著者:宇佐美まこと 2019年12月に祥伝社から出版
黒鳥の湖の主要登場人物
財前彰太(ざいぜんしょうた)
ザイゼンコーポレーションの社長。代官山の一軒家に、妻と娘の3人で暮らす。興信所で働いていた時代に関わった事件と類似の手口が、18年振りに横行し始め、危機感を覚えている。
財前由布子(ざいぜんゆうこ)
彰太の妻。美華が素行不良になってから心を病み、「瞑想会」に参加し始める。
財前美華(ざいぜんみか)
財前夫妻の一人娘。小学校から大学までエスカレーター式に進学する名門女子校・桜華台学園に通う。クラッシックバレエを6歳から習い始め、高校2年生の初めに辞めた。最後の発表会の演目は『白鳥の湖』。黒鳥である悪魔の娘オディールを演じた。
大黒様(だいこくさま)
高雲寺の住職・平井瑩迪の妻で、若院の母。
若院(じゃくいん)
高雲寺の住職の息子。「瞑想会」で説法をする。本名は啓司。
黒鳥の湖 の簡単なあらすじ
財前彰太は、妻・由布子と娘・美華と平穏に暮らしていました。
しかし世間では、女性が拉致され、その身体の一部を家族に送り付けるという猟奇的な事件が横行しています。
18年前、探偵事務所に勤務していた時、類似の事件に関わった彰太は焦ります。
野放しになった真犯人が犯行を再開したのではと頭を抱えていた頃、美華が行方不明になります。
目を背け続けていた数々の問題に正面から向き合う決断をするのでした。
黒鳥の湖 の起承転結
【起】黒鳥の湖 のあらすじ①
誘拐された被害者の着用していたワンピースの切れ端が、家族の元へ届いたというニュースがテレビで流れました。
「ザイゼンコーポレーション」を経営する社長の財前彰太は、朝食を取りながらその放送を見ていました。
彰太は類似の手口を知っていました。
さかのぼること18年前、彰太は「ナンバーワン興信所」で調査員として働いていました。
当時、谷岡総一郎という依頼人が、「行方不明の娘・奈苗を探して欲しい」と興信所を訪ねてきました。
谷岡の元には奈苗のハンカチや手袋といった所持品が送り付けられてきたと言います。
送られてくる物は、ブラウスの切れ端やペンダントなど次第に身に付ける物へと変化していき、しまいには髪の毛、剥がした爪へとエスカレートしていきます。
ただ、奈苗は犯人の元から自力で抜け出し、現在は27歳。
事件が起きたのは奈苗が当時19歳で、8年も前の話だと言います。
本当の調査の依頼内容は、その犯人の男を見つけることでした。
一方その頃、彰太の恋人の由布子は妊娠していました。
彰太は結婚したいと考えていましたが、由布子の父貴大は猛反対します。
彰太の両親が離婚して父親が亡くなった後、大学を中退したことだけでなく、10代に窃盗を犯し、少年鑑別所へ送られていたことまで突き止められていました。
八方塞がりの彰太は、文雄に助けを求めます。
しかし文雄は、彰太に手を貸す気はありません。
そこで彰太は、文雄を犯人として仕立て上げ、総一郎へ報告することを思いつきます。
【承】黒鳥の湖 のあらすじ②
美華は帰りの遅い日が目立つようになり、やがて格好も派手になっていきました。
そしてついに、無断外泊を繰り返すまでに荒れていきました。
彰太も由布子も原因が分からず、頭を抱えます。
由布子は心療内科に通い、向精神薬や睡眠導入剤に頼る生活になっていました。
一方、彰太は谷岡総一郎の身辺を探り、真犯人に近づこうとします。
家を訪ねると、息子・智の妻である比佐子が応じてくれましたが、総一郎は既に他界していました。
また、驚くべきことに、総一郎に娘はいないと判明します。
奈苗が誰なのか、真実を探るべく、総一郎が携わっていた同人誌『花信風』の仲間の久慈を訪ねます。
直接的な有力情報は得られなかったものの、当時、総一郎が娘だと語っていた奈苗は、総一郎の家政婦だった清水皐月の娘である可能性が高まります。
精神が疲弊していた由布子は、知人に誘われ高雲寺の「瞑想の会」に参加し始めます。
