著者:彩瀬まる 2019年9月に新潮社から出版
朝が来るまでそばにいるの主要登場人物
さゆり(さゆり)日菜子の友人。0歳の子供あり。日菜子(ひなこ)さゆりの友人。妊娠中。瑠璃(るり)繊細な感性をもつカメラマン暁(あきら)昔の転校生。モデルの仕事をする。宏之・良昭昭(ひろゆき・よしあき)母を亡くした幼い兄弟今村・絵里子(いまむら・えりこ)絆深い夫婦。家具を作っている。
朝が来るまでそばにいる の簡単なあらすじ
六編にわたって、それぞれの登場人物が不思議な体験をします。
お医者からお腹の子供の心音が聞えないことを告げられる女性、死んで火葬も終えた妻がある日、帰ってきたことを淡々と受け入れる男性、幼い頃から自然の美しいものを観察するのが好きな女性とかつての同級生、死んだ母の存在を感じる兄弟、学校に存在する女の子の霊、土砂崩れに合う直前の夫婦。
生きているのか、死んでいるのか、夢うつつの不思議な世界を飛び越えて、最後にはひとすじの光が見えます。
珠玉の作品です。
朝が来るまでそばにいる の起承転結
【起】朝が来るまでそばにいる のあらすじ①
幼い子供を持つ友人のさゆりに自分が妊婦であることを伝えられなかった日菜子でした。
それは理由がありました。
定期健診で先生からお腹の子供の心音が聞えないことを診断されたからです。
あきらめきれない日菜子はぐったりと力なく眠りこみます。
美味しそうな料理のにおいで目を覚ますと、見知らぬ女がいました。
なつかしい味のする料理を食べ満たされるとまた眠りこみます。
夜中に気が付くと女は大きな黒い鳥に変わっていました。
徐々に女を受け入れる日菜子でしたがどんどん黒い鳥にこころまで浸食されそうになります。
このままではいけないと心を奮い立たせ、お腹の赤ちゃんの死を受け入れ未来へ進むのでした。
死んで火葬を終えた妻の千尋がある日、家に帰っていました。
二人は生前、小指と小指が赤い糸でつながれているほど仲が良かったのです。
夫の光樹はこれを受け入れ一緒に暮らし始めます。
果たせなかった新婚旅行に出かけますが、千尋は光樹をあの世へ連れて行こうとします。
しかし何度生まれ変わっても一緒になるという言葉で千尋はあきらめて、微笑みながら消えるのでした。
【承】朝が来るまでそばにいる のあらすじ②
幼い頃から自然の生き物を鮮やかにとらえ、高い感性をもつ女性である瑠璃。
小学生のある日、転校生の暁がやってきます。
瑠璃は彼に惹かれ、食べてしまいたいたいという欲求にかられますが、暁は転校してしまいました。
大人になり再会する二人は共に仕事をするようになりました。
瑠璃はカメラマン、暁はモデルとしてデビューしたがある日終わりがきます。
瑠璃は暁のすべてを食い尽くしたのです。
ある日突然、母が亡くなり父親と三人での暮らしを余儀なくされた幼い兄弟の宏之を良昭。
父親は一生懸命二人を育てるがうまくいきませんでした。
疲れた父も心を病んでいます。
寂しがる弟に対して苛立ちを抱える宏之でしたが、ある日死んだはずの母の存在を感じます。
しかし魔物の姿となった母は弟を闇の世界へ引きずり込もうとしていました。
母のハンドクリームのにおいを感じた宏之は「母さん」と呼びかけ、お父さんを助けてほしいと願いました。
母は元の姿に戻り、涙を流しながら姿を消すのでした。
そして三人の新しい生活が始まります。
【転】朝が来るまでそばにいる のあらすじ③
「裏山の地盤が緩んでいる可能性がある。
と役場から言われ、その山すその住民は中学校の体育館へ避難をすることになりました。
その山すそに暮らす、今村と絵里子。
今村には増水した川に流された経験がありました。
それはまるで目も耳もきかない真っ暗な場所へ連れていかれる感覚でした。
絵里子もまた持病の神経症がありました。
二人は避難することなく、黙々と家具を作り続けます。
かつて濁流にのまれた記憶を夢に見て、恐怖を感じ、全身汗まみれになりながら目を覚ます今村であったが、隣に寝ているはずの絵里子もまた怖い夢にうなされて起きだし、トイレで嘔吐を繰り返していたのでした。
絵里子は「もしも、あなたの中に出来てしまった、真っ暗な、なんにもない場所に連れていかれたら、私はあなたの名前を呼ぶと思う。」
と言います。
心に傷を持っている二人は深いところでつながっているのでした。
しかし地震が起きる予兆が見られます。
避難しない二人はどうなっていくのでしょうか。
【結】朝が来るまでそばにいる のあらすじ④
もうずいぶんと長く学校の中にいる彼女は、かつて屋上から突き落とされて死んだのでした。
浮遊霊となってずっと学校にとどまっているのですが、もう早く消えたいと思っています。
同じようにトイレの奥の扉の向こうにも霊となった女の子がいて、深いため息が聞こえてきます。
その子に対して距離を置いていました。
ある日、自分の存在に気づいてくれる先生が現れます。
先生に対してぽつりぽつりと自分のことを話し始めるのでした。
みじめになりたくないという彼女に、先生は本当の自分を探すようにすすめます。
次第に生きていたころの自分を見つめることができるようになり、自分の卑屈で醜かった心を反省します。
最後にトイレにいた霊の女の子と話をします。
関わりあおうとしてくれていた彼女を拒んでいたことを謝りました。
ごめんなさい、、、お父さん、お母さん、妹、すべての傷つけた人に対して。
すると次第に体中か温かくなり、彼女は消えていくのでした。
彼女はまた生まれ変わっていくのです。
朝が来るまでそばにいる を読んだ読書感想
六つすべての短編が、不思議で怖くて、幻想的な物語でした。
生と死が隣り合わせであることを感じ、少し震える思いがしました。
でもただ怖いだけでなく、ラストにはひとすじの光が差し込み、未来を感じさせるのです。
悲しい思いをして生きているかわいそうな息子達を深い闇の世界に一緒に連れて行こうとする母。
しかしやはりそれは出来なかった。
深い親子愛を感じさせる話がとても印象的でした。
愛するということは美しいものです。
しかし愛しすぎると恐ろしいものに変わっていってしまう感情であることを、まざまざと見せつけられました。
手触りのある生々しい世界を描く採瀬まるさん著作本、他にも読んでみたいと思いました。
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