【ネタバレ有り】凍りのくじら のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:辻村深月 2005年11月に講談社ノベルスから出版
凍りのくじらの主要登場人物
芦沢理帆子(あしざわりほこ)
クラスの上位にいる女子高生。周りに興味を持たず、「少し、○○」と他人を勝手に評価をする癖がある。
別所あきら(べっしょあきら)
突然、理帆子の前に現れカメラのモデルを依頼する。しかし、実は別所は昔失踪した理帆子の父親だった。
若尾大紀(わかおだいき)
弁護士を目指す理帆子の元彼。カワイソメダルを着けている彼は何でも許されてしまう。
松永純也(まつながじゅんや)
理帆子ら親子の援助をしてくれている。プロピアニスト。
松永郁也(まつながいくや)
松永の息子で私生児。心の病気で口が聞けなくなるが、別所が消え声が出るようになる。
凍りのくじら の簡単なあらすじ
藤子・F・不二雄を敬愛する女子高生・芦沢理帆子のマイブームは、「SF」という言葉を本来の意味とは全く関係ない人や物事の性質に当て嵌めることでした。Sukoshi・Fuzoroi(少し・不揃い)な友達と遊び回って、Sukoshi・Fuhai(少し・腐敗)な元カレに付きまとわれつつ、Sukoshi・Fukou(少し・不幸)な母親のお見舞いに行く毎日です。理帆子自身はSukoshi・Fuzai(少し・不在)で学校でも放課後でも居場所の無さを感じていましたが、Sukoshi・Fukenkou(少し・不健康)な先輩との出会いによって不思議な体験をすることになるのでした。
凍りのくじら の起承転結
【起】凍りのくじら のあらすじ①
芦沢理帆子が1学年上の別所あきらに声をかけられたのは、7月の放課後で場所は学校の図書室です。初めて会ったはずなのに何処か見覚えのある顔の彼から、写真のモデルを頼まれました。申し出を断った理帆子でしたが、その後も昼休みや放課後になるとあきらは彼女のクラスにやって来ます。他の学年の男子が訪ねてくるのに、クラスメートたちは彼に全く反応しません。ある日の午前中に具合が悪くなった理帆子が早退して電車に乗っていると、小学生くらいの男の子と一緒にいるあきらを目撃しました。こっそりと理帆子がふたりを尾行していくと、見知らぬ町のマンションに入っていきます。尾行に気付いていたあきらから明かされた少年の名前は、松永郁也です。松永郁也の父・純也は世界的な指揮者として活躍していて、理帆子の両親の高校時代からの親友でもあります。私生児として産まれて4歳の頃に母親を亡くした郁也は、6年もの間言葉を発することが出来ません。
家政婦とふたりっきりでマンションで暮らしている郁也のもとを、この日以来理帆子は学校帰りに訪れるようになりました。毎日のように部屋に籠ってピアノのレッスンに打ち込んでいるという、郁也の演奏を聞いた理帆子はビックリしてしまいます。小学生とは思えないほどの豊かな才能は父親譲りになり、純也と本妻との間に産まれてピアノコンクールでの入賞経験のある娘・詩織を遥かに上回るほどです。愛人の子供というた立場もあって、表舞台でピアノを弾くことが出来ないのでしょう。
【承】凍りのくじら のあらすじ②
授業が午前中で終わりになる土曜日に、理帆子は母親の汐子が入院している病院へと向かいました。理帆子の父・光は彼女が小学6年生の夏休みを迎える直前に「僕のことは待っていなくていいから」と言い残したまま家を出て、今現在でも消息不明となっています。汐子が病気で倒れて入院したのは、突然の父の蒸発から3年が経って理帆子が中学3年生になった時です。医師から告知された病名はガンで発見が遅れて転移も著しく、手術も不可能なために余命いくばくもありません。お見舞いを済ませて病室を出た理帆子が喫茶コーナーでひと休みしていると、いつの間にか目の前にあきらが立っていました。彼の祖母もこの病院に入院しているようで、同じくお見舞いの帰りふたりが世間話やお互いの家族について打ち明けていると、松永純也が側を通りかかりました。純也が男手のない芹沢家の面倒を何くれと無く見てくれていて、経済的な援助まで買って出てくれるのは今でも理帆子の父に恩義を感じているからです。何故かあきらを無視した純也は、理帆子にだけ挨拶をして汐子の病室へと入っていきました。汐子の容態が急変したのは、9月の最後の残暑厳しい夜です。昏睡状態に入った汐子はたくさんの管に繋がれていて、理帆子の問いかけにも答えることはありません。意識を取り戻さないまま、3日後の朝には亡くなってしまいました。松永を中心にした父の友人や仕事仲間の他、母の知り合いや近所の人たちに見送られて汐子は静かに旅立ちます。
