著者:樋口明雄 2021年9月に徳間書店から出版
異形の山の主要登場人物
進藤諒太(しんどう りょうた)
山岳救助隊員。相棒犬は川上犬のリキ
滝沢謙一(たきざわ けんいち)
北岳の広河原山荘の管理人を父親から引き継いだ。狩猟免許を持っている
星野夏実(ほしの なつみ)
進藤の同僚。共感覚という不思議な能力をもつ。相棒犬はボーダーコリーのメイ
川辺三郎(かわべ さぶろう)
滝沢と同じ猟友会に所属するハンター。義弟の小尾と謎の巨大生物を狙って北岳入る
芝山宏太(しばやま こうた)
東都大の学生。YouTuber。最近人気が落ち目なのを気にしている。
異形の山 の簡単なあらすじ
「北岳に雪男現る?」冬の北岳で謎の巨大生物が目撃され、山小屋が荒らされているのが見つかります。
更には登山客が襲われ、山岳救助隊員の進藤諒太は調査のため冬の北岳に向かいます。
その頃、功名心にはやるハンターとチャンネル登録者数の巻き返しをもくろむ大学生YouTuberも北岳に入山していました。
山小屋では進藤たちが不審な外国人男性を見つけます。
様々な人々の思いが渦巻く中、雪男の正体が明らかになります。
異形の山 の起承転結
【起】異形の山 のあらすじ①
厳冬期の北岳で登山中の東都大学山岳部の安西と大葉は夜空を照らす火球の落下を目撃し動画に納めます。
その後、登山写真家が白い毛に覆われた巨大生物を撮影、インターネット上で「宇宙から雪男がやってきたのか?」と話題になります。
その頃北岳の山小屋、白根御池小屋と池山御池小屋が荒らされ、食糧が持ち去られていることが明らかになります。
現場に向かった山岳救助隊員の進藤諒太と相棒の山岳救助犬のリキは白い毛玉と雪の上に残された大きな足跡を見つけます。
更にはテント泊中の登山客が何者かに襲われ怪我をする事態となり、地元の南アルプス警察署で対策会議が開かれます。
「危険な生物は即刻排除すべきだ」と主張する県の防災危機管理課、「キタゴンと名付けて観光資源にしよう」と言い出す観光文化政策課。
無責任にも思える主張に、会議に参加していた山岳救助隊員の星野夏実はいたたまれなくなり会議室を飛び出します。
共感覚のある彼女は謎の巨大生物が心細い気持ちでいるのではないかとかわいそうに思えてきたのでした。
その頃、入山規制が敷かれた北岳にこっそり入ろうとする者たちがいました。
それは雪男を殺して有名になろうと功名心にはやる二人のハンターと、チャンネル登録者数の巻き返しをねらう大学生YouTuberだったのです。
【承】異形の山 のあらすじ②
広河原山荘の管理人で狩猟免許を持つ滝沢謙一と相棒のリキと共に調査に向かった進藤は、吹雪から避難した北岳山荘冬期小屋で、低体温症で意識朦朧としている外国人男性を発見します。
彼は明らかにサイズの合っていない登山服を着ていました。
また、普段は人に吠えないリキが唸り声をあげる様子を見て、進藤はその外国人男性に不信感を抱きます。
一方その頃、滝沢と同じ猟友会に所属するハンター、川辺三郎と義弟の小尾達明は北岳登山口付近の駐車場にきていました。
滝沢が雪男の調査のために猟銃を携帯して北岳に入ったことを知った彼らは、「雪男を殺して有名になりたい」と禁猟区であることを承知の上で猟銃を持ってやってきたのでした。
しかし、高山での登山経験がない二人は、尾根の岩壁で強風にあおられ、川辺はやっとの思いで山道の杭にしがみつきます。
川辺は小尾に助けを求めますが、小尾は棒立ちになり川辺の背後を見つめています。
振り向いた川辺が見たのは、白い毛むくじゃらで赤ら顔の巨大生物、“雪男”でした。
川辺に促されて慌てて銃を構える小尾。
しかし弾はあたらず怒り狂って襲い掛かってきた雪男に、小尾は谷底へ放り投げられてしまったのでした。
【転】異形の山 のあらすじ③
芝山宏太は東都大に通う大学4年生です。
