「まともな家の子供はいない」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|津村記久子

「まともな家の子供はいない」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|津村記久子

著者:津村記久子 2011年8月に筑摩書房から出版

まともな家の子供はいないの主要登場人物

飯田セキコ(いいだせきこ)
ヒロイン。受験勉強中の中学3年生。人の所作や言動を軽く受け流せない。

飯田セリカ(いいだせりか)
セキコの妹。要領がよく周りに合わせるのもうまい。

ナガヨシ(ながよし)
セキコの親友。ネット依存性の母に振り回されることが多い。

大和田まこと(おおわだまこと)
ナガヨシの意中の人。水商売に拒否反応を示す。

室田いつみ(むろたいつみ)
セキコのクラスメート。裕福な家庭に生まれながら居場所がない。

まともな家の子供はいない の簡単なあらすじ

長期休暇に入ったものの両親と妹との関係が悪化している飯田セキコ、自宅に居づらいために日中は外に出て時間をつぶすつもりです。

クラスメートや友だちのさまざまな家庭の事情や意外な一面を知ることにより、結果として宿題も片付いていきます。

まもなく2学期か始まる頃に母親とは和解、長らく無職だった父もようやく社会復帰への第一歩を踏み出すのでした。

まともな家の子供はいない の起承転結

【起】まともな家の子供はいない のあらすじ①

親密すぎる3人に入り込む余地なし

昼間からキッチンでうどんを打っている飯田セキコの父親には、再就職先を探しているような気配はありません。

妹のセリカは一緒になってプレイステーションで遊んだり、洋服を買ってもらったり。

文句も言わずに朝早くから検品のアルバイトに励むのは母、夜遅くなると夫婦の寝室からは激しく性交中の声が。

イヤホンを耳に差し込んで音量をあげたセキコ、カバンの中から分厚いテキストを引っ張り出しました。

毎年盆休みになると塾で配られる問題集は全部で5科目、2年生の時よりも分量が増えていて1冊が50ページほど。

雑音をシャットアウトしたおかげで社会だけはやり終えましたが、まだまだ先は長いです。

同じ塾で席も隣同士だったクレは2カ月ほどお休み中、塾長に頼まれていた冊子を届けにいくことに。

TOEICで780円点を取っただけあってあっという間に英語の長文を解いてしまったクレ、ただしデータはUSBフラッシュの中に記録されています。

母親不在の家庭で育ったクレは父を悲しませないため、まともな人生を送るために高校には行くそうです。

【承】まともな家の子供はいない のあらすじ②

甘く危険な追跡劇の先には

しばらくは両親の顔が直視できなくなったセキコ、そんな時にはこれまで度々お邪魔したナガヨシの家へ。

中学1年のときからですからもう2年以上の付き合いになり、デスクトップもあるので好都合です。

1日中ネットショッピングをしているというナガヨシの母親、この日もお取り寄せのチーズケーキを切り分けてお土産にクリームパンまでくれました。

肝心のパソコンには触らせてもらえなかったためにお暇して、長屋と商店で混みあった場所にあるマンションへ向かいます。

12階に住んでいる大和田まことのことを、夏休みに入ってからずっと追いかけているというナガヨシ。

尾行に困惑しながらもノートパソコンを使って、USB内のファイルを画面に映し出してくれる大和田。

駅裏の歓楽街でスナックをやっているという大和田の母親、最近になってやたらと酒癖が悪くなったそうです。

常連の男性客をめぐって女性スタッフとの仲が険悪に、結果として妹のようにかわいがっていた彼女を追い出すことに。

自分の周りにまともな大人はいないという嘆きを、セキコは肯定すべきか否定すべきか分かりません。

【転】まともな家の子供はいない のあらすじ③

レールを飛び越えれば友情の始まり

日中はクーラーがほどよく効いた図書館で勉強しているセキコ、いつものように開館直後の時間帯をねらって自転車で到着すると「臨時休館日」の札が。

とほうに暮れていると声をかけてくれたのは室田いつみ、クラスは同じですがこれといった接点はありません。

飯田家があるのは古くからの住民が集まる公団、室田家があるのは線路を挟んで反対側にある新興住宅地。

赤茶色を基調としたスタイリッシュな外観、玄関口には高価な花やリトグラフが並べてありました。

計算問題に集中するのが苦手なセキコ、漢字の書き取りが多くて大変だという室田。

お互いの空白を埋めあっているうちにお昼時に、室田の母親がパスタの盛られたお皿と水のはいったグラスを持ってきてくれます。

見た目こそ女性雑誌の表紙を飾るようなパーフェクトさですが、つい最近まで同じ町内の妻子持ちの男と不倫をしていたとのこと。

室田に言わせると親には何かしらおかしいところがあって、まともな家など1軒もないそうです。

【結】まともな家の子供はいない のあらすじ④

面倒くさいけど切り捨てられない絆

夏休みの最終日、ベランダに干していたはずの水着がなくなっているためにセリカはプールにでも遊びにいっているのでしょう。

仕事を休んでまで話し合いたいという母、さすがに無視はできないとテーブルの前に正座するセキコ。

パート先で事務員がひとり産休に入るために、来月からは正社員になれるそうです。

「正社員」とはいっても手取りは17万円前後、高校は公立を受験して大学へ進学するには奨学金の利用が必須。

お金で我が子に心配をかけるのが情けないこと、それでも夫を愛していて別れるつもりはないこと。

とりあえずは現実的なことを進めようと決めたセキコ、課題を全教科揃えると不思議と体中から強ばりが抜けていきます。

理数系に手こずっているというナガヨシからコピーを頼まれたために近所のコンビニエンスストアへ、カウンターには店員の制服を着た父が。

数日前まで貼ってあったアルバイト募集の紙が失くなったことに気がつき、セキコは「家族って、ほんとにめんどくさい」と声に出すのでした。

まともな家の子供はいない を読んだ読書感想

お父さんが腕をふるって作ってくれた手打ちうどんから物語はスタート、せっかくの美味しそうなランチメニューも主人公セキコはお気に召さないようで。

まったく家に帰ってこないのも困りますが、一日中男親と顔を突き合わせなければならないのも思春期の女の子としては苦痛でしょうね。

虐待親でもなくDV夫でもないのが唯一の救いだとしても、あまりにも無気力で無目的な生き方は反面教師と言えるかもしれません。

男女、貧富、優劣、父母… 外に目を向けてみると皆さんそれぞれお悩みを抱えながらも強く生きている子ばかりで、世の中の大人が何をすべきが問われているような気がしました。

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