著者:三秋縋 2013年12月にメディアワークス文庫から出版
三日間の幸福の主要登場人物
クスノキ(くすのき)
本作の主人公。二十歳の大学生。「寿命を買い取ってくれる店」に、三カ月を除く寿命を売り払った。
ミヤギ(みやぎ)
「寿命を買い取ってくれる店」で働く女性。クスノキの寿命を査定後、そのまま彼の監視員となる。他の人には見えない。
ヒメノ(ひめの)
クスノキの幼馴染。クスノキの競争相手であり、理解者でもあったが、転校を機に離れ離れになる。
三日間の幸福 の簡単なあらすじ
金欠のクスノキは、偶然聞いた「寿命を買い取ってくれる店」に立ち寄り、二十歳にしては短すぎる余命と、今後、人生にいいことは起こらないという事実を知ってしまいます。
未来を悲観した彼は、寿命の大半を売り払い、僅かな余生を楽しく過ごそうと奮闘します。
空回りし続ける彼を静かに見守る監視員のミヤギ。
やがて打ち解け、傷ついた互いの心を開き合ううちに、クスノキはミヤギのために余生を使いたいと思うようになります。
三日間の幸福 の起承転結
【起】三日間の幸福 のあらすじ①
過去の栄光を引きずりながら、平凡で退屈な日々を送っていたクスノキは、金欠を解消するべく訪れた馴染みの古書店で、偶然「寿命を買い取ってくれる店」の話を聞きました。
なんとなく立ち寄ったその店で、余命が三十年であることと、今後人生の価値が著しく低いことを知ってしまうクスノキ。
彼の人生につけられた価値は、一年につき一万円という、最低買取価格でした。
未来を悲観した彼は、三カ月を除く全ての寿命を売り払ってしまいます。
寿命を売り払った人物が、自暴自棄になって問題行動を起こすことを防ぐためにつけられた監視員ミヤギを家に迎えたクスノキ。
彼は、せめて楽しい三カ月を送ろうと決意するのでした。
そうして始まった最後の三カ月。
ミヤギはクスノキの『起こるかもしれなかった未来』の中でも特に重要なことを知っていて、クスノキが平穏な余生を送ることができるように気遣い、助言をします。
彼女を疎ましく思い反発するクスノキは、知人へと連絡を取り、人生の終わりが明確になったことにより込み上げた人恋しさを解消しようとしますが、全く思い通りに進みません。
ミヤギが知る『起こるかもしれなかった』、けれど今では『絶対に起こり得ない未来』や正論に打ちのめされたクスノキは、心のどこかで、世界が急に優しくなることを期待していたことに気付くのでした。
【承】三日間の幸福 のあらすじ②
「二十歳になって、私たちが偉くなって……もしそのとき、お互い、情けないことに、結婚するような相手が見つかってなかったとしたら」「そのときは、売れ残り同士、一緒になりませんか?」小学校四年生の頃に転校して以来、一度も会っていない幼馴染ヒメノとの約束が忘れられずにいたクスノキは、ミヤギの制止を振り切ってヒメノに会いに行くことを決めます。
ミヤギによって彼女が既に出産と離婚を経験していることを教えられ、愚かであることを承知しつつ、最後に一度だけでも彼女と会って話がしたいとヒメノの家に赴いたクスノキは、無事に彼女と再会を果たします。
後日にディナーの約束をした二人は、訪れたレストランでこれまでの人生を語り合いました。
クスノキは何の面白味もない中高時代の話や、かつて得意だった絵を描くことを諦めた話を、ヒメノは先輩と結婚して高校を中退した話を。
そしてクスノキは、愚かと分かっていながら、「寿命を買い取ってくれる店」の話まで語ってしまいます。
寿命を売り払ってしまったこと、他の人には見えない監視員がついていること。
一通り話を聞いた後、化粧室へ移動したヒメノは、クスノキの頭がおかしくなったと思い、そのまま姿を眩ませてしまいます。
そしてウェイターに残されていた手紙から、クスノキはヒメノが自分をずっと恨んでいたことを知るのです。
