「骨を弔う」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|宇佐美まこと

骨を弔う (小学館文庫)

著者:宇佐美まこと 2018年7月に小学館から出版

骨を弔うの主要登場人物

佐藤真実子(さとうまみこ)
替出町に住む仲良しの小学生5人組のひとり。独特の考え方をし、みんなを引っ張る。

本多豊(ほんだゆたか)
替出町に住む仲良しの小学生5人組のひとり。手先が器用で、後年、家具職人になる。

大澤哲平(おおさわてっぺい)
替出町に住む仲良しの小学生5人組のひとり。後年、イベントプランナーとして働く。

田口正一(たぐちしょういち)
替出町に住む仲良しの小学生5人組のひとり。融通のきかない性格から、あだなはシカク。後年、婿入りして、下村(しもむら)正一となる。

水野京香(みずのきょうか)
替出町に住む仲良しの小学生5人組のひとり。真実子の親友。後年、県議会議員と結婚して、富永(とみなが)京香となる。

骨を弔う の簡単なあらすじ

四国の替出町に住む小学五年生の仲間たちが、山のなかに骨格標本を埋めました。

三十年ほどたって、同町の土手から、骨格標本が出土しました。

小学生時代の仲間のひとり、本多豊はこんな疑いを持ちます。

自分たちがあのとき山に埋めたのは、標本ではなく、本物の人骨だったのではないだろうか? 彼は真実を探るべく、かつての仲間のもとを訪れるのですが……。

骨を弔う の起承転結

【起】骨を弔う のあらすじ①

哲平

四国の田舎の替出町に、同じ小学校に通う仲間たちがいました。

佐藤真実子、本多豊、大澤哲平、田口正一、水野京香の五人です。

あるとき、リーダー格の真実子に頼まれて、五人は骨格標本を山奥に埋めました。

替出町はその後、町全体が買い上げられて、スポーツ公園になりました。

仲間たちは家族とともに、散り散りに離れていきました。

約三十年たって、替出町の土手から、骨格標本が見つかりました。

その新聞記事を読んだ本多豊は、あのとき埋めたのは本物の人間の骨だったのではないか、と疑いを持ちます。

豊は、不仲の父親を、千葉に嫁いだ姉のもとへ送っていった帰りに、東京に住んでいる大澤哲平を訪ねます。

哲平は、雑誌の編集をしている女性と同棲していました。

三人は、あのとき埋めたのが人骨だとしたら、だれの骨だろう、と考え、昔話をします。

あの頃近所には、徳田のおじさん、おばさんがいたし、きれいなお姉さんの琴美さんもいました。

徳田のおじいさんはガンで亡くなりましたが、それは骨を埋めたずっとあとのこと。

崎山という男が川でおぼれ死んだけれど、死体はあがっています。

そういえば、徳田さんの家で異臭騒ぎがありました。

大量に買ったイノシシの肉を腐らせたため、ということでした。

等々、いろいろ思い出しますが、手がかりは得られませんでした。

【承】骨を弔う のあらすじ②

京香と正一

豊は、次に京香を訪ねました。

京香は今、県議会議員の妻となっていますが、幸せにはほど遠い状態です。

議員の妻としての役割が重すぎるうえ、夫がひどいDVです。

暗い毎日をおくるなか、豊が訪ねてきたのです。

京香は、真実子が白血病で死んだことを伝えます。

豊は京香にも骨についての疑問を話し、ふたりで昔を思い出します。

近所に住んでいた琴美さんは、原口という競輪場勤めの男の口利きで、倍率の高い競輪場の仕事につくことができました。

その原口は、競輪場のお金を使いこんで失踪しています。

京香はそのころ、酔った原口が、人を殺した、と言ったを聞いています。

真実子は、原口が殺した人の骨を処分しようとしたのでしょうか? また京香は、みんなで穴を掘って骨を埋めるとき、真実子が唱えた「骨を弔う詩」をノートに書き取ってある、と教えました。

