著者:多紀ヒカル 2012年3月に左右社から出版
神様のラーメンの主要登場人物
勝間(かつま)
主人公。何をするのも要領が悪い経理係。趣味は食べ歩きで料理も得意。
横田(よこた)
勝間の上司。チェックが厳しくネチネチとした小言が多い。
東野麗子(ひがしのれいこ)
勝間の同僚。高齢の母を故郷に残し都会で働く。
克子(かつこ)
父と定食屋を切り盛りする。麺を自分で打つためにガッシリとした体格。
神様のラーメン の簡単なあらすじ
会社の代表として山陰地方で執り行われているお葬式に行くことになったのは勝間、偶然にも立ち寄った小さなお店で昼食を取ります。
勝間の並外れた知識と味覚に気がついた店主は、強引に娘の克子と結婚させて跡継ぎにさせるつもりです。
閉鎖的な村から何とか脱出を図っていく勝間は、長年にわたって探し求めていた究極のラーメンへとたどり着くのでした。
神様のラーメン の起承転結
【起】神様のラーメン のあらすじ①
報告書を提出すれば誤字脱字でいっぱい、コピーを取れば裏表上下左右が逆、お歳暮を配送すれば社名と部署がバラバラ… 小さな要件でも片付けるのにやたらと時間がかかる勝間は、前半期決算で忙しい横田課長の足を引っ張っていました。
ちょうど営業部の東野麗子の母親が亡くなったところで、他に手の空いている部下はいません。
横田は香典とチケットを押し付けると、早々とオフィスから追い出してしまいます。
横浜市から飛行機と山陰本線を乗り継ぐと浦岡という聞いたこともない地名、駅前広場には立て看板に「丼もの、定食、中華そば」と書いてあるだけ。
お昼時の店内に入りましたが50歳ほどの男性が客席で新聞を読んでいるだけで、カウンターの奥にいるもうひとりは忙しそうに働いていますが顔は見えません。
お品書きにあった「キノコラーメン 750円」を注文しましたが、1時間以上待たされることに。
全国の有名店を300軒は行脚して回っている勝間、休みの日にもキッチンで試作をしているだけにラーメンに関しては人一倍うるさいです。
【承】神様のラーメン のあらすじ②
化学調味料をいっさい使用していない本シメジと天然物のまいたけ、グルテンの多い小麦粉でギリギリまで細く打った麺、利尻昆布と本枯節をベースにした出汁。
これだけのトッピングをして800円弱では、コストがかかって赤字でしょう。
ただ美味しいだけでお客さんをのめり込ませるようなものがないという勝間の感想に、男は読んでいた新聞をたたんで「克子」と声をかけました。
エプロンで手を拭いて出てきたのは30歳ほどの女性、ふたりは親子だそうです。
スープを1回きりの「とりきり」ではなく継ぎ足しながら作る「呼び戻し」に、チャーシューは国産肉ではなくイベリコ豚に。
調理場を借りて勝間が自分で作り直してみると、これまで以上にコクと風味が増していきます。
才能を認めた克子の父親からこの店を譲ると言われましたが、とりあえずは東野家のお通夜に出席しなければなりません。
慌てて店を飛び出した勝間は「浦岡会館」の受付で記帳すると、宴会場で精進落としの料理をごちそうになりました。
【転】神様のラーメン のあらすじ③
地元の人たちから代わる代わる地酒を飲まされた勝間、目が覚めると見知らぬ部屋に敷かれた布団の中で裸の克子と抱き合っていました。
製麺で鍛え抜かれた克子の二の腕はたくましく、太ももにも立派な筋肉がついていてがっちりとロックされています。
早朝からたたき起こされてトイレ掃除、開店前には降り積もった1メートルの積雪をスコップで取り除く作業、閉店後には洗い物と次の日の仕込み… デスクワークに慣れきった勝間の体はたちまち悲鳴を上げて、仕事を放り出して山陰線に飛び乗りますがいつまでたっても発車しません。
ここでは旅行に出るのにも町役場の許可が必要で、助役は駅前食堂の常連のために承認は下りないとのこと。
あきらめて仕入れを手伝うことにした勝間が向かった先は、10軒先にある「中丸鮮魚店。」
大将の妻はよその土地から嫁いできたそうですが、かれこれ23年も里帰りをしていないそうです。
携帯電話も取り上げられてしまい横田に助けを求めることも不可能、そもそも浦岡の話をしても信じてもらえないでしょう。
【結】神様のラーメン のあらすじ④
自分の存在が希薄になっていくことに焦りを覚えていた勝間に、中丸の妻はそっと耳うちをしてきました。
商店街の裏にあるちょっとした崖、そこを登って南の谷をこえたひと山、山の向こう側に走る県道、隣町へ出ると京都はすぐそこ。
幸いにして父・克子は風邪を引いているために、日が昇るいつもの時間帯に起きてきません。
県道までは予定通りに進めましたが、隣町に通じるはずのトンネルにバリケードが張り巡らされています。
臨時ルートを試してみると目の前に広がるのはキラキラと光る海、無人の浜には放置されたボートが。
オールをこぐ手が重くなったのは長い麺が絡みついているから、ゆで具合も舌触りも絶妙です。
海面だと思っていたのは薄い黄金色を帯びているスープ、これほどの美味は長年修行しても出せないでしょう。
船尾に大きな穴が空いたために勝間はナルトやしなちくと一緒になって沈んでいきますが、不思議と恐怖感はありません。
全能の神が作ったラーメンを全身で堪能していると、少しずつ意識が薄れていくのでした。
神様のラーメン を読んだ読書感想
平日はお気楽でいい加減な経理マン、忙しい決算期でもマイペースにコミックマガジンと携帯ゲーム機で時間をつぶす主人公に笑わされました。
週末になった途端に「ラーメンフリーク」を自称して、とことん自分の趣味を追及する勝間はストレスフリーでしょう。
サラリーマンとラーメンの組み合わせは相性もバッチリで、グルメ小説かと油断していると見事に裏切られてしまいました。
次々と降りかかってくる災難はまったく予測もできずに、不条理すぎる落とし穴はカフカ・カミュにも負けてません。
息をのむほどの結末にも、ファンタジーのような後味を感じてしまいました。
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