物まね上手でお調子者の彼は人気のYouTuberでしたが、近頃は目新しいネタもなく、ワンパターンな動画になってしまい、チャンネル登録者数は減る一方です。
しかし就職活動をする気にもなれず、悶々とした日々を送っていました。
そんな折宏太は大学の同級生、安西と大葉から、北岳で偶然撮影した動画の再生数が伸びていること、雪男の目撃情報があることを聞き出して北岳に向かいます。
川辺と小尾が開けっ放しにした登山口からまんまと入山した宏太でしたが、冬の北岳は想像以上に厳しく、道のりは困難を極めます。
その頃、救助した謎の外国人男性をヘリコプターに送り届けた進藤とリキ、滝沢は新たにもう一人の遭難者の捜索を依頼され、雪男の調査を一時中断して北岳にとどまっていました。
また、途中で出会った進藤たちに雪崩の危険を諭されて一度は下山を約束した宏太でしたが、あきらめきれません。
更に安西からの電話で例の火球が無許可で飛行していた飛行機の墜落らしいと知り、雪男をスクープすべく山頂に向かいますが、大きな雪崩に巻き込まれてしまうのでした。
【結】異形の山 のあらすじ④
遭難者を捜していた進藤とリキ、滝沢は男性の遺体を発見します。
登山服がはぎとられたその遺体を見て、進藤はあの外国人男性の仕業だと気づきます。
北岳の麓の山梨県警では、山岳救助隊副隊長の杉坂知幸がある女性と面会していました。
彼女の名はジェーン・チャオ。
中国のチベット奥地にある特別保護区で大型類人猿の絶滅危惧種「白猩猩」の研究をしており、その保護区から白猩猩のつがいが違法に捕獲され、飛行機でロシアに運ばれる途中で消息を絶ったと話しました。
雪男の正体はこれだったのです。
杉坂はジェーンと共にヘリコプターで北岳を目指すことにしました。
北岳では谷底に落ちた小尾が星野夏実たちに救助されます。
小尾から川辺が雪男を追っていることを聞き、夏実たちは川辺の跡を追います。
また、進藤とリキ、滝沢も川辺の跡を追っていました。
川辺に追いついた夏実たちは彼の構える猟銃の先に雪男の正体、白猩猩を見つけます。
夏実たちの制止を聞かず川辺は発砲。
しかし滝沢に邪魔をされて狙いは外れ、白猩猩は川辺に襲い掛かります。
そんな白猩猩を止めたのはリキでした。
立ち直って更に白猩猩を殺そうとする川辺を止める滝沢に川辺が発砲しますが、武闘派救助隊員の神崎静奈に制圧されます。
ジェーンは白猩猩に呼びかけ抱き合い、無事を喜びます。
白猩猩は「オーガスト」という名前のオスで、知能が高く優しい気持ちを持った生き物だったのです。
オーガストと一緒に飛行機に乗せられていたメスのエイプリルも無事に保護され、エイプリルの手には2頭の間に生まれた子供が抱かれていました。
闇から闇へと葬られそうになったこの事件ですが、雪崩から助け出された芝山宏太が動画配信したことで世間の知るところとなり、スイスの研究施設で安全かつ厳重に保護されることになって、夏実はほっと安堵するのでした。
異形の山 を読んだ読書感想
「南アルプス山岳救助隊 K-9」シリーズに連なるこの作品は、「北岳に雪男現る?」という一見荒唐無稽に思える設定です。
にもかかわらず読み進めるにつれ「うーん…。
ありえなくないかも!」と引き込まれていく魅力があり、ともすればマンネリ化しがちのシリーズ物の定説を良い意味で裏切られるストーリー展開となっています。
お馴染みの山岳救助隊の面々と犬たちに加えて登場するのが広河原山荘管理人の滝沢謙一。
ハンターとして獲物である動物たちと真摯に向き合う彼の言葉はきっと、作者の気持ちを代弁しているのでしょう。
生き物を殺すことの意味について語る彼と進藤の会話がとても印象に残りました。
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