著者:永井みみ 2023年11月に集英社から出版
ジョニ黒の主要登場人物
坂本アキラ(さかもとあきら)
横浜市巴町に住む小学四年生。物語の語り手である〈俺〉。
坂本マチ子(さかもとまちこ)
アキラの母親。文房具店に勤めている。
父さん(とうさん)
アキラの父親。作中に名前は出てこない。
守川茂雄(もりかわしげお)
アキラの同級生。通称モリシゲ。ハーフで金髪。
日出男(ひでお)
マチ子にとっての『犬』、つまり『ヒモ』。
ジョニ黒 の簡単なあらすじ
〈俺〉は母親とふたりで、狭くてボロっちい借家に住んでいます。
父親は四年前の夏に〈俺〉を助けて、海で行方知れずになりました。
小学校四年の夏休み、〈俺〉は同級生たちと遊んだり、ばーちゃんと教会のミサに行ったり、母親のヒモと行動したりしていました。
そのうち、親友が引っ越し、母親のヒモも姿を消します……。
ジョニ黒 の起承転結
【起】ジョニ黒 のあらすじ①
〈俺〉の名前は坂本アキラ。
横浜の巴町に住む小学四年生です。
夏の暑い日、〈俺〉は同級生の友だちと五人で遊んでいました。
うち三人は、中学受験組で、先に帰っていきました。
最後に残った守川茂雄ことモリシゲは、〈俺〉の家の近所に住む友だちです。
ふたりで家路につき、〈俺〉はモリシゲと別れて自宅に入りました。
庭では、母親のマチ子の、最近できた恋人、というかヒモである日出男が、たき火をしていました。
そこへ、マチ子がもどってきました。
勤めている文房具店から、昼食をつくりに帰ってくるのです。
「今日は外で食べてきて」と、日出男にお金を渡します。
〈俺〉は日出男につれられ、途中モリシゲと合流して、スナック美奈登へ行きました。
日出男は勝手に鍵をあけ、店内でナポリタンをつくって、〈俺〉たちにふるまいます。
自分はジョニ黒をガブガブ呑みすると、証拠隠滅のために、その瓶のなかにジョニ赤を継ぎ足したのでした。
別の日、日出男は外から電話してきて、モリシゲと、彼の飼っているシェパードのヤマトといっしょに巴町公園に来るように、と言うのでした。
【承】ジョニ黒 のあらすじ②
公園に行くと、日出男がエリという名前のメス犬を連れてきました。
エリは、父親の特徴をそなえた子犬を産む性質を持っているのだそうです。
そこで日出男は悪いことをたくらみました。
モリシゲの家のシェパードのヤマトと、このエリを交尾させて、シェパードに似た子犬を産ませ、シェパードといつわって売ってお金を稼ごう、というわけです。
さて話は変わり、日曜日、〈俺〉はばーちゃんに連れられて、教会のミサに出席しました。
神父さんが、自分の息子を生贄に差し出したアブラハムの話をします。
礼拝が終わってから、溝口さんという、ミッション系の女子校に通う帰国子女と二人になりました。
〈俺〉は彼女に、誰にも言ったことのない秘密を話します。
四年前、〈俺〉は、母と、別居中の父と、三人で、海へ行きました。
そこで溺れかけた〈俺〉を、父が必死に助けようとし、あとは記憶がありません。
父はいまだに見つかっていません。
溝口さんは〈俺〉を慰めてくれ、自分のスクールリングをくれたのでした。
再び話は変わります。
夏休みの自由研究で、〈俺〉は川の漂流物を記録することにしました。
現地で調査していると、バラバラ死体が流れているのを見つけたのでした。
〈俺〉は町内を巡回していた町会長に知らせました。
ちなみに町会長というのはモリシゲのおじいさんで、いつも犬のヤマトをつれて町内を巡回しているのです。
【転】ジョニ黒 のあらすじ③
バラバラ死体は町会長が発見した、ということにしました。
町会長はテレビの取材を受けて、とくとくと自分のプロファイリングを述べます。
そこへモリシゲが乱入して、カメラの前で勝手なことをしゃべったりして、めちゃくちゃでした。
