「青空と逃げる」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|辻村深月

「青空と逃げる」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|辻村深月

著者:辻村深月 2018年3月に中央公論新社から出版

青空と逃げるの主要登場人物

本条力(ほんじょうちから)
東京で両親と3人暮らしをする小学5年生。

本条早苗(ほんじょうさなえ)
近所の惣菜屋でパート勤めをする力の母。大学卒業から力が生まれる28歳までは、劇団「剣会」で舞台俳優をしていた。

本条拳(ほんじょうけん)
力の父で劇団「剣会」の現役舞台俳優。

青空と逃げる の簡単なあらすじ

それは深夜の一本の電話から始まりました。

母と子は、東京→四万十→家島→別府→仙台→北海道へと次々と逃げていきます。

日常が奪い去られ、壊れてしまった家族がたどり着く場所は??。

この作品は母と子の逃亡の日々を綴った、成長と再生の逃避行物語です。

青空と逃げる の起承転結

【起】青空と逃げる のあらすじ①

日常を切り裂いた深夜の電話

冒頭は自然あふれる高知県四万十市で、本条力が四万十川の伝統的な柴づけ漁を手伝う場面から始まります。

都会育ちで自然遊びを知らなかった力が、真夏の四万十に来て3週間が経ちました。

母・早苗は大学時代の同級生・聖子と一緒に近くの食堂で働いています。

早苗はかつて小さな劇団で役者をしていて夫の拳と出会い、息子である力を授かりました。

平穏な田舎で暮らす普通の母と子だと感じたのも束の間、早苗の食堂に「エルシープロ」と名乗る怪しげな男が訪れた瞬間から物語は緊迫した雰囲気へと一変します。

早苗と力は逃げるように急いで高知駅へ向かい、列車で四万十を去るのでした。

力は東京で母・早苗と舞台俳優の父と親子3人で暮らしていました。

しかし7月に入ってすぐ、日常を奪う一本の電話が深夜にかかってきます。

父・拳が交通事故に遭い病院に運ばれました。

しかもこんな深夜に拳は遥山真輝という有名女優が運転する車に同乗していて事故に遭いました。

幸い2人とも命はとりとめたものの、真輝は顔などに女優を続けられないほどの傷を負ったことで自殺してしまいます。

拳はこのことで真輝が所属していた芸能事務所「エルシープロ」の人間に追われることとなり、家族にも内緒で退院し失踪してしまいます。

また世間ではダブル不倫だと騒がれ、週刊誌の記者が近所・パート先・学校・早苗の実家周辺にしつこく現れます。

さらに追い打ちをかけるように、エルシープロはガラの悪い連中を使って拳の居場所を探そうと、早苗や力の生活を脅かします。

周囲から好奇の目に晒されることも増え、早苗はどんどん疲弊していきます。

そんな矢先、四万十に嫁いだ親友の聖子から連絡をもらい、力の夏休みの間だけ2人で東京を離れることを決意します。

それなのに、まさか3週間で四万十まで追いかけてこられるとは思わず、その執拗さに恐怖を覚えた早苗は聖子の後押しもあり再び力を連れて当てもなく逃げ出します。

【承】青空と逃げる のあらすじ②

淡い恋心と力の成長

2人が次に辿り着いたのは兵庫県姫路市にある家島です。

家島は瀬戸内海に浮かぶ小さな島で、姫路港から高速船で35分の距離にあります。

早苗と力は島ならさすがに見つからないと思い、夏休みもあと5日に迫るなか海辺の民宿に泊まることにしました。

ここで力は2歳年上で中学1年生の藤井優芽と出会います。

両親の離婚で4月に家島に来たばかりの優芽は、部活で友人関係が上手くいっていないことなどもあり、滞在中の力とたくさんの会話を重ねます。

力も優芽には不思議と親しみを覚え、だんだん異性として意識していきます。

そして家島から出なくてはならなくなったとき、優芽は「また来てね」と連絡先を力に渡します。

力はそれを嬉しく思うと同時に、待ってもらえる人ができたことで精神的に強くなっていきます。

帰りの船の中、早苗は小学校の始業式が今日だったことに気が付きます。

罪悪感がある一方で、東京に戻る覚悟がまだないことにも気付かされます。

追い打ちをかけるように力から、父のことでクラスからいじめを受けていることを聞かされます。

ますます東京に戻る理由はなくなり、早苗はもう少し二人で逃げようと決意します。

実は早苗には向き合いたくない現実が東京にありました。

