【ネタバレ有り】ニムロッド のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:上田岳弘 2019年1月に講談社から出版
ニムロッドの主要登場人物
中本 哲史(なかもと さとし)
本作の主人公。サーバーを管理する会社で働いている。社長からビットコインの発掘業務を任される。
田久保 紀子(たくぼ のりこ)
哲史の交際相手。外資系証券会社で働いている。過去にトラウマを持っており、飛行機に乗る際は睡眠薬が必須である。
荷室 仁(にむろ じん)
哲史の一歳年上の友人。以前哲史の職場で働いていたが、うつ病になり退職。作家志望。ニムロッドという愛称を持っている。
ニムロッド の簡単なあらすじ
哲史は社長の思いつきで、ビットコインを採掘する業務を命じられる。最初はうまくいき、交際相手の紀子や友人の荷室にもビットコインの近況を伝えて盛り上がるが、ビットコインの一日あたりの稼ぎはやがて減少していく。荷室は高いビルを有し、その天井に駄目な飛行機をコレクションするが、世界中の駄目な飛行機をコレクションしてしまったことに気付き、人間の欲望のその先について思いあぐねる。
ニムロッド の起承転結
【起】ニムロッド のあらすじ①
サーバー管理会社で働く哲史は、ある日社長からビットコインを採掘する仕事を頼まれる。
たった一人の課であるので、自分で「採掘課」という名前をつけて、業務を始める。
職場で遊ばせているサーバーから、ひと月あたり30万円ほど稼げることに気付いて調子をよくするが、社長はもっと上の利益を目指していたのか、反応が薄い。
そんな哲史には、定期的に元職場の先輩で友人でもある荷室から、「ニムロッド」という名前でメールが届く。
そのほとんどは、「駄目な飛行機をコレクション」という内容で、世界中の「うまく飛べない」「着陸できない」といった、使い物にならない飛行機を紹介する内容のメールが届く。
荷室はうつ病で退職して現在は実家に住んでいるのだが、哲史は荷室が今どんな生活をしているのかがわからない。
昔は小説家を目指していたが、新人賞に三回落選したところまでしか知らない。
ビットコインに関する仕事を始めたことを報告するために荷室に会いにいくと、もう小説は書いていないという。
また、哲史がビットコイン採掘の仕事を始めたことを喜んでくれた。
【承】ニムロッド のあらすじ②
哲史は交際相手の紀子との結婚を薄々考えている。
結婚するなら紀子か、もしくは紀子のような女性だと思っている。
それとなく話を出すと、紀子には離婚歴と妊娠歴があるという。
妊娠中に、胎児の遺伝子検査で問題が見つかり、堕胎したのだという。
その際に、夫の反応が完全に他人任せで自分の意見を出してくれないことに違和感を感じ、離婚をしたのだという。
また、いつまで生きられるかわからないとはいえ、自分の子供を殺してしまったという罪悪感から、特に飛行機で眠ることができなくなってしまっている。
睡眠薬を手放せなくなっているのだ。
そんな紀子の過去を知ったうえで、哲史は結婚を切り出すのにためらいを感じるようになる。
哲は紀子に荷室の話をすると、かなり興味を持ったようで、荷室から届く、「駄目な飛行機をコレクション」のメールが読みたいとねだられる。
哲史はなぜか定期的に左目から涙が流れる症状が現れるのだが、その状況を荷室にいつもテレビ電話で実況しているというと、自分もそれを見たいという。
【転】ニムロッド のあらすじ③
ここからは荷室の書いた小説の中に登場するニムロッドの章になる。
ニムロッドは実はビットコインの創設者であり、その資産が莫大なものであるということが明かされる。
ビットコインはネット上で作られたもので、その影響は莫大なものであるために、もうすでにニムロッドの手からは離れている。
なので、ニムロッドがビットコインに関する仕事をすることはもうない。
その代わりに、ニムロッドは「駄目な飛行機をコレクション」を実際に自分が有する塔の屋上にコレクションをしているのだ。
定期的に商人がニムロッドのもとを訪れて、「駄目な飛行機」をプレゼンし、お披露目し、気に入れば荷室はそれを買い取るのだ。
買い取った飛行機は哲史にメールで紹介するだけなのだが、ある日、商人からニムロッドが所有していない「駄目な飛行機」はもうこの世になくなったと告げられる。