【転】凍りのくじら のあらすじ③
若尾大紀と理帆子が別れてから2ヶ月が過ぎていましたが、未だに元カノに対して未練たらたらでした。人一倍プライドの高い彼は次第に被害妄想気味になり、遂には理帆子を逆恨みして郁也を誘拐してします。郁也の監禁場所は、ふたりが付き合っていた頃に流星群を見に行った海岸です。付近に打ち捨てられていた冷蔵庫の中から郁也を救出した理帆子は、微かに呼吸をしている彼を背負ったままで病院へと急ぎます。辺り一面が暗くなってきた中で、何処からともなく駆け付けてきたのはあきらです。10月の終わりながら出会った頃のままの夏服姿、同級生や松永たちの瞳には映らなかったあきら、「光」と書いて「あきら」と読む理帆子の父の名前、どこか懐かしいその顔立ち。
理帆子の心の奥底には堰を切ったように父の思い出が溢れ出していき、忘れていたその顔が浮かんできました。理帆子が初めて郁也の声を聞いたのはその瞬間で、慌てて背中から下ろして彼の小さな身体を抱きしめます。欲しいものがある時はそれを言っていい、痛かったから泣いていい、嫌だったら逃げていい。理帆子の必死の訴えかけによって、ようやく郁也は子供らしい喜怒哀楽と言葉を取り戻すことが出来ました。
松永たちと合流する頃にはあきらは居なくなっていて、この日を境に理帆子が彼の姿を見ることはありません。理帆子は郁也を助けて夜の海へと消えていった父に感謝をすると共に、汐子とふたりで安らかに眠ることを願います。
【結】凍りのくじら のあらすじ④
理帆子の父は高校生の時に権威ある写真コンクール「アクティング・エリア」に応募して、最年少で大賞に輝きました。カメラマンとして残した膨大な彼の作品を、写真集にして纏めたのが汐子になります。ふたりの意思を受け継いだ理帆子は2代目「芦沢光」となり、新進気鋭のフォトグラファーとして創作活動を続けていました。アクティング・エリアの大賞を親子で受賞したのは、理帆子が25歳になった時です。理帆子は様々なジャンルで活躍する20代女性のひとりとして、人気のファッション雑誌の記者からインタビューを受けることになります。北海道北西の氷の海に迷い込んで動けなくなり息絶えていったくじらのように、底無しに暗い色が理帆子の写真の持ち味です。これまでは風景や蝶などを撮影することが多かった理帆子でしたが、大賞を受賞したのはポートレート作品でした。取材を終えた理帆子は記者と別れて、その足で受賞作が飾られているデパートの特別展示室へと歩き出します。写真のモデルになってくれたのは今ではすっかり饒舌になった郁也で、ピアニスト志望ながらも理帆子の良きライバルです。写真の中の郁也は冬の寒い朝に凍った湖の上に立っていて、曇り空の隙間から注ぐ光を仰ぎ見ていました。学生時代に暗い海の底にいた理帆子がその場所から抜け出せたのは、家族や友人に光を照らしてもらったからです。今度は自分自身で光を多くの人に届けるために、理帆子は写真を撮り続けていくことを決意するのでした。
凍りのくじら を読んだ読書感想
随所に散りばめられているドラえもんのマメ知識やこぼれ話が満載で楽しかったです。
著者・辻村深月から藤子・F・不二雄への、並々ならぬ思い入れも伝わってきました。「どこでもドア」や「タイムカプセル」を始めとする誰しもが知るものから「いやなことヒューズ」や「どくさいスイッチ」などのマイナーなものまで、各章のタイトルが秘密道具になっていて遊び心があります。ヒロインの芦沢理帆子が周りの人たちに密かにニックネームを付ける、SF(スコシ・ナントカ)も面白かったです。何事にも冷めた眼差しを送って他人との間に壁を築き上げていた理帆子が、謎めいた先輩・別所あきらとの交流を通して変わっていく姿には心温まるものがありました。母の死と父の不在を乗り越えた理帆子がその遺志を受け継ぎ、カメラマンとして大成するラストが感動的です。
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