力の夏休み初日、力の部屋のクローゼットからタオルにくるまれた血まみれの包丁を見つけてしまったのです。

早苗は力が拳を刺したのではないかと疑ってしまい、それは今になっても聞くことができず逃げ続けています。

【転】青空と逃げる のあらすじ③

一人前の仕事と早苗の成長

次に2人が向かったのは大分県別府市でした。

以前に早苗と拳が劇団の巡業で訪れたことがあり、早苗は昔の記憶を頼りに宿を見つけました。

仕事も探し始め、自給の良い「砂かけさん」として働くことになりました。

力はというと湯治のお爺さんたちと交流したり、銭湯のお風呂掃除をしてお小遣いをもらうなど頑張っていました。

早苗はお客さんに温泉の砂をかけるこの力仕事にも慣れ、ひとりの人間として尊重してもらう喜びを味わいます。

また砂かけさんに必要な一芸として劇団仕込みの歌を披露した早苗は、歌のうまい砂かけさんとしてさらにここでの居場所を手に入れます。

ようやく安住の地を見つけ、小学校も転校の手続きをしようと思っていた矢先に物語は動きます。

テレビ局が歌のうまい砂かけさんに興味を持ち、そこでエルシープロの関係者に早苗の存在がバレてしまいます。

その結果、年末のある日に遥山真輝の一人息子・達海佑都が別府を訪れます。

力の前に現れた佑都は、被害者面している早苗と力が気に食わないと言います。

しかし佑都は復讐のために訪れたのではなく、拳の居場所を教えに来たのでした。

警戒する早苗でしたが、佑都は拳の失踪が実は自分が原因であり仙台にいることも教えてくれました。

佑都の登場でエルシープロにも居場所がバレていることに気が付き、力と早苗はまた逃げるように仙台へ向かいます。

【結】青空と逃げる のあらすじ④

家族の再生と成長

仙台に着いた2人ですが、肝心の拳の居場所が分からず途方に暮れていました。

すると今までの疲労がたたったのか、早苗が熱を出して倒れてしまいます。

10歳の力は勇気を振り絞り、近くでボランティア活動していた人たちに声を掛けました。

谷川ヨシノという女性が助けてくれ、その後も2人のことを気に掛け、ヨシノの計らいで「樫崎写真館」に2人は住まわせてもらうことになりました。

早苗は泊めてもらった恩を返すため、震災で流された写真の修復を手伝ったり、劇団員時代に培った技術で写真を撮りに来た人たちにヘアメイクを施します。

ここでも早苗は一人前の仕事をして人々の役に立ちました。

そんな早苗はついに覚悟を決め、力に拳と連絡を取っているのか真相を確かめます。

力はなんと失踪する前もその後もずっと拳と連絡をとっており、拳の居場所やクローゼットに隠されていた血まみれの包丁の謎もすべて知っていました。

夏休みの初日に右手に傷を負った拳と会っていて、連絡先を教えられていたのです。

クローゼットの包丁についた血は拳のもので、母の復讐のために佑都が切りつけました。

拳は佑都を逃がし、傷が分からなくなるまで隠れていようと失踪したのです。

もちろん、拳と真輝の間には何もなかったと拳は言い切ります。

現在はエルシープロとの話し合いがなんとかなりそうなこと、北海道にいることも早苗に伝えます。

早苗はまったく何も知らず小学5年生の力はすべて知っていたこの真実こそが、力と早苗の逃亡劇の始まりでした。

早苗は力から全てを聞き、何よりもまず拳に会いたくて北海道へと向かいます。

女満別空港に着くと拳は待っていて、早苗が見たことのない傷のある腕で力を抱きしめました。

早苗は拳に荷物を預けると3人で手を繋ぎ、親子で青空の下へと歩いていくのでした。

青空と逃げる を読んだ読書感想

母・早苗と息子・力の視点で交互に小説が展開していたので、どちらの気持ちにも寄り添え、2人の事情や感情がすべて分かったような気になって読み進めていました。

なので終盤で力が最初から父の居場所や失踪の謎をすべて知っていたことに、なぜだかとんでもなく裏切られたような気持ちになってしまいました。

謎が多くミステリーかサスペンス小説かと思って読んでいましたが、親子のすれ違いや絆、成長、そして出会う人々の心のあたたかさを描いた優しい作品でした。

ラストは早苗も力も拳もみんな、それぞれが大切な人を守るために逃げていたのだと分かりました。

そして何より逃亡先の土地ごとの風景の描写が鮮明すぎて、旅行へいきたくなりました。

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