著者:若竹千佐子 2017年11月に河出書房新社から出版
おらおらでひとりいぐもの主要登場人物
日高桃子(ひだかももこ)
本作の主人公。75歳。夫に先立たれ一人暮らしをしている。
日高周造(ひだかしゅうぞう)
桃子さんの旦那。心筋梗塞で亡くなってしまう。
直美(なおみ)
桃子さんの娘。家から20分ほどの所に暮らしている。旦那、息子、娘の4人暮らし。
おらおらでひとりいぐも の簡単なあらすじ
主人公の桃子さんは、最愛の夫に先立たれ一人暮らしをしていました。
そんな主人公が、昔のことを思い出しながらも、今後について考えていく物語です。
冒頭から東北弁丸出しの文章で話題を呼び、史上最高齢の芥川賞受賞となった傑作となっています。
おらおらでひとりいぐも の起承転結
【起】おらおらでひとりいぐも のあらすじ①
桃子さんは最愛の夫に先立たれ、息子と娘も巣立ち、1人暮らしをしている身でした。
去年の秋に飼い犬が亡くなってからは、家の中にいるねずみに慌てることすらなく、淡々と暮らしていたのです。
しかし、一見、静かに見えるこの暮らしでも、桃子さんの脳内では毎日が会話に満ち溢れていました。
東北弁満載の言葉で、たくさんの桃子さんたちが会話をしていたのです。
「おめは誰なのよ。」
「おらだば、おめだ。
おめだば、おらだ。」
そうした会話と共に、桃子さんは昔の思い出話をいつもしているのでした。
そんなある日、桃子さんはいつもよりウキウキとして電話を待っていました。
娘の直美が自分に電話をしてくれるのです。
しかも、直美は桃子さんの代わりに買い物をしてあげるという優しい約束まで電話でしてくれました。
桃子さんは嬉しく、ついつい会話も盛り上がります。
しかし、その後に直美が口に出したのはお金を貸してくれないかという頼みでした。
2人の孫のことを考え、何も言えずにいた桃子さんは、結局、直美に突き放され、一方的に電話を切られてしまったのでした。
【承】おらおらでひとりいぐも のあらすじ②
ある日の病院帰り、桃子さんはいつもの喫茶店に立ち寄ります。
そこで1人、周造のことについて思い出していました。
そもそも桃子さんは、故郷での結婚を捨て、東京オリンピックのファンファーレと共に、1人で東京にやってきた身でした。
若さゆえの行動で、贅沢さえ言わなければ何でもやっていけると思っていたのです。
そうして、無我夢中で東京で働いている時に出会ったのが周造でした。
周造は、「おらは」と大きな東北弁を話す美しい男でした。
そして、桃子さんの故郷でも有名な八角山を知っていたのです。
結局、この八角山での話が盛り上がり、2人は付き合い、結婚まですることになりました。
そして、その頃から桃子さんもやっと、避けていた東北弁に素直になることが出来たのでした。
それからの桃子さんは、順風満帆な結婚生活を送りました。
周造を守るために、あえて守られた生活を送ったのです。
そうしていつの間にか、周造は桃子さんにとっての都会で見つけた故郷になっていました。
【転】おらおらでひとりいぐも のあらすじ③
素敵な結婚生活を送っていた桃子さんでしたが、別れはあっという間に訪れます。
周造が、心筋梗塞で亡くなってしまったのです。
しかも、1日も寝込むこともなく、本当にあっけなくこの世を去ってしまったのでした。
そして、桃子さんは周造の突然の死を未だに受け入れることが出来ないでいました。
脳内の桃子さんたちも大騒ぎです。
自分を残して死んでしまった周造に対する怒りや、神や仏に対する怒り、悲しみがとめどなく襲ってきます。
しかし、次第にそれは愛に対する大合唱へと変わっていきました。
愛とは何かを考えながら歌ううちに、脳内の桃子さんたちはしぼんでいきました。
そして、ふと考えたくもないことが頭に浮かんでくるのでした。
それは、自分が周造を殺してしまったのではないかという自責の念です。
なぜ、周造の異変に気づけなかったのか、周造は疲れていたのではないかと悔やみ、未だにその想いを引きづっているのでした。
しかし、どんなに自分を責める声が聞こえても、もう引き返せないし、引き返したくないという想いも同時に溢れるのでした。
【結】おらおらでひとりいぐも のあらすじ④
桃子さんは、最愛の旦那を見送り、子供もすっかり巣立ったため、世間から必要とされる役割は全ておえました。
旦那の死と同時に、桃子さんはこの世界との関わりも断たれた気にさえなっていました。
しかし、いてもいなくてもいい存在なら、自分の思うようにやればいいとも思うようになりました。
どう考えたって、今までの自分には戻れないのだから、おらはおらに従うという感じです。
悔いることも責めることももういいだろうと思えるようになったのです。
そして、周造と自分は今でも繋がっていることを認識します。
周造は、桃子さんを1人で生かせるために先に死んだのです。
それが周造の計らいであって、そう思うことこそが、桃子さんが周造の死を受け入れるために見つけ出した意味だったのです。
しかし、1人で暮らしていると突然泣けてくることもありました。
1人で暮らすことには何の後悔もないはずなのに、やはり人恋しく人と繋がりたいと思っている自分もいたのです。
そして、そんな時に直美の娘が訪ねてきてくれました。
そこで桃子さんは、孫と一緒に笑いながら東北弁を話すのでした。
おらおらでひとりいぐも を読んだ読書感想
自分の老後について、深く考えさせられる作品でした。
結局、人は1人では生きていけないものだと再認識させられた作品でもあります。
また、東北弁のテンポがとても良く、たくさんの桃子さんたちの会話がとっても面白かったです。
テーマは暗いものでしたが、桃子さんの痛烈な会話や東北弁、まさかの大合唱シーンによって、明るくポップに話が進んでいく所にも面白さを感じました。
東京に1人で出てきたからこそ、誰よりも故郷についていろんな考えを持っている印象もありました。
自分の家族やこれからについて、いろいろと話したくなる名作だと思います。
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