【ネタバレ有り】死にがいを求めて生きているの のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:朝井リョウ 2019年3月に中央公論社から出版
死にがいを求めて生きているのの主要登場人物
南水 智也(みなみ ともや)
雄介の幼馴染。学者の父親が提唱する海山伝説を否定するために翻弄しているが、事故により植物状態になる。
堀北 雄介(ほりきた ゆうすけ)
争いを好む性格。常に生きがいを求めているが、その対象は次々に変化する。
前田 一洋(まえだ かずひろ)
智也と雄介のいる小学校に転校してきた。タイプの違う智也と雄介が仲良くしていることに違和感を覚える。
坂本 亜矢奈(さかもと あやな)
智也に好意を持ち、交際するようになる。反対に雄介に対しては恐怖に近い感情を持つ。
死にがいを求めて生きているの の簡単なあらすじ
智也の父親は学者で、海山伝説というものを提唱しています。それは、人類は海の人間と山の人間に分かれていて、その二つの種族は常に敵対してきた、というものです。この世の争いのすべては、その二つの人種に起因しているのです。その対立を避けるためには、海と山の人間が関わり合いをやめる必要がある、というのが父親の説でした。智也の父親は、智也は海の人間で、雄介は山の人間だから、二人は仲良くするべきではないと言います。その父親の説を否定するために、智也は遺伝子学の立場から異論を唱えようと奔走するのでした。
死にがいを求めて生きているの の起承転結
【起】死にがいを求めて生きているの のあらすじ①
転勤族の一洋が転校した北海道の学校で、新しく友達になったのは智也と雄介でした。
智也は穏やかで優しい性格ですが、雄介は争いを好む目立ちたがり屋です。
智也は雄介の傍若無人ぶりを見守るばかりで、自分の意見を言わない様子に一洋は違和感を覚えます。
まるで、この二人は全く性格が合わないのです。
この時、智也は父親から「雄介は山の人間だから仲良くしてはいけない」と幼少期から言われ続けていたのです。
しかし、父親の「もともと人間には相容れない人種がいる」という説に抵抗感を持つ智也は、雄介を苦手だとは感じつつも、父親への反感からわざと雄介と仲良くし続けていたのです。
しかし、時折、雄介の争いを好む姿勢に対して、激しい苛立ちと嫌悪感を抱きます。
父親の言う、海山伝説は本当なのか、と智也はずっと悩み続けるのでした。
そして、もし、雄介が海山伝説のことを知ってしまったら、おそらく争いを好む彼は智也に対して敵対意識を持つだろうと考えるようになります。
そのために、智也は雄介が海山伝説のことを知らずに過ごせるように、徹底的に気を使って生活をするようになります。
智也の父親が、海山伝説に関する新しい本を出した時には、書店にも近寄らせないほどの徹底ぶりでした。
しかし、海山伝説をモチーフにしたと言われている漫画「帝国のルール」の大ヒットなど、智也たちの周囲には山海伝説を想起させるものが出現し続けるのでした。
智也の青春時代は、雄介に山海伝説を知られないようにすることばかりに消費されてしまいます。
【承】死にがいを求めて生きているの のあらすじ②
智也と雄介は大学生になりました。
二人とも成績が良かったので、北海道大学に進学します。
雄介は、年を重ねても争いを好み、目立ちたがり屋の性格のままでした。
次第に、学生運動などに没頭していくようになります。
はじめは、北海道大学特有のジンギスカンパーティー復活に向けての運動でした。
学内の目立つところで演説をし、ついにはテレビにも出演するようになります。
ジンギスカンパーティ復活のために署名活動を始めますが、その間に智也と同じ学部生がジンギスカンパーティを復活させます。
智也は同じ学部生がより効果的な方法で活動を行っていることを雄介には教えず、雄介の活動をたきつけていたのです。
それは、雄介が生きがいを見つけて一生懸命活動しているうちは、海山伝説のことを持ち出してこないだろうと考えていたからです。
ジンギスカンパーティー復活へのやりがいを失った雄介は、次は北海道大学の寮の自治権を主張する活動を始めます。
雄介は寮に所属していないのにも関わらず、その活動のリーダーであるかのようなふるまいを見せるので、もともと活動をしていた学生たちは、雄介のことを不気味がります。
