著者:高橋弘希 2018年7月に文藝春秋社から出版
送り火の主要登場人物
歩(あゆむ)
東北の小さな中学に転校した生徒。中学三年生。
晃(あきら)
歩が転校した中学の同級生。学級の中心的な人物。
稔(みのる)
歩が転校した中学の同級生。いじめられっ子。
室谷(むろや)
歩が転校した中学の担任の教師。
仁村(にむら)
歩が転校した中学校を卒業した先輩。
送り火 の簡単なあらすじ
歩は、父の転勤にともない、東北の小さな中学校へ転校してきました。
彼は、同じ三年生の男子五人のなかに、なんとか溶け込みます。
リーダー格の、理不尽で、横暴な晃とも、無難な関係を保ちます。
そうして夏休み中のある日、晃から、カラオケへ誘う電話がかかってきたのですが……。
送り火 の起承転結
【起】送り火 のあらすじ①
歩は父の転勤により、東京から、津軽にある中学校へ転校しました。
そこは来年で廃校になる小さな中学校で、同じ三年生が、歩を除いて、十二人しかいませんでした。
男子はそのうちの五人で、リーダー格は晃という男子です。
彼は二年生のとき、同級生の稔にひどい暴力をふるって、けがをさせていました。
ある日、男子グループが、花札を使ったゲームにより、ナイフを万引きする役を決めました。
気弱な稔が、その役に当たり、店でナイフを盗みます。
手に入ったナイフを誰が保管するか、を決めるために、またゲームが行われ、歩に決まりました。
これらのゲームを通じて、歩は男子グループに溶けこむことができました。
後日、クラスの役員決めで、晃が学級委員となり、歩が副委員となりました。
五月の末、晃が新しい遊びを提案します。
六本の試験官に、一本だけ硫酸が入っています。
ゲームで当たった者が、そこから一本を選び、自分の手にかける、という遊びです。
つまりロシアンルーレットです。
ゲームで一番になったのは稔でした。
皆が彼を押さえつけ、試験管の液を手にかけました。
実は六本とも、中身はただの牛乳だったのでした。
皆がほっとするなか、晃はラベルに硫酸と書かれた薬瓶を、稔の頭上で逆さにします。
なかの液が稔の頭にかかりました。
【承】送り火 のあらすじ②
あのとき稔の頭にかけられた液体は、ただの砂糖水でした。
六月に入りました。
歩はときおり男子グループと遊んでいます。
花札で順番を決め、角力をとりました。
藤間が負けた稔のことを馬鹿にすると、晃が怒るのでした。
その他に、花札で燕雀という遊びもしました。
ときどき、飲み物や食べ物を買ってくる程度のお金を賭けます。
負けるのはいつも稔です。
あるとき歩は、札を配る晃の指が動いて、不正をしていることに気づきました。
ただし、晃は稔をいじめているように見えて、仲間が稔を無視するゲームをすると、怒るのでした。
こうして、学校でも家でも、様々なことをするうちに六月がすぎていきました。
ある暑い日、晃が彼岸様をやろうと言いだしました。
屈伸運動をくり返したあと、縄跳びで首を絞めると、酩酊状態になって、彼岸様の像が目の前に現れます。
その彼岸様の信託を語る、という遊びです。
花札を使って犠牲者が決められました。
もちろん稔です。
屈伸運動をくり返して息のあがった稔が、自分の首を締めます。
死にそうになったのを見て、藤間が、本当に殺す気か、と怒りだしたのでした。
【転】送り火 のあらすじ③
彼岸様をした翌日、藤間が体調不良で嘔吐しました。
歩は、晃が硫酸を藤間の食事に入れたのではないか、と疑いますが、証拠はありません。
日がたつにつれて、だんだんと暑くなります。
校外学習など、さまざまのことをしているうちに、終業式になりました。
歩の通知表は四がたくさん並んでいました。
夏休み中、歩は東京の高校を受験するための勉強にはげみます。
学校の仲間たちと偶然に会うこともありました。
稔にバッタリと会ったのは床屋でした。
稔は、ナイフを万引きしたのは自分なのだから、残り半年は自分にあずけてほしい、と言います。
面倒を嫌った歩は、それを断ります。
また、銭湯では晃に会いました。
去年、稔をケガさせた理由を尋ねると、稔に侮辱され、自分の人権が侵害されたからだ、という答えが返ってきました。
でも、よく聞くと、稔が命令を聞かないことが、晃にとっては侮辱された、となるらしいのでした。
そんなある日、晃から電話があり、カラオケに誘われました。
待ち合わせ場所の小学校に行ってみると、晃と稔以外の三人がいて、もうひとり、作業着姿の知らない男がいました。
少年たちは緊張しています。
男は少年達を引きつれて、場所を移動しはじめます。
【結】送り火 のあらすじ④
歩たちがつれていかれたのは、森のなかにある広場でした。
そこには晃と稔と、ほかに六人の知らない男たちがいました。
晃の顔には殴られたあとがあります。
合計七名の男たちは、第三中学の卒業生のようです。
リーダー格の仁村の腕には、刺青が彫られています。
仁村は、歩たち六人のうちのひとりに、マストンになってもらう、と告げます。
仁村の命令で、晃が花札を使って、犠牲者を決めます。
当たったのは稔でした。
稔は縄で手をうしろに縛られ、バランスボールに乗るように言われます。
ボールに乗って、規定通りに動かしてから、降り立ち、「××マストン」と名のる遊びです。
しかし、手をうしろで縛られた状態でできることではありません。
これまでだれひとりとして成功した者はいないそうです。
稔は何度もボールから転げ落ち、受け身も取れず、血まみれになります。
もうできません、と訴えても、許してもらえません。
とうとう、血まみれの人形のようになった稔が、隠し持ったナイフで縄を切り、仁村を刺しました。
晃は情けなく泣きわめいて逃げ出しました。
稔が歩に迫ってきます。
彼は、歩のことが一番気に食わなかった、と叫びます。
歩は必死に森のなかを逃げていきます。
うしろからつかまれた手をふりほどいたとき、河原へ転げ落ちて気を失いました。
時間がたって気がつくと、向こうのほうで、三体の巨大な藁人形を燃やす儀式が執り行われるところでした。
送り火 を読んだ読書感想
第159回芥川賞受賞作です。
一読してまず驚くのは、情景描写が非常にきめの細かいことです。
目の前で実際に起きていることを実況中継しているかのようなきめ細かさです。
著者は受賞後のインタビューで、昔のことを思いだしながら書いた、というようなことを言っています。
それが本当だとすると、ものすごい記憶力だと感嘆するほかはありません。
もうひとつ驚くのは、暴力描写です。
閉鎖的な村のなかで行われる、ジトジトと湿った、陰惨な暴力。
それが恐ろしくもあり、一方で、退廃的な美を感じさせ、また不思議ななつかしささえ感じさせるのです。
なんとも不思議な魅力に満ちた小説でした。
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