【ネタバレ有り】笑えよ のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:工藤水生 2012年3月にメディアファクトリーから出版
笑えよの主要登場人物
柏木 葉(かしわぎ よう)
本作の主人公である女子高生(2年)。クラスメイトで同じ予備校に通う橋立、仲平と、あるきっかけから交流を深めることになる。中学時代は美術部に所属していたが、高校では帰宅部である。
橋立(はしだて)
主人公のクラスメイト。同じ予備校に通う主人公らの中では一番成績が良い。性格は穏やかである。背は高いが運動は苦手。彼が抱える思いを中心に物語が展開する。
仲平(なかひら)
主人公のクラスメイト。明るく、そこそこイケメンで、よく告白されているが、すべて断っている。1年のときは誰から告白されても受け入れていたそうだが…。
高橋 かすみ(たかはし かすみ)
主人公のクラスメイトである女友達。色恋沙汰の情報に詳しい。
南(みなみ)
主人公のクラスメイト。お調子者的キャラである。40代の女性と付き合っているとの噂がある。
笑えよ の簡単なあらすじ
葉の通う予備校には、同じクラスの橋立、仲平がいる。お互いに特段交流を持たない3人だったが、ある日、葉は予備校で橋立が仲平の席に座り、机の天板を撫でる姿を目撃する。橋立の気持ちが気になった葉は、勉強を教えてもらいたいという口実から橋立に近づき、3人の関係性は徐々に変化していく。
笑えよ の起承転結
【起】笑えよ のあらすじ①
葉は1年の時から予備校に通っています。
同じ学校では橋立、仲平という男子生徒が同じ予備校ですが、2人とは2年で同じクラスになってからも、まともに話したことはありません。
ある日、予備校の講義が終わり帰る途中で忘れ物に気づき教室に戻った葉は、橋立が仲平の席に座り、机の天板を撫でている場面を目撃します。
橋立は無表情でしたが、その目には切ない感情が浮かんでいました。
それは普段穏やかな橋立から見たことのない表情でした。
橋立が仲平のことを好きなのではないかと思った葉は、純粋な興味から、また、あの時の橋立の表情をもう一度見たいという思いから、橋立を観察し始めます。
しかし、普段の学校生活では、橋立が仲平を目で追うといった、葉の仮説を裏付けるような橋立の行動は見られません。
かすみから偶然、「仲平が放課後、1年の女子に呼び出されている」ことを聞いた葉は、勉強を教えてほしいと橋立に話しかけ、一緒に図書室へ向かいます。
ちょうど女子に告白されている場面を葉と一緒に目撃する橋立。
口を固く結んだ表情から、葉は橋立が仲平を好きということを確信します。
その後、葉は定期的に橋立に勉強を教えてもらうことになります。
一方で、かすみから「中学で美術部だったときの葉の絵を見たことがあり、葉に会いたいという人がいる」と言われ、かすみの彼氏と、彼(おさだくん)とWデートすることになった葉。
その絵は、葉が他の美術部員を鉛筆でデッサンした、いわば戯れに描いた作品でしたが、応募したコンクールに入賞してしまいました。
その被写体となった(本気で入賞を狙っていた)部員から、入賞後に嫌がらせを受け、部活を辞めます。
その絵に衝撃を受けたというおさだくんから向けられる好意のまなざしが、嫌がらせを受けた部員からのまなざしと重なって見えてしまいます。
自分にとって好意と嫉妬や憎しみが同義なのだろうかと思いながら、デートからの家路につくのでした。
【承】笑えよ のあらすじ②
橋立のことが気になる理由について、「自分が人を好きになったことがないから」だと思い至った葉。
また、美術部での件以降、好意か悪意かにかかわらず「見られる」ことを厭うようになった葉にとって、自分を恋愛対象として見られる可能性のない橋立には安心して近づけるということもありました。
橋立の仲平を見る目には、恋が成就しないという諦めがあり、期待というものが全く入っていないように思えました。
唐突に、葉は次の模試に向けて、仲平も誘って3人で勉強会をすることを思いつきます。
仲平に話すと、あっさり了承してくれました。
勉強会の帰り道、話の中で、仲平がスポーツ特待生で入学していたことが判明します。
しかし、仲平は今、部活に入っていません。
ただ、かすみによると、陸上の大会には助っ人として参加して好成績を収めているようです。
模試が終わったあと、葉と橋立と仲平は、3人で集まり自己採点を行います。
その帰り道、仲平が現在部活に入っていない理由は、入学直前の交通事故で足を怪我したことによるものだと打ち明けられます。
特待は取り消されず、また、リハビリの結果、大会には参加できるようになりましたが、普段からハードな部活動を行うことは禁止されているということでした。
