「人間狩り」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|犬塚理人

人間狩り(犬塚理人)

【ネタバレ有り】人間狩り のあらすじを起承転結でネタバレ解説!

著者:犬塚理人 2018年10月に角川書店から出版

人間狩りの主要登場人物

白石秀季(しらいしひでき)
姪を一人で育てる監察官。

落合聖司(おちあいせいじ)
20年前に起こった国分寺女児殺害事件の犯人。

三田江梨子(みたえりこ)
カード会社に勤める督促の仕事をしているOL。顧客の一人に対して義憤を抱き、ネット自警団にさらす。

山本弥生(やまもとやよい)
ネット自警団のコミュニティサイトを運営している40代半ばの女性。

人間狩り の簡単なあらすじ

20年前、小学生の女の子が14歳の少年によって殺害される凄惨な事件が起こりました。犯人は少年Aとして扱われ、少年院に送致され事件は決着しました。しかしその殺害映像がネットオークションにかけられます。一体誰が何のためにしたのでしょうか。姿も名前も変えた少年Aは果たして本当に罪を償ったと言えるのでしょうか。

人間狩り の起承転結

【起】人間狩り のあらすじ①

流出した事件映像

姉夫婦を亡くし姪である玲奈を育てる白石は監察官です。

白石は上司からとある映像が警察内部から流出したかどうか調査するように言われます。

その映像は、20年前に起こった国分寺女児殺害事件のものです。

犯人は当時14歳の落合聖治。

小学生の女の子を絞殺し、両目をくりぬいた凄惨な事件です。

その落合の犯行記録映像が闇オークションサイトに出品されていることがわかりました。

現在、もしくは事件当時内部の人間がコピーを取り金銭目当てで売買した可能性も考えられます。

当時事件を捜査した阿波野の話では、送検や捜査のため警察内で原本からコピーが二つ取られました。

現在もそれら計三つの映像記録が警察内で保管されています。

犯人であった落合が他に映像を持っていた可能性も考えられましたが、映像の取引が終了するまで都内の病院に入院したことがわかっています。

となるとやはり警察内部の犯行かと白石は考えます。

一方、三田江梨子はカード会社のコールセンターで働いています。

顧客である宇津木からカードが止められたというクレームが入ります。

宇津木は他社のカードの返済を滞らせており、それが理由でカードが強制解約されていたのでした。

宇津木はカードが使えないと子供の給食費が払えなくなると訴えますが、江梨子にはどうすることもできません。

その後、宇津木は再度連絡を寄越し、子供の給食費が払えなくなったせいで子供が苛められ自殺したと言います。

後味の悪さを感じた江梨子は宇津木のことを調べます。

宇津木は生活保護受給者で、精神科に通い大量のデパスを処方してもらい転売を行なっていました。

そして、未成年を買春しています。

子供のことは嘘だったのです。

江梨子はそんな宇津木の様子を全て動画で記録しました。

【承】人間狩り のあらすじ②

ネット自警団の正義

白石が調査していくと、担当だった阿波野と現在亡くなっている鈴木以外に、美馬という男が映像を持ち出していると気がつきます。

捜査とは無関係の美馬が映像になんの用事があったのでしょう。

もう一人浮かび上がったのが、当時捜査一課にいたギャンブル癖のある与那嶺です。

話を聞くため、彼が在籍する奥多摩署へ向かうと与那嶺は昼間から飲み屋に入り浸っていました。

与那嶺は当時の借金を急に返済したことがあり、白石は不信感を抱いていました。

しかし与那嶺は、映像は売っていないものの、情報を新聞にリークして謝礼を受けたことを白状します。

警察を辞めてしまった美馬には連絡がつかないため阿波野に事情を聞きます。

正義感の強すぎた美馬は落合の反省のない態度に激昂し、暴力を振るったため鈴木と交代させられていました。

そんな美馬が荒川のボクシングジムで働いていることがわかりました。

美馬に会い事情を説明すると、新聞に共犯がいたと書いてありそれを精査するために捜査を外されていたものの映像を確認したと言います。

裏づけを取ると、共犯説の記事が載ったのは落合が送検された後のことでした。

一方江梨子は、ネット自警団というサイトに宇津木の動画をアップしました。

宇津木の顔と名前をぼかしましたが、その動画からネット自警団のユーザーたちは宇津木にたどり着き名前と画像が晒されるようになりました。

サイトの中でも一目置かれている龍馬という男が、宇津木に突撃した動画がアップされ、その後宇津木は不正受給者として逮捕されたと新聞が報じます。

その結果に満足した江梨子はネット自警団のオフ会に参加して、サイト管理者の山本弥生という40代の女性と知り合います。

弥生は子供が交通事故で死んでしまい、その犯人が未成年だったため裁かれず悔しい思いをしたことからサイトを作ったと言います。

そんな頃、白石は玲奈が「龍馬」と名乗る男と会っていることを知ります。

【転】人間狩り のあらすじ③

名前を変えた加害者

弥生と交流を持つようになった江梨子。

二人の関心は、国分寺女児殺害事件の流出映像のことでした。

落合が売却したとネットではまことしやかに囁かれるようになり、本人から反論記事が出たほどでした。

