【ネタバレ有り】侵入者 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:小林信彦 1994年9月にメタローグから出版
侵入者の主要登場人物
新井利幸(あらいとしゆき)
テレビ制作会社社長。
新井多佳子(あらいたかこ)
利幸の妻。
新井由美(あらいゆみ)
利幸の娘。
小牧愛子(こまきあいこ)
フリーライター。
玉宮(たまみや)
ラジオ作家。
侵入者 の簡単なあらすじ
義父の土地にマンションを建てた新井利幸の日常生活は、不可解な入居者に悩まされることになります。近所で発生している幼児をターゲットにした連続わいせつ事件との、恐るべき繋がりが明らかになっていくのでした。
侵入者 の起承転結
【起】侵入者 のあらすじ①
バブル時代の好景気が傾きかけた頃、新井利幸は妻・多佳子の父親が所有している土地にマンションを建てました。
自分たちの住まいとしてだけではなく、数年前に立ち上げたテレビ用のプロダクションの経営が苦しかったために毎月の家賃収入を確保するためでもあります。
ある日の夕方過ぎに突如として響き渡ったのは、マンションの住人のひとりである小牧愛子の悲鳴です。
利幸が現場に駆けつけてみると、利幸の娘・由美を愛子が抱きかかえていました。
彼女の話では由美が白いセーターを着た見ず知らずの男に連れていかれそうになり、慌てて止めたとのことです。
この近辺では女子高校生をターゲットにした痴漢や、女児児童へのわいせつ事件が絶えません。
愛子から近所の交番へ通報するように強く薦められますが、敏幸自身も訳ありなために警察とは関わりたくないのが本音です。
ひとまずお礼を言って由美と自室に引き上げようとした敏幸に、愛子はある悩み事を相談します。
【承】侵入者 のあらすじ②
愛子の真上の部屋には玉宮という独り者の男性が住んでいましたが、真夜中に度々騒音をたてるために寝付けません。
オーナーとしては住人からの苦情に対応しなければならない利幸は、玉宮を喫茶店に誘い出しそれと無く話を聞いてみました。
玉宮はマンションの床下の素材に欠陥があるとか、愛子の神経過敏であるとか自身の主張を並べ立てます。
彼の身に付けている白いセーターを見て利幸がピンときたのは、先日愛子が目撃したという不審者の特徴との一致点です。
玉宮の正体を突き止めるために部屋に侵入することを決意しましたが、ラジオ作家という職業柄か四六時中自室に籠っています。
多佳子の話では燃えるゴミの日に玉宮は大量の映画雑誌を捨てているようで、ビデオテープもコレクションしているようです。
映画業界とコネのある利幸は試写会の招待券を手に入れて玉宮にプレゼントし、当日にもぬけの殻となった玉宮の部屋に無断で合鍵を使って忍び込むのでした。
【転】侵入者 のあらすじ③
家族と幸せに暮らしていた玉宮でしたが、ある日突然に娘がひき逃げに遭ってしまいました。
精神的に深い傷を負った妻は闘病生活を送ることになり、ひき逃げ犯は一向に捕まりません。
業を煮やした玉宮は、妻の妹・小牧愛子と共に自分たちの手で犯人に制裁を加えることを決意します。
フリーライターとしての情報網を活かして愛子が探し出したのは、かつて警察からわいせつ罪の疑いをかけられたことがある新井利幸の存在です。
被害者児童の写真を集めたアルバムを手元に置いているほどの異常者ですが、妻と自身の娘と共に何食わぬ顔でマンション暮らしをしています。
玉宮と愛子はお互いの関係を隠して、赤の他人として利幸のマンションに入居しました。
由美が白いセーターの男に連れ去られそうになった話も深夜の騒音騒ぎも、全てふたりのでっち上げです。
利幸が玉宮の部屋に勝手に忍び込んでいるうちに、玉宮は利幸の部屋に入って過去の犯罪を記録したアルバムを盗み出しました。
【結】侵入者 のあらすじ④
玉宮は手に入れたアルバムの存在を匂わせ、利幸を廃墟となったアパートの一室に呼び出しました。
アルバムを返す条件として玉宮が提示した金額は、利幸のマンションと土地を売却してようやく払えるほどの大金です。
鼻から取引に応じるつもりはなかった利幸は、ナイフを抜いて玉宮に突進します。
利幸の前に立ちはだかったのは、夫の悪行を知ってしまった多佳子でした。
妻を刺してパニックに陥った利幸は、遠くの方からパトカーのサイレンを聞きます。
利幸は現場に到着した警察官によって逮捕されて、アルバムは一連の事件の証拠品として押収されました。
玉宮と愛子の復讐は成し遂げられましたが、ただひとつの誤算は何の罪もない多佳子が2日後に搬送先の病院で亡くなってしまったことです。
愛子は義理の兄として玉宮に向かい合い、もう2度と会うつもりはないと別れを告げます。
玉宮は娘のお墓に花束を捧げに行き、その足で入院中の妻に全てが終わったことを報告しに行くのでした。
侵入者 を読んだ読書感想
物語の舞台となるのはバブル崩壊直前で、どんでん返しのサスペンスと共にその当時の時代背景や世相が反映されていて味わい深かったです。
決して他人には打ち明けることができない自身の性癖に嫌悪感を抱いていた新井利幸が、自分のマンションを持つことによって精神的な安定を図ろうとする様子が心に残りました。
土地と建物が値上がりを続けている都内で、一戸建てを夢見る人たちの哀愁がたっぷりです。
誰しもがバブル経済の異様な盛り上がりに疑問を抱きながらも、目の前の現実から目を背けてまやかしの幸せを追いかけていることが伝わってきました。
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