著者:相場英雄 2020年11月に小学館 から出版
アンダークラスの主要登場人物
田川信一警部補(たがわしんいち)
警視庁捜査一課継続捜査班
樫山順子警視(かしやまじゅんこ)
警視庁キャリア組
アイン(あいん)
ベトナム人技能実習生
山本(やまもと)
世界的ネット通販企業サバンナ 部長
中村(なかむら)
世界的ネット通販企業サバンナ 課長補佐女性34才
アンダークラス の簡単なあらすじ
秋田県能代市で高齢者施設の入居者が車いすごと水路に転落して死亡しました。
ベトナム人介護士アインが本人に頼まれて自殺をほう助したと自首しましたが、警視庁捜査一課継続捜査班の田川警部補とキャリア組警視の樫山は事件の背景を探ります。
そうしているうちにベトナム人実習生の過酷な生活が解ってきます。
アンダークラス の起承転結
【起】アンダークラス のあらすじ①
秋田県能代市で高齢者施設の入居者藤井詩子さん(85)が早朝に車いすごと水路に転落して水死します。
介護していたベトナム人介護士のアインは、本人がガンを苦にして自殺するのを手伝うよう頼まれて、車椅子を押したことを証言します。
しかし取り調べに当たった警視庁捜査一課の田川警部補は、水死体の手の向きからアインの証言内容を不審に思い、キャリア組の樫山警視と共に、以前にアインが働いていた神戸の縫製工場などに聞き込みに向かいます。
一方、世界的ネット通販企業サバンナのマーケティング部長山本は、自分が高収入を維持することで自分の高校生の娘を米国の大学に留学させ、格差社会の中で世界で通用するエリートとして高収入とやりがいのある仕事と余裕のある生活が出来るようにしたいと考えているのでした。
そして課長補佐の中村と情事を重ねながら、クレームに関する音声データを抹消したことの報告を中村から受けていました。
しかしながら、外資系企業は給与が高い一方、実績を残せなかったりミスをしたりすると直ぐにクビになるという企業文化があり、その中で二人は組んで生き残りをかけていました。
【承】アンダークラス のあらすじ②
田川と樫山は神戸で聞き込みをしますが、アインが働いていた縫製工場での海外からの実習生の待遇はとても酷く、深夜まで働いても給与が低く休みが少ないどころか、反抗的な態度を取ったりする実習生は大型犬用の檻に監禁されたり、取引先との接待の際に酌婦として連れていかれたりと、人権侵害がはびこっていました。
仕事を受けるその縫製工場も、単価の低い仕事を大量に限られた納期でミスをせずに行わないと、次からの仕事がなくなるなど、デフレ経済下の日本社会の影響を強く受けている状態が長く続いているので、外国からの実習生を受け入れ、人件費の削減をしているのでした。
デフレの続く経済状況のもと、国内のアパレル産業は単価の低いものしか売れなくなり、末端ほどしわ寄せを受けているのでした。
田川と樫山が聞き込みを続けると、亡くなった老婦人は、戦後に秋田から神戸の縫製工場に就職しましたが、途中から占領している米軍相手のお店で女給をして、体も売り生活していたことが解ってきます。
彼女はそうして貯めたお金で手芸品店を持ちましたが、結婚した相手がお金を持ち逃げしたので、また苦しい生活に戻ったことが解ってきます。
実習生のアインもベトナムに5歳の娘がいて、そのために日本に来ていたのでした。
【転】アンダークラス のあらすじ③
サバンナの山本は、海外から日本に来る観光客が、日本の伝統的なものなどの単価の高いものを購入することから、日本のメーカーと海外の客とを繋ぎ、海外に日本製の単価の高いものを販売する新サービスを打ち出します。
しかしながら、日本のアパレル通販のYOYOCITYが、自社の取り扱い製品の価格の内訳を開示して、適正な価格で販売する方針を発表したことから、サバンナの新サービスは霞んでしまいします。
アパレル製品を比較的多く買う日本の若者は、メーカーや流通に関わる人にも無理のない価格での販売を望んでいるのでした。
アインを秋田県警で再び取り調べる田川と樫山ですが、何かを隠すときには多くの犯罪者はへそを取調官に向けないという田川の経験と違い、アインは普通に取り調べを受けています。
その時、田川は以前にサバンナの山本に聞き込みに行った際に、山本が外国人のように足を組んで応対したことを思い出し、外資系企業の社員だからそのような態度を取ったのではなく、へそをこちらに向けない姿勢を無意識に取っていたのかもしれないことに気づきます。
【結】アンダークラス のあらすじ④
田川達が秋田県警と協力して、山本の事件前の動向を探りますが、顔認証ソフトで各地の駅などの防犯カメラの画像を解析すると、新幹線やバスを乗り継いで、事件の前日に秋田の能代に行っていたことが解ります。
以前なら多くの監視カメラの動画を解析するのは、多くの時間が掛かりましたが、最新のソフトを使うと、数時間で誰がどこを通ったかも数時間で判明するようになっていました。
介護者のアインから神戸での待遇を聞いた入居者の藤井さんは、サバンナのコールセンターに電話して、山本が下請けの親族の女性と交際して、妊娠させたのちに一方的に分かれたことから、相手が自殺したことや、様々な接待を受けていたことを何回か話していたのでした。
そのことは課長補佐で恋人の中村がもみ消しましたが、山本は自分がそれが原因で社内から追いやられることを恐れて、アインに大金を払い施設の外の水路まで連れてこさせて、自ら藤井さんを水路に突き落としたのでした。
アインへの連絡は中村が行ってなっていたのでした。
山本と中村を別々に取り調べて、山本には中村への愛情がない事を間接的に聞かせたので、中村も山本のやったことを認めて、山本も自白したのでした。
さらに藤井さんがサバンナに申し立てていた苦情は、公正取引委員会の方にも申し立てていたのでした。
アンダークラス を読んだ読書感想
世界的プラットフォーマー企業を素材に描いた小説ですが、それによって何かと便利になる一方、それが原因で貧しくなっていく多くの人が取り上げられています。
犯人の山本も協力した中村やアインも、自分だけは何とか逃れようとして犯罪を犯すことになります。
この著者の特徴として犯人の動機が弱く感じますが、社会派とミステリーを融合させるのはそれだけ難しい事なのでしょう。
いつも地方の困窮ぶりや経済的なことを取り上げる著者の相場英雄さんですが、地方紙の記者としてキャリアを始めたことが大きな影響を与えているのでしょう。
今後も新作が期待される著者です。
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