白石は美馬を追い、国分寺女児殺害事件の被害者の母親、伊藤弘美の実家がある長野へ向かいます。

正義感の強い美馬は当時、弘美から自分の子の最期を見たいと請われて映像コピーを渡したのではないかと考えます。

美馬を見失ったものの、弘美の実家へ赴く白石。

そこで弘美が自殺してから10年近くが経っていることを知らされるのでした。

しかし現在所在不明の被害者の兄、由紀夫が映像を持ち出したのではないかと考えます。

江梨子は「龍馬」がリアルタイムでネット配信をしていることをしり、その現場で出待ちをします。

落合の記事を乗せた出版社の取材で、彼が落合の事件に強い関心を寄せているのを知ります。

龍馬の正義感を知った江梨子は弥生と引き合わせ、三人は現在の落合のことを知りたいと考えるようになります。

龍馬は出版社に落合を取材したいと申し入れ、自分のDVD映像を作り本人に渡してくれるように頼みます。

そのDVDにはGPSが入っており、彼らの思惑通り動き始めると法律事務所に到着します。

そこは一橋誠司という弁護士の事務所でした。

顔も名前も変えたと言われる落合が一橋かは見ただけではわかりません。

一橋が落合か確かめるため、かつての被害者のような幼い女の子を囮にすることにします。

龍馬の知人、玲奈を事務所へ送り込みますが、一橋にカメラに気づかれ計画は失敗。

しかし対峙した一橋に龍馬は大ごとになれば困るのはそちらだと揺さぶりをかけます。

すると一橋は自分が落合であると認め、自分は罪を償ったと主張し彼らを買収しようとします。

弥生は強く反発し、一橋が反省していないと言うのでした。

ネットに晒される恐怖から、ゴルフクラブを持ち一橋が車で彼らを追いかけてきます。

【結】人間狩り のあらすじ④

復讐と正義

翌日、江梨子の家の郵便受けに死んだ雀が脅迫文とともに入れられます。

一橋に車を壊されたことは警察に届けており、再度脅迫があったことを警察に伝えますが一橋は所在が不明だと言います。

龍馬は一橋のことをネットに晒していました。

不安を感じる江梨子ですが、彼女の職場に弥生の飼っていた猫の首が届けられます。

一方白石は玲奈の様子がおかしいことに気がつき話を聞きます。

白石は龍馬からも事情を聞くのでした。

身の危険を感じた江梨子たちは三人で弥生のアパートで過ごすことが多くなりました。

憔悴する弥生を江梨子は心配していましたが、彼女はある時仕事に出たきり帰ってこなくなってしまったのです。

心配しているとアパートの郵便受けに人間のくり抜かれた目玉が入った封筒が届きます。

警察に届けると、それは弥生のものであることが判明しました。

その後、国分寺女児殺害事件の現場であった廃病院が不審火で燃えその焼け跡から弥生が発見されました。

江梨子は警察から弥生が身寄りがなかったことを聞きます。

弥生の話と食い違うため、彼女の勤め先に聞くと、特殊清掃の仕事をしていた弥生はとある事情で死亡届の出されなかった遺体の名前を名乗っていたのでした。

その頃、由紀夫が見つかります。

由紀夫は映像を出品しておらず、母親が持って行ったと主張します。

弘美の死は富士の樹海で行方不明になり、死体がでないまま7年が過ぎたため死亡扱いになったためだと白石は知ります。

弥生は弘美だったのです。

行方が分からなくなっていた一橋は海から死体となって発見されます。

そこへ美馬が出頭してきます。

美馬は映像が流出したことで弘美を疑いますが、事件を風化させず犯人を追い詰めたいと考える彼女を止めることはできませんでした。

弘美と再会した時は既に全て終わった後で、美馬は彼女の手伝いを正義を追求するため行ったのでした。

白石はそれに同調はできないものの、否定もできないと感じるのでした。

人間狩り を読んだ読書感想

未来ある子供達を守るためでもある少年法。

しかし、弘美のように子供が残虐な方法で殺されてしまい、犯人は守られてしまったら残された方はやり切れません。

ましてや落合は取り調べの時点では全く反省していませんでした。

もちろん、成長過程にある子供の過ちを許すのは大人の役目でもあります。

しかし許しは誰が与えるべきなのでしょうか。

そして被害者遺族たちは法が犯人を許してしまえば、それを許すしかないのでしょうか。

罪と罰は果たして釣り合っているのか、それは誰が責任を取るのでしょうか。

被害者遺族の感情が置いていかれた結果、ネットで晒すという選択を弘美がとったようにも思います。

弘美たち家族はめちゃくちゃになり、落合は弁護士として社会復帰、事件のその後の姿としてそれは正しい形と被害者たちは納得がいくものっだったのでしょうか。

ネットで許しがたい誰かを法と関係なく裁く行為は、決して特殊な人たちのものだけではありません。

新しい復讐方法でもあります。

けれども安全圏から憂さを晴らすことを正義だとしている人もいます。

ネットの自警団は決して正義の存在ではないのです。

白石は美馬の主張を聞きやり切れなさを感じ、正義に迷いが出ました。

美馬は法で裁かれます。

しかし「正義」をこなしたと感じたでしょう。

また弘美を動かし続けたのは復讐心だけでしたが、美馬の「正義」があることが彼女を安心させていたでしょう。

これでは遺族に救いがあるとは思えない結末です。

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