【ネタバレ有り】手のひらの京 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:綿矢りさ 2016年9月に新潮社から出版
手のひらの京の主要登場人物
奥沢綾香(おくざわあやか)
奥沢家の長女。図書館司書。
奥沢羽依(おくざわうい)
奥沢家の次女。 大手電子メーカーの一般職。
奥沢凛(おくざわりん)
奥沢家の三女。 大学院生。
奥沢蛍(おくざわほたる)
姉妹の父。 会社員。
宮尾俊樹(みやおとしき)
羽依の上司。 綾香の恋人となる。
手のひらの京 の簡単なあらすじ
京都市内の一軒家で暮らしている奥沢家の3人姉妹は、それぞれが小さな秘密を抱えています。長女の綾香は30歳を過ぎてから結婚に焦り始めていて、次女の羽依は職場での人間関係について思い悩んでばかりです。三女の凛に東京への就職話が降って湧いてきたことによって、 それぞれの人生に静かな旅立ちが訪れることになるのでした。
手のひらの京 の起承転結
【起】手のひらの京 のあらすじ①
奥沢綾香が働いている図書館の利用客は新聞目当てにやって来る高齢者や子供を連れた主婦ばかりで、同世代の異性と会話を交わす機会がありません。
もともと綾香はのんびりとした性格でしたが、27歳の時に大学生の頃から付き合っていた彼氏と別れてからは得体の知れない不安を感じるようになっていきます。
31歳になった今では妊娠や出産を扱った本を借りて貪るように読むようになり、夜も眠れないほどタイムリミットに焦る毎日です。
ある時に妹の羽依から、彼女の職場の上司である宮尾俊樹を紹介されました。
39歳になる宮尾は180センチ近くの長身で、会社での仕事も信頼を集めています。
初めてのふたりっきりのお出掛けでは、京都市役所前からバスに乗って祇園界隈で食事をするといった無難なコースです。
それ以後もデートを繰り返しながらもなかなか進展がなかった綾香と宮尾でしたが、元日の夜に渡月橋の下を流れる桂川を一緒に見たふたりはようやく恋人同士となるのでした。
【承】手のひらの京 のあらすじ②
奥沢羽依は京都駅前に本社を構える須田電子へ入社して、指導役として新人研修に参加していた前原智也と深い仲になりました。
会社中の独身女性が狙っている前原との交際はふたりだけの秘密のはずでしたが、いつの間にか社内に広がってしまいます。
羽依を待っていたのは京都では伝統的に「いけず」と呼ばれている、先輩社員たちからの陰湿ないじめです。
更には別れたはずの前原からもストーカー行為を受けるようになり、羽依はすっかり精神的に参ってしまいました。
羽依にとって唯一の慰めは、同じ社会人1年目で心優しい梅川と親しくなったことです。
梅川との付き合いは順調そのもので、会社の終わりや休みの日になるとふたりで楽しいひと時を過ごすようになります。
そんな梅川との関係も、半年ほどしか続きません。
羽依は心配して電話をしてきた妹の凜に対しては「べつにいつも通りやで」と明るい声を出しながらも、このままではいけないと今までの自分を変えることを決意しました。
【転】手のひらの京 のあらすじ③
奥沢綾香は関東地方での就職を考えていましたが、両親や実家暮らしを続けている姉たちには一向に打ち明けることが出来ません。
夏休み期間に入ってからも自らの進路について思い悩みつつ、ラボでの研究も続けなければならないために大忙しです。
いつものように作業を一通り終えた後に、凛は教授室に呼ばれました。
食品関係の会社を就職先に希望していた凛は、教授からお菓子メーカーの研究職に推薦されます。
さっそく父親の蛍と母に入社案内のパンフレットを見せましたが、東京都内にある企業への採用をふたりは喜ぶ素振りも見せません。
元来奥沢の家は保守的なところがあって、父も母も幼なじみで親戚一同もほとんどが京都の人間です。
上京を反対されてしまった凛は家を飛び出して、 自転車に乗ったまま行き先も決めずに走り出します。
北大路橋にまでたどり着いて橋の真ん中で自転車を止めた凛は、川に浮いていたものを手のひらで掬い上げたようなこの都を眺めていました。
【結】手のひらの京 のあらすじ④
採用の証である内定通知書を凛がリビングのテーブルの上に置くと、ようやく母ははしゃいだ様子で祝いの言葉を送りました。
念願の東京に行ったからといって遊び回らないこと、お正月には京都に帰ってくること、身体には気をつけること。
3つの言い付けを守ることを凛は誓い、心配そうだった蛍も最終的には笑顔で東京へ送り出してくれます。
独り暮らしを始めてからの凛の毎日は忙しく、引っ越しの後片付けから入社式に研修期間中に行われるグループワークと息つく暇もありません。
ふたりの姉はそれぞれの恋愛事情を、頼んでもいないのにメールで逐一報告してくれました。
懲りない羽依が出逢っては別れてを繰り返している一方で、綾香と宮尾は順風満帆で結婚式の準備を進めています。
ただひとつの不安は、蛍に前立腺ガンが見つかり来月に手術を受けることです。
父の病気については深く考え過ぎないように努めながら、凜は自らが選んだ道を自分自身を励ましながら歩いていくのでした。
手のひらの京 を読んだ読書感想
性格から価値観がまるっきり異なる、3人姉妹それぞれが抱えている悩み事や葛藤が伝わってきました。
日本文学に造詣が深い方が読むと、谷崎潤一郎の「細雪」を思い浮かべてしまうでしょう。
ストーリの舞台になっている京都市内の情緒溢れる街並みや、祇園祭や五山の送り火を始めとする夏の風物詩にも味わいがあります。
「京都は、よく言えば守られているし、悪く言えば囲まれている土地」という姉妹の父・奥沢蛍が口にするセリフも印象的です。
3人の中でもただひとり生まれ育った街を出ることを選んだ、三女・凜の揺るがない決意が感動的でした。
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