自分の目の前で死んでやろうと思っていたけれど、頭のおかしくなった相手に復讐をしても仕方がない、と綴られた手紙を見て、ミヤギが自分のために残酷な真実を隠していたことに気付きました。
自暴自棄になったクスノキは寿命を売って得たお金を道行く人に配り、雨に濡れて立ち尽くします。
そんな彼に、ミヤギは黙って寄り添うのでした。
【転】三日間の幸福 のあらすじ③
死ぬ前にやりたいことを、全てなくしたクスノキは、ミヤギに促されて「好きなこと」を探します。
クスノキは自動販売機が好きだったことを思い出し、自動販売機を巡って写真を撮る日々を送り始めます。
ミヤギと共に景色を巡りながら、より深く彼女のことを知っていくクスノキでしたが、ある日、ミヤギの休暇に代理でやってきたという監視員に「自分の寿命が三十万だと言われて、疑いもせずに信じたのか?」と言われます。
その言葉の意味を考え続けたクスノキは、ついにミヤギの嘘に気が付きました。
寿命一年につき一万円という値段が、最低買取価格であること。
それが嘘なんだろう、とミヤギを問い詰めたクスノキは、自分の本当の価値が三十円しかなかったことを知ります。
三十万円を渡したのは自己満足のためだったとミヤギは語りますが、共に過ごすうちに、クスノキに惹かれていたとも打ち明けます。
クスノキ自身もこれまでの人生で負ってきた傷を見せ合ううちに、ミヤギに惹かれていたことに気付き始めました。
ミヤギが母の借金を肩代わりして、誰にも認識されない孤独な監視員をしていることを聞いていたクスノキに、強い思いが生まれます。
それは、残りの寿命二カ月で、彼女の借金を全て返済してあげたいという、ようやく出来た目標でした。
【結】三日間の幸福 のあらすじ④
自分がいなくなった後のミヤギに平穏な日々を過ごしてほしいと、彼女の借金を二カ月で返済しようとするクスノキが考え付いた方法は、社会知名度を上げて、寿命の買取価格を上げることでした。
再度、残りの寿命を売ろうとするクスノキを、ミヤギは必死に制止します。
意地を貫くクスノキは、他の人からは見えないミヤギをつれて、「一人で行うのが恥ずかしいとされること」を毎日行います。
ミヤギに話しかけ、彼女の存在を周囲に主張するような行動をとるクスノキは、狭い町において段々「透明人間をつれた男」として有名になっていきました。
良くも悪くも町一番の道化となったクスノキ。
彼はある晩、ミヤギの寝顔を描き始めます。
図らずもその時、諦めたはずの絵を描く才能を開花させたクスノキは、残った寿命一カ月を売ることで、ミヤギの借金の大半を返すことに成功します。
買い取りも行われず、監視員もつかなくなるという最後の三日間を残し、ミヤギと別れたクスノキは、一人彼女の平穏を祈りました。
しかし、そこにミヤギが現れます。
彼女は、自分の寿命をクスノキと同じように三日を残して売り払うことで借金を全て返済し、透明人間ではなくなっていました。
二人は寄り添って、クスノキが送るはずだった悲惨な三十年よりも、価値のある三日間を過ごすことでしょう。
三日間の幸福 を読んだ読書感想
「命の価値」と「どう生きるのか」を美しく、残酷に、けれどどこか優しく描かれた作品です。
過去にすがる気持ちも、歩んできた道に対する後悔も、未来への些末な期待も、身近な感情がこの作品には生き生きと綴られています。
そうした身近な感情が、非現実的である「寿命を買い取ってくれる店」の話と融合し、奇妙な高揚感を与えてくれるのでしょう。
寿命を売る、という行為から始まる本作は、どうしても「死」を意識させられるほの暗さを孕んでいます。
飾らずに語られるクスノキの負の感情がその暗さによく映えますが、不思議と憂鬱にはならないのです。
それは、ミヤギの気遣いや、朴訥な世界観が、優しさを添えているからだと感じます。
世界観に浸るもよし、哲学的に考えるもよし、複数の側面が見えてくる作品です。
コメント
寓話としては未熟、りありてぃを求めるには無知。