映画「空気人形」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|是枝裕和

空気人形

監督:是枝裕和 2009年9月にアスミック・エースから配給

空気人形の主要登場人物

のぞみ(ペ・ドゥナ)
ヒロイン。等身大の人形でシリコン製。男性を引き付けるが女性には生理的な嫌悪感を与える。

純一(井浦新)
のぞみの同僚。映画に関する知識を生かしてレンタルビデオ店で働く。

秀雄(板尾創路)
のぞみの所有者。ファミレスのホールスタッフだが要領が悪い。職場でのうっぷんを家の中で晴らす。

鮫洲(岩松了)
純一の上司。お気に入りの映画は劇場で見るのがこだわり。

人形師(オダギリジョー)
のぞみの製作者。自分が手掛けた人形には1体1体に思い入れがある。

空気人形 の簡単なあらすじ

空気人形の「のぞみ」に突如として生命が宿り、持ち主の秀雄が留守にしている間にこっそりと外に出掛けます。

大勢の人たちと言葉を交わして触れ合う中で、特別な感情を抱いた相手がレンタルビデオ屋の店員・純一です。

普通の人間ではないことを承知の上で彼女と一緒に過ごしていた純一ですが、のぞみに殺害されてしまうのでした。

空気人形 の起承転結

【起】空気人形 のあらすじ①

空っぽの私が歩き出す

ひとり暮らしでお付き合いをしている女性もいない中年男性の秀雄には、成人男性向けのシリコン人形くらいしか話相手がいません。

「のぞみ」と名付けられた人形はいつものように朝早くに秀雄が出勤すると、自らの意志で動き始めました。

気ままに街中を散歩していたのぞみが気になったのは、レンタルビデオショップ「シネマサーカス」のキラキラとした看板です。

カウンターで店番をしていた純一に声を掛けられたのがきっかけで、このお店でアルバイトを始めることになりました。

名画から最新の作品にまで詳しい純一の同僚として、のぞみは少しずつ映画の豆知識や世間の常識について学んでいきます。

もうすぐクリスマスが近いこともあり、一緒に過ごす人がいるのかしつこく詮索してくるのは店長の鮫洲です。

彼氏はいないとうそをついたのぞみは家に戻ると人形のふりを続けていたために、秀雄は気がついていません。

のぞみは専用のポンプで腹部から定期的に空気を入れないと、萎んでしまいます。

【承】空気人形 のあらすじ②

知識と命を吹き込む

生まれてから海を一度も見たことがないというのぞみのために、休みの日に純一が電車で連れて行ってくれました。

人間には誕生日があること、いつかは誰もが死を迎えることを教えてもらったのぞみは純一に対して個人的な興味を抱いていきます。

デートが終わって秀雄の家に帰ったのぞみが棚の奥から引っ張り出したのは、商品として自分が入っていた空き箱です。

ラベルに記載されていた5980円という値段を見て、自分が旧型の安物であることを理解しました。

非番中の警察官から幼い娘とふたりだけで暮らしている父親、浪人生活を送っている青年まで。

のぞみは男性客からやたらと映画についての問い合わせを受けますが、まだまだ勉強が不足なために答えられません。

純一に助けてもらってばかりの自分が、何の役に立っていないことを痛感してしまいます。

勤務時間中にのぞみは転倒して右手に空いた裂け目から空気が抜けてしまい、純一は彼女が普通の人間ではないことに気が付きました。

純一は破損した部分をセロハンテープで補強して、空気穴に口移しで息を吹き込んでのぞみを救います。

【転】空気人形 のあらすじ③

誰もが誰かの代用品

ずっと同じファミリーレストランで働いている秀雄でしたが、一向にお客さんの注文を覚えられません。

調理室で3つ年下の店長から「代わりはいくらでもいる」と言われた秀雄は、帰宅するとのぞみを物置きの奥へと押し込んでしまいました。

留守中にパソコンを起動してブログを見たのぞみは、秀雄が以前にお付き合いをしていた女性の名前が「のぞみ」だったことを知ります。

秀雄が新しい「のぞみ」をお迎えするためにバースデーパーティーを秀雄が開いていると、その場に現れたのは心を持った方ののぞみです。

昔の恋人のせいで生身の女性が面倒くさくなったという秀雄は、元の人形に戻るようにのぞみにお願いしてきました。

その言葉にショックを受けたのぞみは家出を決行して、もう秀雄のもとに帰るつもりはありません。

ひと晩公園のベンチで野宿をしたのぞみは、以前にここで知り合った高齢男性・敬一を訪ねてみます。

いま現在では定年退職して働いていない敬一でしたが、戦時中は免許も資格も持たない代用教員をしていたそうです。

【結】空気人形 のあらすじ④

美しくも残酷な世界

住所と道順が書かれた1枚の紙切れを片手にのぞみがたどり着いたのは、「有限会社 ツチヤ商会」と表札が掛かった街角の建物です。

中は人形師の工房になっていて、のぞみと同じ型番の人形が制作途中のままでズラリと並んでいました。

のぞみがなぜ心を持ってしまったのか人形師に聞いてみましたが、作った本人でさえ分かりません。

ここに返品されてきた人形は燃えないごみ、いつか死ぬ運命の人間は燃えるごみ。

この世界にも少しだけ美しいものがあると言い残して純一の家に向かうのぞみを、人形師は嬉しそうに見送ります。

他の人には絶対に頼めないという純一の願い事は、のぞみの空気を抜いて自分の息で彼女の体を満たすことです。

のぞみは反射的にナイフで純一の体を刺してしまい、傷口から息を吹き込もうとしますが流れ出る血が止まりません。

のぞみは純一の遺体を大きなビニール袋の中に包むと、部屋の外に出てマンションのごみステーションに捨てます。

清掃車が回収しにくるまでごみ袋の横で寝転んでいるのぞみの口からは、静かに空気が流れているのでした。

空気人形 を観た感想

自宅では強気な発言が多いものの、3つ年下の店長の前に出ると嫌みを言われながらも薄ら笑いを浮かべるしかない秀雄が情けないです。

そんな秀雄にとっては唯一無二の心のよりどころとなる、ヒロイン「のぞみ」を演じているペ・ドゥナが魅力的でした。

どこか浮き世離れしたような彼女に漂う雰囲気が、人間と人形のあいだで揺れ動く役どころにはピッタリと填まっています。

トタン屋根の一軒家がズラリと並んでいる住宅地や高架下のひっそりとした公園など、物語の舞台となる東京の下町にもノスタルジックです。

はるか後方には最新モデルのタワーマンションが建ち並んでいて、「空っぽな町」と評する敬一の言葉が忘れられません。

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