著者:上橋菜穂子 2018年12月に株式会社偕成社から出版
風と行く者の主要登場人物
バルサ(ばるさ)
主人公。用心棒を生業としている。短槍使いの女性。
タンダ(たんだ)
バルサと一緒に暮らす薬草師。男性。
ジグロ(じぐろ)
バルサの養父。幼いバルサを引き取り、用心棒をしながら育てた。男性。
サダン・タラム(さだん・たらむ)
風の楽人と呼ばれる楽隊。複数人で、鎮魂の儀式をして回るための旅をしている。
風と行く者 の簡単なあらすじ
物語は、サダン・タラム(風の楽人)と呼ばれる楽隊の旅立ちから始まります。
サダン・タラム達は路銀の確保のために滞在していた草市で、衛兵に泥棒の容疑をかけられ騒ぎに巻き込まれました。
衛兵達と斬り合いになり、死人が出そうになったところを、居合せたバルサとタンダが彼らを救います。
しかし、騒ぎのせいでサダン・タラムの護衛がケガをし、旅を続ける事ができなくなってしまいました。
バルサは彼らの旅路の護衛として雇われ、共に旅をします。
風と行く者 の起承転結
【起】風と行く者 のあらすじ①
用心棒家業を営むバルサは、タンダと共に貴重な薬草が売りに出される「草市」に出向いていました。
そこで、かつてともに旅をしたサダン・タラムに出会います。
貴重な薬草を売りに出していた彼等と取引をしていたタンダですが、突然衛兵達が間に割って入ります。
衛兵達は、貴族の奥方の腕輪が盗まれた事件の犯人を追って草市に来たのです。
昨晩泊めた彼らが、腕輪を盗んだに違いないと決めつけ、サダン・タラムを連行しようとします。
盗みなど働いていない彼らは持ち物を見せ、身の潔白を証明しますが衛兵は食い下がりません。
とうとう斬り合いになり、死人が出そうになったところを、バルサが止めに入ります。
結局、盗みは奥方の勘違いという事が分かり、衛兵達は引き上げていきました。
大怪我をした男性は、サダン・タラムの護衛をしていた人物でした。
護衛のいない楽隊は野盗や狼の格好の餌食です。
彼らに頼まれ、バルサはサダン・タラムの用心棒として旅に出ることになりました。
【承】風と行く者 のあらすじ②
サダン・タラムの旅は、かつて戦のあった地を巡るものです。
彼らは歌と踊りを生業とする民族で、自らの足で大地を旅し、戦で死んだ同胞達の魂を慰めるために旅をします。
バルサは、彼らとの旅の中でにジグロのことを思い出していました。
思い出は血の匂いで始まります。
初めてサダン・タラムに会った時、バルサは血塗れでした。
用心棒をしていた商隊が野盗に襲われ、その戦いの最中にバルサはケガをおったのです。
バルサを庇いながら身を隠す場所を探していたジグロは、宿に向かう最中だったサダン・タラムの一行に出会います。
彼らは二人のために薬草と食料を渡し、再び会えることを願いその場を去りました。
傷が癒えた頃、二人は新たな仕事を請け負いました。
商隊を守るだけの仕事だったはずが、商人達は道中会ったサダン・タラム達に刃を向けます。
助けてもらった恩がある二人は、自分達をも殺そうとする商隊を退けるために武器を手に取りました。
うまく逃げることができたサダン・タラム達は礼を良い、ジグロに護衛をしてほしいと頼みます。
バルサとジグロは彼らを守るため、道中を用心棒として雇われることになりました。
【転】風と行く者 のあらすじ③
サダン・タラムを守りながら続ける旅の中、バルサは疑問を持ちます。
なぜ彼らは暗殺者に狙われているのか。
彼ら自身も身に覚えがなく、誰が狙ってきているのかも分からなかったのです。
旅が終わりに近づくにつれ、暗殺者達の目的が、サダン・タラムの鎮魂の儀式を妨害させるためのものであることが判明します。
儀式の場所には、対立する二つの氏族をまとめた英雄の遺骨があるのですが、半年前の地震で墓が崩れていることも分かりました。
暗殺は、遺骨が見られることに不利益をもたらせれる者によって企てられたものでした。
その地は神聖な場所で、氏族の長とサダン・タラムの長しか入れない場所です。
つまり、儀式をしなければ墓を直すことができません。
しかし、それを嫌がる誰かにとっては、儀式が行われない方が良いのです。
サダン・タラムの長は、隊の皆の命を奪うわけにはいかないと儀式を行わない決定を下そうとしますが、ジグロがそれを止めます。
仮に儀式をやめたとしても、暗殺者が手を引く保証が無かったためです。
彼らは問題解決のため、儀式の場の土地を治める若殿に事の次第を話すことにしました。
犯人に心当たりのある若殿は、彼らにこれまでの非礼を詫び、安全の保障をする事を誓います。
【結】風と行く者 のあらすじ④
事件の真相は、二つの部族の過去にありました。
名をターサとロタと言う部族は今でこそ友好関係を築いていますが、昔は悲惨な戦争で日夜を明かす敵同士でした。
この凄惨な関係を終わらせたのは、ターサ族の英雄ラガロと言われています。
ラガロは原因不明の死を遂げたあと、自分の遺体をロタ族の聖地に埋葬することで、二つの部族の結びつきを強固にしたのですが、実はその死は、ロタ族の女性の単独犯よってもたらされたものだったのです。
ターサ族によって家族を殺された女性は、憎しみのままラガロを毒殺してしまいます。
使った毒は首の骨に奇妙な模様を刻むパジャという毒でした。
つまり、遺骨に毒殺の証拠が刻まれていたのです。
もしも遺骨が見つかれば、ロタとターサは再び争いの日々に戻ってしまいます。
サダン・タラムが襲撃された事件によりその事に気付いたターサの若殿は、未来のために遺骨を隠すことを決めます。
時を越えその秘密は、バルサによって子ども達に受け継がれました。
バルサは若殿の血を引く娘領主に、助言を与えます。
その助言によってターサとロタは秘密を共有し、更に絆を強化なものとします。
旅から戻ったバルサは、タンダに旅の話を聞かせます。
サダン・タラムが結んだ部族の縁についてです。
その話は、囲炉裏の炎が消えるまで続けられました。
風と行く者 を読んだ読書感想
この物語は、主人公のバルサが過去に旅した道をなぞり、自分の過去と現在を心の中で交差させる話です。
しかも楽隊のリーダーは、かつての養父の娘かもしれない。
思うところは色々とあるだろうに、バルサは真摯にその若い娘を守り抜きます。
過去の過ちに苦い思いをしながら、バルサは淡々と仕事をこなしていくのですが、これがまた格好良いんです。
上橋先生の魅力は、異国情緒あふれる世界観やアクションシーンもさることながら、登場人物の内面の繊細さの描き方にあると思うのです。
少女だった頃の、バルサのジグロに対しての負い目、ジグロのバルサを想いながらも憎からず思う心情。
人間の複雑な心を描くのが本当に上手なのです。
そして、何気ないバルサの仕草だったり言葉だったりで表現している、彼女の芯の強さと優しさにますます惹かれてしまう。
特にこの物語は、バルサの優しさを感じれる作品かと思います。
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