてが解決し、国に平和が戻ってきました。
後日僕は、遭難した際に乗っていた小舟を発見し、考えます。
妻との関係もちゃんと心の真相を見つめれば、やり直せるのではないかと。
夜の国のクーパー を読んだ読書感想
夜の国のクーパーは、「知る勇気」がメインテーマの作品ではないかと、私は考えます。
トムの国には隠し事がたくさんありました。
クーパーにせよ、国王の本性にせよ、きっと片目の兵長がアクションを起こさなければずっと真相を知らない、世間知らずのファンタジーな国だったでしょう。
しかし、片目の兵長は、知る勇気をもって真相を打ち明けたのでした。
また、猫に語り掛けたネズミも、知る勇気をもって歩み寄った結果、猫と会話をすることができました。
さて、真相から目を背けているのは、僕も同じです。
彼がそもそも、遭難したのは、小舟で沖に釣りに出たからでした。
この時の彼の家庭環境は良いものではありません。
釣りは彼にとって現実逃避の手段だったのでした。
妻が浮気した理由は、自分が妻の心に目を向けなかったからだと考えています。
確かに、人の心ほど知る勇気を持たねば、真相を知りえないものはありません。
知ろうとすることとは歩み寄ることと同義です。
作中でネズミ達も、「自分たちを脅威から守るために、猫のほうに歩み寄った。」
という場面があります。
歩み寄らなければ言葉を交わすこともできません。
僕が無事仙台に帰り着いたら、知る勇気をもって妻の心と向き合えればいいなと、思います。
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