著者:三島由紀夫 1947年11月に桜井書店から出版
岬にての物語の主要登場人物
晃(あきら)
主人公。両親と妹と暮らす11歳。読書が趣味で夢見がちな性格。スポーツは苦手。
小此木(おこのぎ)
晃の家庭教師。 「オコタン」の愛称で親しまれる。漁村に生まれたために泳ぎは得意。
初(はつ)
晃の家のお手伝いさん。面倒見はいいが口うるさい。
高樹町の大奧さま(たかぎまちのおおおくさま)
晃の大伯母。 高齢だが元気で気立てがいい。
岬にての物語 の簡単なあらすじ
軟弱な我が子を心配している父親の思いつきで、晃は房総半島の海辺町に滞在して泳ぎを習わされています。
ある日の午後に廃屋に迷い込だ時に青年と少女と出会いますが、ふたりは世間から許されることのない関係を続けていたようです。
岬の先にある崖からふたりは心中をしてしまい、秘密を守り抜くことを誓った晃は東京へと帰っていくのでした。
岬にての物語 の起承転結
【起】岬にての物語 のあらすじ①
幼い頃から外国の童話や人形が大好きで子供らしい明るさや活発さが感じられない晃のことを、昔気質の父親や祖母は心配していました。
11歳にしてはひどく落ち着いて聞き分けがいい子供でしたが、病弱で発育が遅れていたために7歳くらいにしか見えません。
日光に当てて泳ぎを覚えさせるために、夏休みに入ると父は房総半島の鷺浦というさびれた海辺の漁師町へと晃を連れていきます。
住み込みで働いている学生の小此木も教師の代わりに同行することになり、東京を出発したのは7月の半ば頃のことです。
泳ぎを習うことには抵抗がある晃でしたが、ただ海を眺めて過ごす毎日は幸せでした。
1カ月くらいすると小此木は水泳のコーチをあきらめて、すっかり仲良くなった晃の妹と浜辺で遊んでいます。
晃はビーチパラソルの下で、相変わらずぼんやりとしたりお気に入りの本を呼んでいるだけです。
いつものようにお昼時に傘の下でサンドイッチを食べていると、橋の向こうからお手伝いの初が走ってきました。
【承】岬にての物語 のあらすじ②
晃の祖母の姉に当たる女性は「高樹町の大奥さま」と呼ばれていて、夫と死別してからは知り合いを訪ねて歩くのを生きがいにしています。
自分には孫がいないために妹と張り合うように晃たちきょうだいを溺愛していて、この日もたくさんのお菓子や果物を持って遊びにやってきました。
その日の午前中に波打ち際で砂のお城を作っていた晃は、この作品を完成させてから高樹町の大奥さまに会いに行くつもりです。
母と妹は初と一緒にひと足先に家に帰っていき、泳ぎたくてうずうずとしていた小此木は水平線の向こうへと消えていきました。
久しぶりにひとりになった晃はお城にもあきたために、美しい岬が輝いている東の方角を目指して歩いていきます。
弁財天を祭った神社の境内は散歩で通るコースで、石畳の階段を登った先の森の中の坂を抜けた先が岬の頂上です。
そこには荒れ果てた1軒の小さな洋館が建っていて、聞こえてきたオルガンの音に誘われるように晃は中に入っていきました。
【転】岬にての物語 のあらすじ③
オルガンを弾きながら「夏の名残のバラ」という曲を歌っていたのは美しい少女で、年齢は20歳をこえてはいないでしょう。
晃が鷺浦から歩いてきたと答えるととても驚いて、岬の1番先にある景色のきれいな場所へ連れていってくれるそうです。
この洋館にはもうひとり20代前半かと思われるハンサムな青年がいて、ほほ笑みを絶やさずに少女の側からも離れようとしません。
少女は古風なレースで飾りつけたバラ色のリネンの洋服に首飾り、青年はフランス製の灰色のスーツに地味なネクタイ。
ふたりの服装からは何やら儀式のような厳かさが伝わってきて、子供ながら晃の胸の内には悲劇的な予感も湧いてきました。
少しの間だけふたりが奥の部屋へと入っていくと、忍び泣きのような声が聞こえてきます。
すぐに出てきたふたりの顔は、ますます若々しく輝いているようです。
もう1度だけオルガンを弾いてほしいという晃の願いは、少女の「また今度」という言葉によってかないません。
【結】岬にての物語 のあらすじ④
先ほど少女が言っていた岬の先端には1本の松の木が生えているだけで、足元は断崖絶壁でその周囲には目をさえぎる物はありません。
青年と少女と3人で隠れんぼをすることになり、鬼になった晃は松の木陰にうずくまったまま100までカウントします。
半分ほど数えた時に背後の断崖から晃の耳に届いたのは、深い潮騒とセミの鳴き声にまじった男女のかすかな悲鳴です。
振り返った時にはふたりの姿は見当たらずに、晃は激しく泣き出しながら走り出しました。
弁財天の境内に設置された石のベンチに腰かけてボンヤリとしていると、小此木が見つけて家まで手を引いて連れていってくれます。
晃が迷子になったと思って大騒ぎしていた初からはこっぴどく怒られましたが、青年と少女のことを打ち明けるつもりはありません。
次の日に晃は発熱したために、医者のアドバイスに従って気長に養生するために東京の自宅へと戻ります。
汽車が都内の市街地へと差し掛かる頃に泳ぎを覚えてこなかったことを思い出しましたが、晃の体には不思議な満足感が満ちてくるのでした。
岬にての物語 を読んだ読書感想
年齢の割りには大人びた横顔の男の子・晃が、嫌々ながらも海辺の町に連れて「子供らしさ」を要求されるシーンには笑わされました。
炎天下の砂浜を走り回ることもなく打ち寄せる荒波に飛び込んだりすることもなく、日陰で優雅に読書をする姿も憎めません。
そんな晃がふとした瞬間に足を踏み入れていく、海面に突き出した岬と世間から見捨てられたような洋館が幻想的です。
ファンタジーの世界から飛び出してきたような美男美女のカップルを目の前にして、初めて年相応の恥じらいを見せる姿にも心温まります。
直後に訪れるドラマは、大人になるための通過儀礼のようで忘れがたいです。
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