「まひるの月を追いかけて」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|恩田陸

まひるの月を追いかけて

著者:恩田陸 2003年9月に文藝春秋から出版

まひるの月を追いかけての主要登場人物

静(しずか)
ヒロイン。母子家庭で育つ。人見知りしやすく電話や会話が苦手。

渡部研吾(わたべけんご)
静の異母きょうだい。 フリーランスの紀行ライター。体力もありカメラマンとしても優秀。

君原優佳利(きみはらゆかり)
大手電機メーカーの研究員。研吾とは高校からのパートナー。

藤島妙子(ふじしまたえこ)
研吾と優佳利の高校時代の友人。ヘビースモーカーでコーヒーも大好き。

和穂(かずほ)
静の母。 高校教師。誰に対しても公平で冷静。

まひるの月を追いかけて の簡単なあらすじ

腹違いの兄・渡部研吾が奈良で失踪したと静に知らせてきたのは、交通事故死した君原優佳利のふりをして近づいてきた藤島妙子です。

研吾と静が恋人だと勘違いした妙子は現地でふたりを引き合わせた後に、体調が急変して病院で亡くなってします。

研吾が誰よりも愛していたのは静の母親・和穂で、旅の終わりに3人は再会するのでした。

まひるの月を追いかけて の起承転結

【起】まひるの月を追いかけて のあらすじ①

人生の師は母から父を奪った人

小学生に入る前に静の父親は他界しましたが、母親の和穂は公立高校の教師をしていたので経済的には困りません。

静が中学2年生になった時に父方の祖母が亡くなって、群馬県前橋市で開かれた告別式で初めて渡部研吾の存在を知りました。

静の父は研吾の母親と別れた後に、大学生時代のクラスメートだった和穂と再婚しています。

母親は違うものの父親は同じなために、静と研吾は半分だけ血のつながりがあるきょうだいです。

研吾は名家のお嬢様で執着心が強い実の母親のことを嫌っていた研吾は、告別式での再会をきっかけにして和穂を慕うようになりました。

国立大学を出た後に就職した食品メーカーを辞めた時、編集プロダクションに入って勉強した後にフリーになった時。

人生のターニングポイントを迎えて決断を迫られた時には、研吾はいつも和穂にアドバイスを求めています。

その研吾が奈良県に取材に行ったきり姿を消したので一緒に探しに行ってほしいと静に連絡してきたのは、高校時代からお付き合いをしている君原優佳利です。

【承】まひるの月を追いかけて のあらすじ②

見知らぬ他人と奈良観光

平日の月曜日の朝に東京駅から奈良駅へ向かう新幹線の指定席の車内で、静は君原優佳利と待ち合わせをしていました。

優佳利と会うのは18年前の前橋での告別式以来ですが、どうしても静の記憶の中にある地味で陰気なイメージと重なりません。

静の疑惑が決定的となったのは奈良の駅前のホテルにある喫茶店で昼食を取っていた時で、カバンの中から落ちた運転免許証の氏名欄には「藤島妙子」と書かれています。

先ほどまで「君原優佳利」と名乗っていた藤島妙子が差し出したのは2カ月ほど前の新聞記事です。

東京都世田谷区に在住の会社員・君原優佳利さんの遺体が青梅市内の国道で発見、居眠り運転で反対車線に入ってきたトラックと正面衝突して即死、君原さんは友人宅を訪ねた帰りの事故。

新聞に載っていた友人というのが妙子のことで、優佳利だけでなく研吾とも前橋の高校で同じクラスでした。

3人とも高校卒業と同時に地元を出て東京の大学に進学したために交流は続いていましたが、研吾がこの関係から抜け出したのは他に好きな人ができたからです。

【転】まひるの月を追いかけて のあらすじ③

都会のつかれを古都で癒やす

明日香村の民宿に1泊した静と妙子が次の日の朝に高松塚古墳の周辺を散策していると、田園風景を背景にして研吾が現れます。

東京にある私物はほとんど処分して、しばらくは奈良の友人の家に居候しながら商売を手伝うそうです。

妙子が静をここまで連れてきた本当の目的は、研吾の言う「他に好きな人」の正体を確かめるためでした。

研吾と静を不意に鉢合わせさせて反応を確認してみましたが、ふたりの間にあったのはきょうだいとしての親しみで恋人としての愛情ではありません。

あては外れてしまった妙子は急用ができたと置き手紙を残してホテルからいなくなったために、静と研吾は気の向くままに新薬師寺にお参りに行ったり春日大社を見物したりしていました。

都会で生活するのがつらいという研吾は、前々から奈良のお寺に出家することを考えていたと静に打ち明けます。

市民病院から妙子の死を知らせる電話が研吾の携帯にかかってきたのは、ふたりが奈良公園の日本庭園に出た時です。

【結】まひるの月を追いかけて のあらすじ④

旅の終着駅はロマンスの始まり

妙子の家族に彼女の荷物を引き渡すのは研吾の役目で、静は予定通りに最終日に東京に帰ることになりました。

昼過ぎまでは時間があったために、妙子が歩きたがっていた法隆寺周辺のコースをふたりでたどってみることにします。

荷物をJRから私鉄にロッカーに移そうした静が見つけたのは、手帳のカバーに挟まっていた妙子の手紙です。

子供の頃からぜん息に悩まされてきたこと、長年の不摂生がたたって次に発作が起きたら危ないと医者から忠告されていたこと、こんな楽しい旅は久しぶりだったこと。

手紙の最後には研吾の最愛の人でもあり、静の母親でもある和穂の名前が書いています。

橘寺の大きな屋根の下の曲がり角に来た時に、最初に静の目に入ったのは寺の真上にぽっかりと浮かんでいる真昼の白い月です。

寺の入り口にたたずんでいる女性らしき人影はここからでは遠すぎて、若いのか年寄りなのかも分かりません。

少しずつ近づいてきた女の顔を見た瞬間に、静は彼女もまた長いあいだ自分の隣にいる研吾を愛していたことを確信するのでした。

まひるの月を追いかけて を読んだ読書感想

ある日突然に会ったこともない「兄」をお葬式で紹介される、中学生時代の静の困惑には同情してしまいました。

本来であれば「おばさん」とでも無難に呼べばいいものの、「和穂さん」と静の母に対して呼びかける渡部研吾の大胆さにも驚かされます。

時が流れて大人になった研吾と静の微妙な関係と、きょうだいの間に絡んでくるふたりの女性たちの姿もミステリアスです。

奈良公園や法隆寺などの修学旅行の定番スポットがコースに選ばれているのも、和穂が高校の先生をしているからなのでしょうか。

旅の終わりにはそれぞれの卒業を暗示しているようでもあり、新しい物語の始まりのようでもありました。

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