著者:真藤順丈 2018年6月に講談社から出版
宝島の主要登場人物
オンちゃん(おんちゃん)
アメリカ軍の基地や倉庫から食べ物や医療品などを盗んでくる「戦果アギヤー」。リーダー的存在。
グスク(ぐすく)
オンちゃんの親友。のちに刑事となる。
レイ(れい)
オンちゃんの弟。グスクとは犬猿の仲。後にテロリストとなる。
ヤマコ(やまこ)
オンちゃんの恋人。後に教師となる。
ウタ(うた)
浮浪児。グスク、レイ、ヤマコとの接触がある。
宝島 の簡単なあらすじ
島一番の戦果アギヤーと呼ばれたオンちゃんを中心に、グスク、レイ、ヤマコの幼馴染は強い絆で結ばれていました。
嘉手納基地の強奪未遂事件をきっかけに消息を絶ったオンちゃんを捜し続ける3人ですが、時は流れ、それぞれの人生を歩み始めます。
差出人不明の「戦果」が届くようになり、グスクはオンちゃんが生きているという期待を捨てられません。
誇り高き沖縄の精神が綴られたストーリーです。
宝島 の起承転結
【起】宝島 のあらすじ①
時は戦後、沖縄では「戦果アギヤー」と呼ばれる人々が民衆のヒーローとなっていました。
「戦果アギヤー」とは、アメリカ軍の基地や倉庫から食料や物資を盗み出し、沖縄の貧しい人々に配っていた、いわば泥棒のような者達のことです。
島一番の「戦果アギヤー」と呼ばれたオンちゃんを中心に、グスク、レイ、ヤマコの四人は活躍していました。
ある日四人は他の地域の戦果アギヤーと協力して嘉手納基地から物資を盗み出す計画を決行しますが、失敗に終わります。
生きて還ることを大切にしていたオンちゃんは、アメリカ兵との激闘の末に行方不明となります。
グスクとレイは命からがら嘉手納基地からの脱出に成功しますが、基地の外で待っていたヤマコにとっても逃げ出せた二人にとってもオンちゃんが戻って来られなかったことは信じがたく、きっとうまく逃げてどこかに潜伏しているはずと信じて捜し続けるのでした。
レイは服役中、オンちゃんと一緒に嘉手納基地襲撃の計画を立てていた戦果アギヤーに出会い、確かにオンちゃんは基地から逃げ出したが「予定にない戦果」を持ち帰ったという事実を得ます。
オンちゃんの足跡を追って悪石島にたどり着きますが、その島おじいの証言では、オンちゃんは密輸団の闘争に巻き込まれ、その島で命を落としたというのです。
その証拠におじいはオンちゃんの魚の首飾りを差し出すのでした。
【承】宝島 のあらすじ②
何年経ってもオンちゃんの消息は掴めません。
グスク、レイ、ヤマコの残された3人はオンちゃんのことを胸に秘めたまま、前向きにそれぞれの人生を歩み始めます。
グスクは泥棒から転じて刑事となりました。
刑事になればオンちゃんの捜査を続けることができるという淡い希望も捨てていませんでした。
アメリカ人の政府関係者や沖縄の地元の暴力団とも情報の交換をしてオンちゃんを捜しますが、見つけられないままでいました。
レイは刑務所から出た後テロリストとして危ない仕事を続けます。
グスクもレイもヤマコへの想いを抱くようになりますが、当のヤマコはグスクやレイは仲間としてしか見つことができませんでした。
いつまで経っても戻らないオンちゃんへの想いを断ち切り、やがて教師として自分の人生を歩み始めます。
戦争が終わっても街には浮浪児があふれ、アメリカ軍によるひき逃げ、強姦、飛行機の事故などが絶えません。
そんな中、ヤマコは浮浪児の「ウタ」と出会います。
外国人の血が混ざったウタは他の浮浪児から邪魔者扱いされどこで暮らしているかも分からないのですが、ヤマコにはなついてくれているようでした。
ウタは成長するにつれて街のごろつきとつるむようになり、ヤマコを心配させるのでした。
【転】宝島 のあらすじ③
沖縄では、アメリカ軍撤退を求める声がある一方でアメリカ軍がいてくれることにより成り立っているビジネスも多くあります。
日本に復帰も叫ばれますが、本土は沖縄のことをアメリカにいい顔をするための道具としてしか考えていないように思われます。
デモも頻発します。
そんな折、アメリカ産の物資が大量に人々の家の玄関に届けられるようになります。
あたかも「戦後アギヤー」によって戦果が届けられているようです。
まだまだ生活に困る家庭も多い沖縄の人々は喜びます。
酔ったアメリカ軍によるひき逃げ事件が多発したことによりとうとう沖縄の人々も我慢の限界に達し、大規模な嘉手納基地へのデモ行進を始めます。
その混乱にまぎれて、レイは嘉手納基地に毒ガス攻撃を仕掛けようとします。
レイの計画を読んだグスクはレイを止めようと、追いかけて嘉手納基地に入ります。
二人ともアメリカ軍のヘリコプターに上空から見つかってしまいます。
逃げる二人が迷い込んだ場所は、かつて嘉手納強盗未遂事件があったときも二人が迷いこんだ「ウタキ」と呼ばれる神聖な森でした。
存在があやふやだったウタキは実在していたのです。
追い詰められた二人ですが、仲間の手助けによって基地から脱出することに成功します。
【結】宝島 のあらすじ④
レイとグスクは生きて基地から戻ることができましたが、デモに参加していたウタは命を落とします。
ウタと交流のあったレイ、グスク、ヤマコは、ウタが幼い頃家にしていた洞窟へと向かいます。
洞窟には白骨化した遺体がありました。
3人はそれぞれが調査した情報をつなぎ合わせ、その遺体は消息不明となったオンちゃんであるということに気づきます。
ヤマコがユタのおばあから聞いた話によると、オンちゃんの行方がわからなくなったあの嘉手納基地の事件の日、米軍の高官の子を身ごもり基地の中のウタキの森で出産した女がいるとのことでした。
オンちゃんは事件当日、逃げているときにその産まれたばかりの赤ん坊を助けて基地の外に連れて帰ろうとしていたのでした。
これが「予定にない戦果」です。
オンちゃんはアメリカ軍に追われ、赤ん坊と一緒に悪石島に身を隠し、やがて満身創痍で沖縄に戻ってきて洞窟に隠れ、赤ん坊をウタと名づけます。
ウタは成長し浮浪児としてレイやグスクから食べ物を与えてもらって成長していたのでした。
すべてを知った3人は、オンちゃんへの尊敬を深め、これからも強く生きていこうと決意するのでした。
宝島 を読んだ読書感想
琉球の方言がたくさん使われている本作品は、これまでに読んだどんな本よりも琉球を感じることができました。
アメリカ軍の占領下の沖縄を舞台に活躍していた戦果アギヤーと呼ばれた少年たちは、キャラクターの個性と世界感がリアルに描かれています。
各々に戦う3人の物語の熱量と作者の圧倒的な筆力を感じました。
米軍が占領することにより降りかかる災難は私の想像を超えるものでした。
第二次世界大戦も含め、「戦争」がどんなものだったか知らない時代に生まれた私にはとても衝撃的な内容でした。
沖縄の歴史にも触れられる良い作品だと思います。
コメント