ニムロッドはその事実に衝撃を受ける。
所有欲は尽きないのに、所有できるものがなくなったということに気付いた瞬間、ニムロッドの右目から涙が流れる。
それは哲史の左目と同じ症状だった。
【結】ニムロッド のあらすじ④
ビットコイン以外の仮想通貨も流通を始め、哲史の仕事内容はビットコインを採掘すること以外にも、新しい仮想通貨の作成も追加される。
どんな通貨にするかだとか、コインの単位を何にするかなど、哲史が決めることは多く、紀子や荷室に相談しようとするが、二人ともと連絡がつかなくなってしまう。
最後にこの二人と会話をしたのは、哲史の涙をテレビ電話で見せた時だった。
その時は紀子と荷室が初対面であること、二人とも独特の雰囲気を持つことを気にして、哲史は気を使っていた。
しかし、この二人は哲史にはわからない方法で意思疎通をしていたのではないかということに気付く。
ある日、紀子から「疲れたので東方洋上に去ります」という連絡がくる。
東方洋上というのは、着陸できない自爆飛行機を使って自殺しようとしたパイロットが目指した場所である。
これ以降、紀子から連絡は途絶えるが、哲史は自分の仕事に集中しようと思い、邁進するようになる。
荷室は同じころ、自分はこれから何をしたらいいのかわからなくなり、自分のコレクション内にある自爆飛行機に乗ろうかと思案するようになる。
ニムロッド を読んだ読書感想
正直、難解な小説だと思った。
どこまでがストーリーで、どこからが荷室が書いた小説の内容なのかがわかりづらかった。
しかし、バベルの塔や神話、海外のアーティストなどの知識がちりばめられていて、そこはとても面白いと思った。
ビットコインと哲学という、あまり想像のつかない組み合わせであるが、情報化社会が進みすぎた人間の悲しさや無力感、世界が理解できたようで全然できていない苦労などがとてもよく伝わってきた。
ビットコインに関する知識を持たないものでも、例えをうまく使って説明してくれるので、わかりやすい内容だったと思う。
コメント
こう言う小説は、平凡な言い方をすれば、理解するものではなく感じるものです。
ニムロッドと言うタイトルは、はPeople in the boxの「ニムロッド」という曲に由来します。
この小説は具体化されたストーリーを楽しむものではなく、歌の歌詞のように抽象化された文章から、なにか感じるものだと思います。
歌の歌詞をいちいち理解しようとする人は少ないですし、その解釈は人によってまちまちです。
自分もおそらく作者の意図の半分も理解できていないと思います。でも、自分はあの小説を「面白い」というよりは「良い」と感じました。
こういう小説は直木賞小説とは全くの別物なので、ストーリーを楽しむつもりではなく、歌でも聞いてなんとなく読むと、また何か違ったものを感じるかもしれません。
暇があればまた再読してみてください。
【転】の章が事実と異なっていますので訂正をお願いしたいです。
荷室はビットコインの創設者ではありません。小説内の小説で登場するニムロッドが小説内でのビットコインの創設者なのであって、小説内の現実のビットコインの創設者は我々の住む現実と同じナカモトサトシです。
また、荷室は駄目な飛行機を買い取っていません。NAVERにまとめられている実在した駄目な飛行機を中本に紹介しただけです。飛行機を買い取ったのは荷室の小説に登場するニムロッドです。あだ名としてのニムロッドと小説内キャラクターとしてのニムロッドを区別するのは確かに難しかったです。再読して頂ければ話が繋がってより面白く感じられるかもしれません。
「駄目な飛行機シリーズ」「ビットコイン」「バベルの塔」「中本の涙」これらと、作家になれなかった荷室の辛い想いや虚無感をヒントに荷室が作り上げた小説が作品の裏主人公だと私は思います。
テクノロジーの進歩によって、いつか完璧な世界が来ます。完璧な世界がやってきたとき、全ての欲望を満たした人類は一体どうなってしまうのか。「この文章はただ、ごろりとここにあるだけなんだ。」この一節のように、終末に向かっていく地球という船の上に人類はごろりと浮かんでいるしかないのでしょうか。そんな漠然とした虚無感と不安を感じさせる、奇妙だけどぞくぞくとした感動を覚えさせてくれる作品でした。
ありがとうごさいます、修正しました。