さて、日出男ですが、ここしばらく〈俺〉の家に帰ってきていません。
彼は、マチ子には、スナック美奈登で働くと言っていたようです。
ある日、〈俺〉がモリシゲと市民プールに行くと、そこへ日出男がやってきました。
どうやら彼は、マチ子に婚約指輪を買うために、まじめに働いていたようなのです。
しかし〈俺〉は、ウキウキする日出男に、マチ子に新しい男ができたことを告げざるをえませんでした。
日出男はカラ元気を出して〈俺〉を家まで送ると、去っていったのでした。
〈俺〉はスナック美奈登へ行ってみました。
おかまのマダムは、日出男はここで働いていなかったと言います。
そして、日出男の居場所も知らないし、知っていても教えない、と告げるのでした。
一方、モリシゲから、突然引っ越すことを知らされました。
母親からの誘いで、芸能プロダクションに入るとのことです。
〈俺〉は、引っ越したモリシゲが初めて出演したテレビ番組を見ました。
でっちあげの父子ネタでした。
放送後、モリシゲから電話がありました。
モリシゲは、浮世離れした話ばかりします。
〈俺〉は沈黙するしかありませんでした。
【結】ジョニ黒 のあらすじ④
夏休みの最終日、〈俺〉は千円札を持って、伊勢崎町へと出かけていきました。
自分で描いた日出男の似顔絵を持って、「この人を知りませんか?」と、尋ねてまわります。
すると、ひとりのおばさんが、あるバラック小屋に連れていってくれました。
そこには日出男に似たおじいさんがいて、日出男のことを教えてくれました。
おじいさんは、ニセモノ作りの世界では、ちょっとばかり名前の知られた名人だそうです。
おじいさんは、日出男には真面目に仕事をしてもらいたい、と思って育てたそうです。
おじいさんと別れた〈俺〉は、以前声をかけられた女の人を訪ねてまわりました。
それでわかったのは、あの女の人は、水商売をしている人で,先月〈俺〉が見つけたバラバラ死体こそが彼女だ、ということでした。
巴町にもどると、モリシゲのおじいさんに会いました。
おじいさんは憔悴しきって、別人のようでした。
おじいさんから、パトロールの腕章と胴巻をわたされ、〈俺〉は町内の巡回に行きます。
犬のエリは流産していることがわかります。
エリが流産した子は、ヤマトの子ではありませんでした。
〈俺〉は死んだ子に、「ジョニ黒」という名前をつけてやりました。
そのあと〈俺〉はプラモ屋へ行きましたが、そこで店長につかまり、野原へつれていかれました。
野原では、ラジコン飛行機の操作をさせてもらいました。
こうして、〈俺〉の夏休みの最後の一日が終わろうとしています。
そんなとき、〈俺〉に声をかけてきた者がいました。
それはとても懐かしい男の声でした。
ジョニ黒 を読んだ読書感想
読んでいて、ロブ・ライナー監督の映画「スタンド・バイ・ミー」を思いだしました。
あちらは心に傷をおった少年たちの、死体をさがす冒険旅行を描いたものでした。
本作「ジョニ黒」でも、主人公の少年は心に傷をおっています。
しかも、バラバラ死体まで出てきます。
もしかすると、著者の頭のなかに、かの映画のイメージがあったのではないか、と想像したものです。
真相はどうかわかりませんが。
それにしても、永井みみ氏の書く作品は、独特の雰囲気があります。
作家として分類するなら「純文学作家」ということになるのでしょうが、氏の書くものは、きわめて平易です「純文学作品」にありがちな、むつかしくて、とっつきにくい感じがしないのです。
それでいて、作品には人生の哀しみがあふれ、読んでいて、ホロリとさせられるのです。
処女作「ミシンと金魚」もそうでしたし、本作もそうです。
人生の滋味を味わえる佳作だと思います。
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