著者:高橋弘希 2017年8月に講談社から出版
日曜日の人々の主要登場人物
航(こう)
主人公。国立大学の教育学部に在籍。あらゆる問題を先延ばしにしてしまう。
仲村奈々(なかむらなな)
航と同い年のいとこ。中学生時代はスポーツに熱中して活発だった。年齢を重ねるごとに自傷にのめり込む。
吉村秀夫(よしむらひでお)
相互扶助を目的としたグループの管理人。自身も不眠症で悩んでいる。
磯部裕貴(いそべゆうき)
吉村の前任者で故人。ネットブーム初期に立ち上げたサイトが話題になった。
鈴木(すずき)
航の学友。単位の取得よりも副業を優先している。
日曜日の人々 の簡単なあらすじ
母親の姉の娘にあたる仲村奈々のお葬式が終わってから届いた日記をたどって、航は自助グループ「朝の会」のメンバーと交流を深めていきます。
少しずつ航が死を意識するようになったのは、会が発行している冊子を通して知った奈々の秘密がショックだったからです。
不特定多数が集まるネット自殺の現場で足を運びますが、何とか思い留まって生還をするのでした。
日曜日の人々 の起承転結
【起】日曜日の人々 のあらすじ①
千葉県八街市で地元の友だちと遊ぶ自堕落な高校3年間を送った航は、1年の浪人生活をへて埼玉県の国立S大学に合格しました。
4月のオリエンテーションで仲良くなったのは鈴木、携帯用のランキングサイトを利用して相当な収入を得ているとか。
ノウハウを教えてもらった航は中古のレコードた古書を安く仕入れて、高値をつけて売りさばくせどりを始めてみます。
そんな最中に飛び込んできたのは仲村奈々の訃報、母親同士が姉妹であるために幼い頃は南千倉で一緒に夏休みをすごした仲です。
軟式テニス部に所属していて髪の毛はショートカット、小麦色に焼けた手足に白い胸元。
見るからに健康的だった彼女の死因が、リストカットを繰り返した末の自死だとは信じられません。
春雨が降りしきる中で執り行われた通夜に参列してから数日後、航のもとにダンボール箱が郵送されて来ました。
ガムテープをはがして開けてみると底の方にルーズリーフの束が、日付が書き込まれているので日記帳の代わりに使用していたのでしょう。
【承】日曜日の人々 のあらすじ②
日記の中でさかんに出てくるのは「吉村」という名前、航は直接その人物に会いに行きました。
東京都練馬区の東の外れにあるワンルームマンションでは「朝の会」が開催されていて、アポなしで訪問してもあっさりと見学が許されます。
拒食症に過食症、窃盗癖に睡眠障害、アルコール、ドラッグ、性依存… さまざまな悩みを抱えている人たちのための話し場を磯部裕貴がウェブ上に立ち上げたのは、ウインドウズ95が発売された頃。
その磯部が中央線のK駅を通過する特急列車に飛び込んでしまったのは、朝の会を現実世界で顔を合わせる試みへと移行していた矢先です。
管理人の役目を引き継いで現在までに至るのが吉村秀夫、参加者の体験発表は「日曜日の人々」という冊子に収録されています。
奈々の発表もおそらくはその冊子に記録されているはずですが、入会して6カ月以上たたないと閲覧はできません。
掃除当番から記録係、「日直」と呼ばれている司会役やレクリエーション担当。
毎年恒例の行事にも参加して月会費も滞納しないで納めた航は、ようやくA4サイズの黒い冊子を手に取ることができました。
【転】日曜日の人々 のあらすじ③
奈々の母親でもあり航のおばでもある女性が再婚したのは16歳の時、相手には息子がいて名前は和彦。
和彦とは奈々の葬儀のときに顔を合わせていて、システムエンジニアをしていて東京に住んでいることくらいは聞いていました。
その和彦と奈々とが男女の関係であったこと、妊娠したものの胎児は酸素欠乏で死亡したこと。
読んでいるうちにいつの間にか嗚咽をもらしていた航の側にやって来て、吉村はそっと背中をなでてくれます。
大学の講義に嫌気がさしていた航は休学願を教務課に提出、卒業は1年ほど遅れるでしょう。
久しぶりに会った鈴木は運営サイトでひと山を当てたと焼き肉をおごってくれて、月10万円以上の利益を出していると自慢気です。
ふたりでネットビジネス関連の会社を起業することを誘われましたが、今の航には興味のある仕事もなく就職活動をする気力も沸いてきません。
ボンヤリとネットサーフィンをしていると、「関東地区」「パーティー」という書き込みを発見します。
【結】日曜日の人々 のあらすじ④
駅前のロータリーに停めてある銀色のバンは山手通りから首都高速中央環状線へ、日光インターで高速を降りて山道へ。
航を含めて4人の男女は本名を名乗らないまま、密度の濃い森の中に建つモルタル家屋へと到着しました。
粘着テープで目張りしてトランクに積んであったコンロで練炭に火をつけると、車内には死の濃度が増していきます。
意識が閉じていく間際に航のまぶたの裏側に浮かんできたのは、幼い頃に母親が作ってくれたチョコレートパフェ。
先日実家に帰って休学について報告した際にも手料理を振る舞ってくれて、責めるような言葉は一切ありません。
もう1度だけあのパフェを食べるために外へ飛び出した航、目が覚めると土産物屋のベンチに横たわっています。
温かいコーヒーでひと息ついてから日光線に乗車、夕暮れ時の車窓からは線路に沿って自転車で家路を急ぐ背広姿の男が。
航は復学して多くの学生と同じように会社員になって、あの男と同じように郊外に家を購入する未来を想像するのでした。
日曜日の人々 を読んだ読書感想
高校時代は早々と受験戦争から脱落、大学に入ってからは学業を忘れてお金もうけに夢中。
お気楽な大学生の日常を描いたストーリーかと油断していると、きょうだいも同然に育ったいとこ・仲村奈々の死から始まる波乱の幕開けでした。
郵送されてきた彼女の日記のページをめくっていく主人公の航には、死者の秘密を暴いていくような背徳感を感じてしまいます。
そんな彼に生きる希望を与えるマザースイーツ、サクサクのコーンフレークと特製のチョコソースの相性が実に美味しそう。
いつまでもモラトリアムのままでいるのかと思いきや、地に足を着けた将来像を描くラストも秀逸ですね。
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