監督:阪本順治 2016年6月にキノフィルムズから配給
団地の主要登場人物
山下ヒナ子(藤山直美)
ヒロイン。スーパーでパート店員として働く。仕事は遅いが愛想がよく客から慕われる。
山下清治(岸部一徳)
ヒナ子の夫。漢方薬の知識が豊富。頼まれると断れない性格。
真城貴史(斎藤工)
職業は不明だがいつもスーツを着ている。会話が苦手で世間知らず。
行徳正三(石橋蓮司)
ヒナ子の上の階の住人。団地の自治会長として頼りにされている。
山下直哉(中山卓也)
ヒナ子の息子。3年前に交通事故で死去。
団地 の簡単なあらすじ
店を畳んで団地で隠居生活を送っていた山下夫婦は、真城貴史から漢方薬の調合を頼まれました。
団地の住民たちからはバラバラ殺人犯と誤解されてしまいますが、何とか5000人分の漢方薬を準備します。
夫・清治の薬によって地球外からやって来た真城の同胞たちの命が救われ、そのお礼に妻・ヒナ子は死んだ息子の直哉との再会を果たすのでした。
団地 の起承転結
【起】団地 のあらすじ①
近畿地方にある古びた団地A棟の302号室に住んでいる山下清治のもとを、真城貴史という青年が訪ねてきました。
以前に商店街で山下漢方という老舗を切り盛りしていた清治の引っ越し先を、漢方薬局の連合会に問い合わせて突き止めたそうです。
科学薬品へのアレルギーがあるために清治が調合する薬でなければ駄目だという、真城の頼み事を断ることができません。
それ以来真城が手配した業者の配達人が定期的にやって来て、漢方薬の入った包みを受け取りにきます。
いま現在の団地の自治会長は302号室の上の階に住んでいる行徳正三ですが、次の選挙では清治が選ばれると期待されています。
緑地計画から集会所での住民同士の交流、災害時における連絡網と誘導係の新設、高齢者への声かけ運動の実施… 自治会の改革案をあれやこれやと考えていた清治でしたが、選挙の当日には予想に反して行徳が再選されました。
落選したことにショックを受けた清治は自宅の床下の収納場所に逃げ込んで、一歩も外に出ようとしません。
【承】団地 のあらすじ②
清治が自分のお店を廃業にしたのは、妻のヒナ子との間に授かった息子の直哉が3年前に亡くなったことがきっかけです。
久しぶりに真城が顔を出したのは、直哉の遺影と割れたバイクのヘルメットが飾ってある仏壇の前に座って手を合わせるためでした。
運送会社の部長が報道陣を連れてやって来ただけで、衝突事故を起こしたトラックのドライバーは謝罪の手紙さえ送ってきません。
自分も初めての子どもを亡くしたばかりだという真城は、これまでの恩返しをさせてほしいと申し出てきました。
真城が用意してきた5000万円で材料を取り寄せて、清治とヒナ子は部屋の中で大量の漢方薬を作り始めます。
軽トラックで次々と302号室へと運び込まれていくドライアイスとプラスチック容器、3カ月近く姿を現していない清治。
団地の住人たちはヒナ子が清治を殺害して、遺体をバラバラにして運び出そうとしていると勘違いしてしまいました。
清治の消息を聞きにきた隣人には、漢方の勉強をするために中国の雲南省へ旅行に行っているとだけ言っておきます。
【転】団地 のあらすじ③
ヒナ子の態度が不自然なためにかえって不信感をあおり、通報を受けた近所の交番から警察官が駆け付けてきて大騒ぎです。
自転車に乗った警官が団地の集会所に来ましたが、証拠もなく憶測だけでは強行に家宅捜索はできません。
みんなを代表して行徳が302号室の中に入って様子を見てみると、清治は何事もなかったかのように立っています。
ここ数日のあいだに部屋の中から運び出されていたのは5000人分の漢方薬で、すべては免疫力が低下していた真城の同郷人を救うためのものでした。
真城の正体は宇宙の果てからやって来た異星人で、漢方薬のお礼に死んだ直哉と会わせてくれるそうです。
翌朝になって行徳を先頭にヒナ子たちが階段を降りてきてA棟の玄関口へ出ると、生きていた清治を見て人だかりからは悲鳴が上がりました。
敷地内にはバラバラ殺人をスクープしようとマスコミ関係者まで詰めかけていましたが、1台のテレビカメラが空に浮かんだ巨大な円盤を捉えます。
【結】団地 のあらすじ④
みんなが団地の上空に気を取られているために、ヒナ子と清治は真城の案内で団地の裏手にある林の中から円盤の内部へとすんなりと乗り込みました。
円盤はあっという間に地球を離れていき、ヒナ子と清治は船内の通信装置を使って行徳との別れを済ませます。
ふたりは真城から直哉のへその緒を持ってくるように言われていましたが、木箱の中に入れて食卓の上に置いたままです。
船はすでに木星のあたりを通り過ぎていて、今さら引き返す訳にはいきません。
残された最後の手段は時空を巻き戻して、円盤が真城たちを迎えに来たあの日にまでさかのぼることです。
次の瞬間に清治は302号室のベランダに出ていて、団地の真上を見上げると真っ赤に染まって輝く物体が飛んでいます。
ヒナ子はいつものように夕食の準備をしていましたがお箸も食器もしっかりと3人分並べられていて、部屋の中には仏壇がありません。
奥の玄関そばのトイレからは水を流す音が聞こえてきて、ドアが開くと家族3人での食事が始まるのでした。
団地 を観た感想
集会所での奥さまたちの世間話や自治会長のポストをめぐる争いなど、ごく普通のホームドラマのような雰囲気で序盤は進んでいきます。
「団地はうわさのコインロッカー」という山下ヒナ子のセリフ通りに、ありもしない殺人事件に住民たちが振り回されていく様子にはリアリティーがありました。
暑い日にも涼し気な表情を浮かべてスーツを着こなすミステリアスな訪問者、真城貴史役の斎藤工の怪演が光っています。
後半には壮大なスケールで描くSFの展開へと突入しつつも、ラストは家族の食事の風景で穏やかに締めくくるところも清々しいです。
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