住職の息子である若院の説法を聞き、若院の母・大黒様に悩みを聞いてもらうことが習慣になりました。
やがて、彰太も共に参加するようになり、高雲寺は財前夫妻の心の拠り所になっていきました。
【転】黒鳥の湖 のあらすじ③
春休みになり、いかがわしいバイトに手を染めた美華は、警察に補導されます。
その帰り道に、美華は、彰太の本当の子供では無いことを知っていると打ち明けます。
彰太に黙ってDNA鑑定をおこない、親子関係は無いという結果から、美華の想像だけで語られていないことは証明済みでした。
彰太もまた、美華が自分の子ではないことを知っていたと告白します。
一時は穏やかになりかけた美華でしたが、春休みが終わると、美華は学校にも行かず、家に引きこもるようになりました。
4月下旬のある日、美華が行方不明になります。
心当たりを探しますが、有力な情報は得られないまま、時間だけが過ぎていきました。
一方、社長を務めるザイゼンコーポレーションでは、彰太を社長の座から下ろす動きがありました。
公私共に歯車は狂い始めます。
そんな中、由布子の母・愛子からすぐに帰ってきてほしいと電話を受けます。
失踪中の美華の持ち物が、彰太の家に送られてきたというのです。
彰太は全ては自分の過去の報いだと考え始めます。
【結】黒鳥の湖 のあらすじ④
次々と送られてくる美華の所持品に、思い出されるのは例の連続殺人事件のことでした。
新たな被害者の可能性に、世間も再び騒ぎ始めます。
ところが、彰太の元に、美華から電話がかかってきます。
美華は現在、バレエ教室の仲間だった佐田愛璃の実家である、北海道新冠町にいると言います。
事件に巻き込まれておらず、1人になりたいという美華の意思で家出したと説明しました。
実は、美華の所持品を送っていたのは由布子でした。
連続殺人事件を模倣し、美華も同様の事件に巻き込まれたかのように見せかけることで、警察が本気で美華の行方を探してくれると考えたためです。
この方法を由布子に進言したのは、大黒様でした。
さらに由布子は、美華誕生にまつわる過去を彰太に語ります。
興信所時代の八木は、由布子の身辺調査を担当しました。
調査の過程で八木は、高校時代の由布子が輪姦された時の写真を入手し、これを脅しの材料として由布子を弄びます。
その末に妊娠したのが美華でした。
つまり美華の本当の父親は八木であると推察されます。
断定できないのは、時折、双子の兄である田部井も由布子を好きにしていたためです。
事態は収束したかに思われましたが、谷岡比佐子が入手したという、家政婦時代の清水皐月の写真によって、さらに新たな真相が明らかになります。
大黒様の前身は総一郎の家政婦・清水皐月だったのです。
同人誌を発行していた総一郎は、送られてきた原稿を、掲載の有無に関わらず添削していました。
その原稿の中には少年時代の若院・清水啓司の名前がありました。
過激ゆえに同人誌への掲載は見送られたというその内容は、猟奇的殺人犯によって拉致監禁された女性が苦しめられるというものでした。
女性を弄ぶだけにとどまらず、被害者の持ち物を家族に送り反応を楽しむ描写も含まれていました。
こうして一連の誘拐殺人事件の犯人である若院・平井啓司は、彰太の通報によって逮捕されました。
黒鳥の湖 を読んだ読書感想
現代が舞台となっている、宇佐美まことのミステリー小説です。
2021年には本作を原作としたドラマが放送されています。
宇佐美まこと史上、初めて映像化された作品として、当時話題になりました。
本を開くと、現実世界と近しい世界が広がっており、感情移入しやすく、恐怖を追体験できる内容だと感じます。
誰もが抱える心の隙間や苦悩が、どんどん黒く変化していく構造は、思わず背筋が凍ります。
巧妙に張り巡らされた伏線が、最終章で回収されていく怒涛の展開には、快感もありました。
丁寧な人物描写は非常に読み応えがあります。
人間の醜さに正面から向き合うことを教えてくれる、何度でも読み返したい作品です。
コメント