【ネタバレ有り】この子だれの子 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:宮部みゆき 2006年10月に講談社から出版
この子だれの子の主要登場人物
サトシ(さとし)
主人公。14歳の中学生で医師を目指して勉強中。
道夫(みちお)
サトシの父。
美里恵美(みさとえみ)
道夫の行きつけのスナック「ラ・セゾン」の従業員。
美里葉月(みさとはづき)
恵美の娘。サトシの異母妹。
この子だれの子 の簡単なあらすじ
両親が親戚の結婚式に出席するため北海道に1泊することになり、サトシは自宅で静かに留守番中です。雨が強く風も激しくなってきた夜遅くに、見ず知らずの女性が赤ちゃんを連れたままで家の中に転がり込んできます。父の愛人であり子供はまだ認知してもらっていないという彼女から、サトシは意外な事実を知ることになるのでした。
この子だれの子 の起承転結
【起】この子だれの子 のあらすじ①
両親が親戚の結婚式で札幌まで泊まり掛けで行ったある日のこと、サトシは家に独りでお留守番をしていました。
午後9時過ぎに玄関のチャイムが鳴ったためにドアを開けると、赤ん坊を抱えた30歳前後かと思われる女性が駆け込んできます。
外は激しい吹き降りの雷雨のため、レインコートを着たふたりは全身ずぶ濡れです。
バスタオルを差し出して淹れたてのコーヒーをご馳走したサトシに、女性は俄かには信じ難い話を打ち明け始めます。
彼女の名前は美里恵美で子供は女の子で葉月、西新宿にあるスナックに勤めていてサトシの父親に当たる道夫はそこの常連客、道夫との間に葉月を授かったのは今から丁度2年前で場所は彼女の自宅マンション。
父がいつも吸っているタバコの銘柄からコーヒーに入れる砂糖の量まで知っているために、まるっきり出鱈目を並べ立てている訳ではないようです。
道夫が帰ってくるまで待ち続けると宣言した恵美は、葉月をソファーに寝かせてシャワーを浴びに行ってしまいました。
【承】この子だれの子 のあらすじ②
雨足は依然として強いために、赤ちゃんを連れた女性を外に追い出すわけにはいきません。
恵美がドライヤーを使って髪を乾かしていた時に、サトシは彼女のバックからこぼれ落ちていた赤いパスケースを見つけていました。
中に入っていた運転免許証に記載されている住所を、念のために書き写しておきます。
ケースにはサトシの写真も挟んであり、松葉づえをついていますから1か月ほど前に隠し撮りしたものでしょう。
もう1枚は随分と古びていて、サトシによく似た少年の姿を捉えた写真です。
背景にはニュースの電光板が見えてよど号ハイジャック事件を報じていますから、今から19年前であることが推測できます。
翌日には雨は止んでいましたが、恵美は出ていこうとはしません。
彼女が哀しそうな表情を浮かべたのは、テーブルでノートと参考書に向き合っていたサトシが「将来医者になりたい」と言った瞬間です。
間もなく両親が帰宅する午前2時過ぎに、怖気づいた恵美は葉月と共に居なくなってしまいました。
【転】この子だれの子 のあらすじ③
サトシが自転車に載っているときにトラックの後輪に巻き込まれて大怪我を負ったのは、今から半年以上前のことでした。
左足の骨折が特に厄介になり、手術を受けた後でウトウトとしている時に主治医と両親の話を聞いてしまいます。
道夫が生まれつき子供を作れないハンディキャップを抱えていること、サトシは非配偶者間の人工授精「AID」の制度を利用して生まれた子供であること。
サトシは14年間育て上げてくれた父と母に感謝しているため、これからも自らの出生の秘密を誰にも打ち明けるつもりはありません。
葉月が自分の父親と恵美との間にできた子供ではないことも、初めからお見通しです。
帰宅した道夫に留守中何か変わったことがないか尋ねられた時も、「なにもないよ」と答えてきました。
残されている僅かな謎を解決するために、運転免許証の住所から恵美の居場所を探し出すことにします。
彼女との再会を果たしたのは、あの夜から1週間が経過した昼下がりです。
【結】この子だれの子 のあらすじ④
恵美の本当の勤め先は西新宿のスナックではなく、大学病院の医局でした。
同じ職場で知り合った産婦人科の勤務医と2年前に結婚して葉月を授かりましたが、間もなく夫は交通事故で亡くなってしまいます。
少年時代の夫と瓜二つな男の子が恵美の病院に搬送されたのは、それから3か月くらい後のことです。
20歳でAIDの提供者になった夫、サトシは14歳で夫は生きていれば35歳。
生物学的にはサトシが葉月の兄であることを知った恵美は、道夫たち一家を尾行することに憑りつかれていきます。
道夫の行きつけのお店や趣味嗜好まで自然と熟知していくようになり、愛人に成りすますのは難しくありません。
遂には一線を超えてしまい、あの嵐の夜に葉月を連れて乗り込んだ次第です。
恵美が住んでいるアパートの仏壇には、サトシに生き写しの男性の遺影が飾られています。
サトシは何も知らずに無邪気に笑う葉月の顔を眺めて、これからも妹に会いに来ることを恵美と約束するのでした。
この子だれの子 を読んだ読書感想
吹き荒れる嵐の夜に乳飲み子を抱えたままで闖入してくる、美里恵美がミステリアスでもあり妙に色っぽかったです。
自分勝手に回りを振り回しているようにも思える彼女も、若くしての夫との死別を乗り越えた強い意志が滲み出ています。
14歳とは思えないくらいの推理力で、恵美の居場所から自分自身との関係性までを突き止めてしまう主人公のサトシが痛快でした。
AIDやシングルマザーを始めとする、新しい家族の形についても考えさせられるストーリーです。
血の繋がらない父親を尊敬しつつ、母親の違う妹を受け入れていくサトシの決意には胸を打たれました。
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