京香の次に豊は、正一のところへも行きました。

正一は、子供の頃は四角四面な性格で、シカクというあだなでした。

その後いろいろあって、宮城の女性の家に婿養子となって、民宿を営んでいました。

親子三人と義父との暮らしは、東日本大震災のために終わりました。

正一以外は全員亡くなったのです。

生きる屍となって日を過ごす正一のもとにやってきた豊は、骨についての疑問と、これまでわかったことを話します。

正一はこれまでの話を表にまとめます。

崎山が溺れたことや、原口の失踪のことも入れます。

原口が失踪した日は遠足の日で、真実子は体調不良で欠席しています。

その前日、徳田さんの家から妻の邦江さんが血相を変えてとびだしてきたのを、真実子がなだめています。

真実子は遠足用のおかしを正一にゆずり、徳田の家に入っていきました。

その直後に原口が失踪したのです。

原口が、ガンにかかって余命のない徳田恒夫に罪を押しつけようとしたのかもしれません。

それで真実子が死体の処分を手伝ったのかもしれない、という話になります。

【転】骨を弔う のあらすじ③

琴美

琴美は、いまは結婚し、山口に住んで、幸せに暮らしています。

彼女は、年に二回くらい四国にもどり、世話になった徳田邦江の見舞いに、老人ホームを訪れます。

琴美が昔、替出町に母と住んでいたときは、亡き父の残した借金に苦しんでいました。

徳田夫婦は、時には金銭面でも助けてくれました。

大変お世話になったので、見舞いくらいはしたいと思っているのです。

そんな琴美のところへも、豊が訪れました。

これまでの話をすると、琴美はすべてを告白しました。

当時、実入りのよい競輪場の仕事を世話してくれたのは、競輪場の主任の原口という男でした。

競輪場で働くようになった琴美は、借金の利息支払いに困って、何度か競輪場のお金に手をつけてしまいました。

それがバレないのを不思議に思っていると、原口が大金を横領していることを知ります。

原口は、琴美の不正を黙っている代わりに、自分の横領の手伝いをさせます。

さらには、口止めのために琴美をレイプしたのでした。

琴美の体に味をしめた原口は、それから定期的に琴美を凌辱するようになります。

そんな姿を、豊に盗み見られていることにも、琴美は気づいていました。

原口をなんとかしようと考えた琴美は、亡き父の従妹の崎山という男に、原口の犯罪を教え、脅してもらおうとします。

ところが、実は崎山がうさんくさい先物取引を原口に勧めたために、原口は横領までするようになったのでした。

大雨の日、ふたりは喧嘩になり、原口は用水に崎山を突き落として殺してしまいました。

後日、犯罪をかぎつけた真実子が、琴美のところにやってきました。

琴美が真実子にすべてをうちあけてまもなく、原口は失踪したのでした。

【結】骨を弔う のあらすじ④

豊は少年時代のことを思いだします。

天体観測のために家の外に出たときに、となりの物音に気づいて、のぞくと、琴美が原口に凌辱されていました。

豊は、そのことをだれにも言わず、のぞきを続けました。

それは豊の性的な楽しみだったのです。

豊は思います、あの頃、真実子もまた琴美がどんなめにあっているかを知っていた、そのことを含め、すべてのカードが真実子のもとにそろっていたのだ、と。

やがて、哲平から電話があり、あのころ真実子が徳田さんの家で死体を処理したのだ、と断定しました。

豊のほうは京香に会って、自分の考えを話します。

あの死体は原口のもので、徳田恒夫さんが彼を殺したのだ、と。

そうこうするうち、今度は正一から電話があり、豊の気のすむように、埋めた骨をさがしに行こう、と持ち掛けてきました。

豊、哲平、正一、京香、の四人は山へ入り、穴を掘って骨をみつけました。

そして彼らは、弔いの詩をとなえつつ、骨を埋め戻したのでした。

それからしばらくして、千葉に送っていった父が帰ってきました。

姉の夫との折り合いが悪くて、帰ってきたのです。

豊は父に、これまでにわかったことを全部話しました。

父は、琴美は徳田夫婦の実子で、赤ん坊のときに取り違えられたのだ、と教えてくれました。

これで徳田恒夫が原口を殺した動機がわかりました。

原口の餌食になっていた実の娘を救うために殺したのです。

また、真実子が、死体処理の方法についていろいろ父に訊ねていたことから、当時、父はすべてを知っていたのだ、と豊は思うのでした。

骨を弔う を読んだ読書感想

タイトルに「骨」が入っていることで洒落を言うわけではありませんが、非常に「骨太」の小説です。

殺人と死体遺棄にかかわるクライムストーリーであると同時に、犯罪に関わった人々の人生の流転を描いたヒューマンドラマでもある、という二層構造になっています。

あらすじは、クライムストーリーというか、ミステリーの部分を書くのがせいいっぱいで、ヒューマンドラマの部分をほとんど書けていません。

実際に小説を読むと、二層構造の重厚なドラマがドーンと迫ってきて、読後感の重い、感動作となっています。

ただ、終わりかたがどうも、と首をひねる人がいるかもしれません。

なにしろ、結局は犯罪を隠匿しているのですから。

犯行後三十年近くたっているとはいえ、警察に届け出て、老人ホームで穏やかな余生をすごしている徳田邦枝を血祭りにあげるべきである、と考える人がいたとしても不思議ではありません。

そのような「きわめて正義感の強い読者」にとっては、納得のいかない終わりかたでしょう。

逆に、そこにこだわらない人にとっては、登場人物たちの物語から、生きる勇気をもらえるのではないかと思います。

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