【ネタバレ有り】グラビアの夜 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:林真理子 2007年5月に集英社から出版
グラビアの夜の主要登場人物
高橋晃洋(たかはしあきひろ)
主人公。青年誌のグラビアページを担当する編集者。
岡崎龍平(おかざきりゅうへい)
ヘアメイクスタイリスト。シングルマザーの美容師に育てられる。
中原リエ(なかはらりえ)
現役女子高生モデル。サラリーマンの父と妹との3人暮らし。
グラビアの夜 の簡単なあらすじ
編集者としてグラビア撮影の現場を仕切るはずの高橋晃洋が何処か上の空なのは、近々出版社の中途採用試験を受けるからです。この仕事に遣り甲斐を感じているスタイリストの岡崎龍平でしたが、自身の秘密を郷里の母にだけは打ち明けることが出来ません。モデルの中原リエは具合が悪いながらも何とかこの撮影だけは乗り切るつもりで、それぞれの思惑が交錯しながらグラビアの夜は始まっていくのでした。
グラビアの夜 の起承転結
【起】グラビアの夜 のあらすじ①
高橋晃洋は栃木県宇都宮市で生まれて、裕福な歯科医師の父親とロマンティストな母親に育てられました。
高校生になると晃洋にとって読書は欠かせないものとなり、早稲田大学文学部文芸専修へ進学します。
大手出版社に就職して有名作家の本を手掛けるのが彼の夢でしたが、現在の勤め先は青年コミック誌のグラビア班です。
「ヤングエース」は累計発行部数が50万部を越える売れ行きが好調な週刊誌になり、経費も使い放題で編集長も余りうるさいことは言いません。
今夜も中原リエというモデルの水着撮影を担当していますが、晃洋が考えているのは2日後に受けることになる有名出版社の中途採用試験のことでした。
書類選考も通って一次面接も受かったために、後は最終の社長面接に臨むだけです。
この3年間自分の意にそぐわない仕事をしてきましたが、晃洋はここでくすぶっているつもりはありません。
この「グラビアの夜」から逃げて、憧れの小説家たちと酒を飲むことを夢想しています。
【承】グラビアの夜 のあらすじ②
岡崎龍平が自身のことを性的マイノリティだと意識し始めたのは、小学4年生の頃からでした。
出身地は静岡県の田舎町であるために、なかなかカミングアウト出来ません。
幼い頃に離婚して女手一つで息子を育てる母親は地元でも有名な美容室を切り盛りしているために、龍平も新宿の美容専門学校へ進学します。
上京してからは堂々と同性のパートナーとお付き合いをして、ヘアメイクスタイリストとしても順調です。
今夜の現場は担当編集者である高橋晃洋が今一度やる気がないのと、モデルの中原リエが控え室に閉じこもったままなのが気掛かりでした。
ようやく出てきたリエの髪型を整えてにメイクを施そうとしましたが、突如として嘔吐してしまいます。
リエが妊娠していることを悟った龍平が思い浮かべてしまったのは、「早く孫の顔が見たい」という実家の母の言葉です。
今の仕事は大好きでしたが、普通の結婚をして普通の家庭を築くことだけは龍平には出来そうにありません。
【転】グラビアの夜 のあらすじ③
中原リエの母親は彼女が小学5年生の時に離婚して、幼いふたりの娘を置いたまま家を出て行ってしまいました。
ごく平凡なサラリーマンの父親に育てられたリエが芸能界にスカウトされたのは、高校2年生の時で場所は渋谷です。
登録制のモデルで仕事がある時だけ撮影に行くというシステムで、アルバイト感覚で学業と並行して続けることができます。
スタジオで出会った大手出版社の編集者と交際し始めたリエは、ある時にメイクルームで体調不良に襲われました。
無理をして撮影を続けますが遂には下腹部から出血が見られたために、救急車で病院へと搬送されます。
リエに付き添ってくれたのは、文学青年崩れでグラビアアイドルが嫌いとの噂もある編集者の高橋晃洋です。
晃洋は救急車の中でもずっとリエの手を握りしめてくれて、「こんな仕事のために、体をいためるんじゃない」と涙を流します。
切迫流産を処置して退院したリエはお礼を言いに行きますが、既に晃洋は会社を辞めた後でした。
【結】グラビアの夜 のあらすじ④
最終面接から4日後、高橋晃洋は人事部長から電話を受けたためにヤングエースを退職しました。
新しい会社では「月刊ノベルライフ」という雑誌の編集部に配属され、文芸編集者としてのスタートを切ります。
全てが順風満帆だった晃洋に突如として心療内科の医師から告げられた病名は、「環境に順応しようとするあまりに起こる心の病」です。
勤め先に辞表を提出して実家で無為な日々を送っていた晃洋に、中原リエからのメールが届きました。
自分のために泣いてくれた晃洋のお陰で、リエは今でもまだグラビアの仕事を続けているようです。
「スタジオで待っています。」
の1文で締めくくられたメールを読んだ晃洋の再就職先は、以前の職場よりも遥かに部数の少ないコミック誌の「週刊アタック」です。
初仕事は六本木にある1時間2万円の中級スタジオで、カメラマンもスタイリストも中級、モデルは中級以下。
モデルがバスローブを脱ぎ捨てて水着姿になった時、晃洋のグラビアの夜は幕を開けるのでした。
グラビアの夜 を読んだ読書感想
スタジオでスポットライトを浴びるグラビアアイドルばかりではなく、ヘアメイクアップアーティストから編集者までの裏方仕事までが丁寧に描かれていて面白かったです。
「ここは俺の居場所ではない」と不平不満たらたらな高橋晃洋に対して、「このグラビアの仕事が好き」ときっぱりと言い切る岡崎龍平とのコントラストが印象深かったです。
身重の身体を引きずってまでカメラの前に立ち、顔のない無数の読者たちを満足させる中原リエの健気さには胸が痛みました。
それぞれが人生の転機を迎えながらも、小さな一歩を踏み出していくラストが心地良いです。
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