仲平と別れ、途中まで帰り道が一緒の橋立にケガのことを知っていたか問うと、「体育のときに、いつも右足にサポーターをしていたのは知っていたが、陸上用のものだと思った」と答えました。
その言葉から、いつも橋立が仲平を気にしていることが窺え、葉は橋立の思いの深さを改めて知ることになりました。
【転】笑えよ のあらすじ③
季節は冬になりました。
3人はいつのまにか、予備校から駅までの道を一緒に帰るようになっていました。
今年は花火をせずに終わったという葉と仲平に、橋立は近いうちに花火をすることを提案します。
次の週、雪が積もる中で花火をする3人。
仲平から花火を受け取った際に手がぶつかった葉は、仲平が身体ごと手を引き、目を見張っていたことに違和感を覚えます。
その後は仲平も普通に振る舞い、花火を続けます。
ある日の予備校の帰り、もう少し3人で勉強をしようということになりましたが、よく行くドーナツ店では最近、勉強していると店員の目が気になります。
逡巡しながらも、仲平が、自分の家で勉強することを提案します。
仲平は特待での高校入学という親からの条件を達成し、一人暮らしをさせてもらっているのです。
仲平の家に入ると、さまざまなアニメのポスターが飾ってあります。
アニメが好きなのかと葉が問うと、仲平は「好きになれたらいいなと思って」と答えます。
勉強がひと段落したころ、仲平は、事故以来、生身の人間に触れることがだめになってしまったと打ち明けます。
1年のころは告白されて何人かと付き合ったが、手を繋いだ時の体温が怖く感じてしまう。
アニメなら大丈夫かと思ったが駄目だった。
苦笑いしながら話す仲平に、葉は橋立の顔を見ずに「男子は?」と聞きます。
仲平も橋立の顔を見ないままで「駄目なんだ」と答えました。
そっと橋立の顔を見た葉は、橋立の目が、前に予備校で見たときと同じ切ない色を帯びていることに気づきます。
【結】笑えよ のあらすじ④
仲平の家からの帰り道、橋立は、「以前、腕相撲をする男子を、仲平が離れた場所から苦い顔をして見ていることに気づいた。
普段クラスで輪の中心にいるのに、そんな顔をするのだと思い、その顔がずっと頭に残っていたが、今日、理由が分かった」と葉に話します。
それを聞き、これは想いの告白だと感じる葉。
その表情に橋立が惹かれたのであれば、仲平が人と触れ合えないからこそ橋立が仲平を好きになったということになり、彼の思いの報われなさを痛感します。
その後も3人は、放課後などによく一緒に勉強していました。
葉はある日、橋立から、放課後に話があると言われます。
彼の話とは、「女の人を好きになれない」というものでした。
葉は「知ってたよ」と答えましたが、「仲平が好きなんでしょう」とは聞きませんでした。
翌朝、葉が登校すると、昨日の話を聞いていたらしいクラスメイトの南から「橋立は男が好きなんだってな」と言われます。
かっとなった葉は、噂に聞いていた「南が40代の女と付き合っている」という話を始めます。
南に突き飛ばされる葉。
入口の方を見ると、橋立が立ち尽くしていました。
彼の腕を引き公園にやってきた葉。
雪合戦を提案する葉ですが、最初の雪玉を橋立にぶつけたところで、涙が止まらなくなってしまいます。
橋立と雪に寝ころびながら、葉は橋立と仲平のことが恋愛感情ではなく、純粋に好きだと感じます。
仲平も呼び、3人で改めて雪合戦を始めます。
負けてしまった橋立がジュースを買いに行く間、仲平は葉に「橋立が自分のことを好きなのかもと思っていた。」
と打ち明けます。
「橋立を「『そういう意味』で好きになれたら、まだ楽になれるのに」と言う仲平に、葉はかける言葉を見つけられませんでした。
橋立が買ってきた飲み物を飲みながら、橋立や仲平が抱えていることも、何年かすれば「たいしたことではなかった」と思えるかもしれない、そう思いたいと考える葉でした。
笑えよ を読んだ読書感想
「同性を好きなクラスメイト」である橋立に主人公が声をかけることから物語が展開していき、また、そのことが本編全体を通して重要な要素であることは間違いありませんが、葉や仲平も、それぞれに悩みを抱えています。
結果として橋立の仲平に対する恋愛感情が成就するわけではありませんが、3人が不器用ながらも対話や悩みの共有を通して絆を深めていくところは、誰しも経験があり、また、懐かしく思うのではないでしょうか。
純粋に人を思うことの尊さが本作の大きなテーマだと思いますが、登場人物それぞれの不器用さ、残酷さ、そして優しさが胸に迫ってきました。
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