【ネタバレ有り】馬を売る女 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:松本清張 1977年 に新潮社から出版
馬を売る女の主要登場人物
星野花江(ほしのはなえ)
繊維問屋:日東商会の社長秘書、いわゆる職業婦人。独身のひとり暮らしで、社内でもプライベートでもいつもひとり。社内で高利貸しをしている上に、「浜井静枝」という偽名で競馬の情報屋をしており、かなり稼いでいる。
米村重一郎(よねむらじゅういちろう)
明治時代から続く日東商会の三代目社長。苦労して会社を大きくした祖父、父の社内方針を継承しているが、裏では適度に遊んでいる。
八田英吉(はったえいきち)。
日東商会の孫請に当たる城東洋裁店の店長。親会社のさらに上の重一郎には畏怖の念を持っている。
馬を売る女 の簡単なあらすじ
老舗の繊維問屋の社長秘書をしている独身の花江は、社内で高利貸をしているほどお金をため込んでいます。その上、社長室へ取り次ぐ電話を悪用し、競馬情報を盗み聞きして偽名で競馬情報ビジネスもして、さらに儲けていました。社長の重一郎は盗聴を怪しみ、八田に花江を見張るよう命じます。八田は、最初、盗聴の事実をつかみ重一郎に報告をしますが、金に困っていたため、花江を利用しひともうけを目論見ます。実際、孤独だった花江は八田の愛を信じ、お金を貸し始めたのです。ただ、お金に細かい花江は、常に返済を八田に迫ります。しだいに追い込まれていった彼は、ついに花江を殺そうと完全犯罪を試みるのですが・・。
馬を売る女 の起承転結
【起】馬を売る女 のあらすじ①
日東商会の社長:米村は、3代目。
生真面目な経営戦略をとる一方で、裏では競馬に凝っており、電話で馬主仲間と馬の情報をやり取りしていました。
その電話を盗聴していた10年来の社長秘書:花枝は、秘密の会員制競馬予想ビジネスを副業として行い、私腹を肥やしています。
社内で高利貸しをしている花江は、借金のために話しかけられることはあっても、お昼の時間ですら誰とも話をせず、完ぺきな秘密を保っていることができたのです。
馬主仲間や厩舎(きゅうしゃ)からの情報は専門用語でやり取りをされますが、仕事に真面目な花江はそれも解析してしまい、週末のレース前には、会員に電話で馬の調子をレース情報として流します。
この情報は、信頼度が高く、時には大穴を狙えると人気でした。
不器量で誰とも結婚できないと考えていた花枝は将来に備えて、さらに大金を貯め込んでいきます。
重一郎は、ある時、花江の盗聴を疑います。
社内の人間に調査を任すと、自身の競馬狂いが露見してしまうことを恐れた重一郎は、出入りしていた業者:八田に、思いついて相談することに。
頭の切れる八田は、ニセ情報を電話で流すこと提案し、同時に花枝の自宅に電話をかけて、彼女が電話で競馬情報を流していることも突き止めました。
この情報に喜んだ重一郎は、八田の取引が安定するよう計らいます。
一方で、競馬情報が当たらなくなった花江は、目の前が真っ暗になっていく気持ちになるのでした。
【承】馬を売る女 のあらすじ②
ある日、八田は帰宅途中の花江の後をつけます。
パチンコ店に入った花江に偶然を装って近づき、彼女と関係を結ぶことに成功。
実は、彼は花江のため込んだ金を狙っていたのです。
わざと年下の頼りない男を演じ、彼女にお金を借してくれるよう懇願します。
孫受けの八田の洋品店は毎月の資金繰りが大変で、重一郎に恩を売ってもすぐに楽な経営ができないとわかった彼は、目先のお金を花江に頼ることにしました。
花江は愛し始めた八田にお金を貸したものの、返済期間を必ず確認、ベッドを共にする相手でも、金勘定と愛情の勘定は分けて考えています。
八田は、そんな花江の信用を得るために、借りたお金に月5分の利子をつけて期日にはきちんと返していました。
また、八田は、花江がたくさん稼げるよう、重一郎にウソの情報を流すことをやめさせること。
これで、自分の店の資金繰りが保証できると考えたからです。
実際、彼女から借りたお金で経営がどれほど楽になったか考えると、この関係はしばらくやめられない、と八田は考えていました。
【転】馬を売る女 のあらすじ③
二人の逢瀬は最近、都内で増え始めた高速道路の非常駐車帯を使うようになりました。
お金がかからないからです。
はじめは嫌がっていた花江も、スリルで次第に興奮を覚えるように。
肉欲と金銭欲の入り混じった関係を続けていた二人でしたが、次第に八田の返済が滞り、その借金額が花江の我慢を超えた時、「わたしはあんたの奥さんにも言うわ。
わたしはあなたのご主人にオモチャにされましたって」と花江が言い放ちます。
もてあそんだなんて、もう少し見た目のいい女がいうことで、男のだれにも相手にされない醜女(ブス)に言われるのは心外だと、八田は憤ります。
この時、八田には殺意が芽生えたのでした。
八田は、花江に疑われることなく、いつもの通り人目がない非常駐車帯で花江を抱いた後、首を絞め殺してしまいます。
料金所の人間は、通行するクルマのナンバーをいちいち見ていないことを見越して考えた計画でした。
その後、高速を飛ばして相模湖畔に死体を遺棄、取って返して江戸川区の彼女の部屋にある貸金帳簿も処分します。
八田の中で完全犯罪が成立した瞬間でした。
【結】馬を売る女 のあらすじ④
花江の遺体を発見した警察は、遺体のそばに落ちていた競馬予想の新聞切り抜きをきっかけに、花枝が競馬予想ビジネスをしていたことをつかみます。
その線で犯人が見つかるかと捜査は続きますが、決定的な容疑者が浮かびません。
次に高利貸しをしていた事実もつかみますが、やはりこれも帳面が見当たらない。
結局は、捜査本部は解散してしまいます。
4ヶ月後、馬券詐取の容疑者からの情報で八田にたどり着いた捜査員が、再び八田に迫ります。
内心では今ごろ・・と驚がくしている八田ですが、殺人当日のアリバイをごまかし、再び逃げ切ります。
そんなある日、非常駐車帯で八田と同じ車を見かけたという情報が寄せられます。
情報提供者は、当時、八田と同じように非常駐車帯で不倫をしていたために、届出ができなったが、いまは離婚をして当時の相手と再婚したため、不審なクルマの情報を届けられたと笑っていました。
八田のアリバイはこうして崩れ去ってしまいました。
馬を売る女 を読んだ読書感想
この小説が書かれた昭和52年の社会状況が巧みに取り込まれた一冊です。
3代目の繊維問屋の社長の立場、孫請けの単独店、首都高速のカーセックス、アベック、長い会社勤めをする独身の職業婦人。
冒頭の男と女の、出来上がったばかりの首都高速:非常駐車帯での濃密な時間のやりとりが昭和感満載です。
また、主人公3人以外が、捜査員、男と女など、わざと匿名性を持たした描かれ方をしていて、3人の業の深さ、身勝手さがよくわかる心理描写が続きます。
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