その自治権問題も雄介のあずかり知らぬところで解決を迎えたため、雄介は本格的に生きがいを失い、大学を退学して自衛隊に入る、などと言い出すのでした。
そうこうしているうちに、雄介は海山伝説にまつわる話を知ってしまいます。
智也はその時、大学の研究が忙しく、雄介のことをかまっていられませんでした。
【転】死にがいを求めて生きているの のあらすじ③
雄介は、海山伝説の発祥の地である島に行こうとします。
その島は、昔兵器製造をしていたため、現在は政府によって渡航を禁止されています。
しかし、「長老」と名乗る老人に見初められれば、その島に連れて行ってくれるという話があったのです。
雄介は、その長老に話をしにいきます。
実は、長老は詐欺師であり、島に行こうとする人からお布施だけを奪い取った挙句、「あなたには渡航資格はない」と言って突き放すのが常なのでした。
雄介は、長老が詐欺師であることを知っていました。
ですが、「海山伝説に傾倒し、発祥の島に行こうとした挙句、長老に騙されてしまったが、そのおかげで今生きていることのすばらしさが分かった人間」というステータスを手に入れたかっただけの雄介は、長老に騙されるために長老のもとに向かいます。
雄介は伝説のことは信じていなかったのです。
偶然、雄介が長老のもとに行ったことを知った智也は、雄介を止めようとして急いで長老のもとに向かいます。
長老はただの一般人が訪ねても相手をしてくれないので、智也も海山伝説に傾倒しているふりをします。
一洋のアルバイト先のジャーナリストも同行してくれることになりました。
長老の家で智也は雄介と再会します。
雄介は、長老のもとで騙されたふりをしているのを、智也に見られたのがショックでした。
智也は、雄介が海山伝説を信じていないのにも関わらず、わざわざ長老に騙されようとする雄介のことが理解できませんでした。
【結】死にがいを求めて生きているの のあらすじ④
智也と雄介は、長老のもとで再会しますが、二人は相容れることができませんでした。
智也は雄介を長老のもとから連れて帰ろうとしますが、雄介は帰ろうとしません。
あくまでも、長老に騙され続けようとするのです。
二人はもみ合いになり、雄介は自分を引っ張ろうとする智也を押し返します。
その時、長老が部屋のドアを開きます。
智也は強く頭を打ち、意識を失いました。
そのあと、智也は植物状態になります。
しばらくすると、聴覚だけは取り戻し、周りの音声に耳を澄ますようになります。
智也の彼女の亜矢奈は毎日午前中に智也のもとにやってきます。
雄介は午後にやってきます。
二人は病室で一緒になることはほとんどありませんでした。
亜矢奈は雄介に対して苦手意識を持っていましたが、雄介のほうでも亜矢奈に会いたくなかったようです。
雄介は、二人きりになると、智也に音楽を聞かせます。
「二人の思い出の曲なんです」とそれを見ていた看護師に言うのですが、智也はそんな曲は知りません。
智也が植物状態になった今、雄介は「感動的な目覚めを待つ優しい友人」を演じるようになったのです。
智也と雄介の過去を知らない看護師は二人の友情に感動しましたが、亜矢奈は思い出の曲が嘘であることなどお見通しです。
また、智也も耳だけは聞こえるので、雄介がまた偽りの自分に没頭していることに怒りを感じ、早く目覚めなければならないと考えるようになります。
物語は、雄介の偽りが亜矢奈に発覚し、智也が怒りのあまり目を覚ましそうになっているところで終わります。
死にがいを求めて生きているの を読んだ読書感想
現代人への風刺が強い内容でした。
ついつい自分を偽ってしまったり、見得を張ってしまったりすることはあると思いますが、この物語はそれがテーマになっています。
自分はこんなにも生きがいがあります、没頭しています、ということを大声で主張したい雄介、それを苦々しく思いつつも、そんな雄介から目が離せない智也。
こんなにも極端な友情はめったにありませんが、人付き合いが狭くなってきている現代においては、あるあるネタでたくさんな一冊でした。
耳が痛い、と思ってしまうようなエピソードもたくさんあったので、自分への戒めにもなりました。
自分をもう一度見つめ、何がしたいのか自問自答したくなる内容です。
かなり分厚い一冊ですが、すらすらと読めました。
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