著者:羽田圭介 2017年3月に河出書房新社から出版
成功者Kの主要登場人物
K(けー)
主人公。本業は小説家だがテレビ出演もこなす。異性関係が派手。
好恵(よしえ)
2年前からKと交際中。小さい商社の総合職に就く。結婚願望が強い。
坂本可奈代(さかもとかなよ)
Kの大学生の頃の同級生。 外資系システム会社に勤務していて男に依存しない。
紗友子(さゆこ)
Kの愛読者。思い込みが激しい。
篠枝富美那(しのえだふみな)
高校2年生の時から芸能活動をスタート。美人だが恋愛経験は少ない。
成功者K の簡単なあらすじ
伝統ある文学賞に輝いた作家のKは、テレビに出たことがきっかけで一躍有名人の仲間入りをしました。
たまたま同じ番組で共演した芸能人のアドバイスに従って、不特定多数の女性たちとの関係を続けていきます。
やがてブームが去って世間からも忘れ去られていくようになった頃、これまでの体験をもとにした新作小説を書き始めるのでした。
成功者K の起承転結
【起】成功者K のあらすじ①
Kが見知らぬ人から町中で声をかけられるようになったのは芥川賞を受賞した7月の半ばからではなく、地上波のバラエティーへ出演して番組が放送された8月6日の翌日からです。
書店のサイン会に来てくれた高部清美という女性とは、誘われるままに自宅マンションを訪れ一夜を過ごしました。
一般の女性と個人的に親しくなったのは12年間の小説家生活の中でも初めてのことでしたが、たまに自宅にやって来て泊まっていく恋人の好恵は気付いていません。
Kの家から私鉄で2駅離れたところには、大学生時代のクラスメート・坂本可奈代が住んでいて、彼女とも惰性的に関係を続けています。
大阪の書店でイベントを開催した時には、100人近く詰めかけた女性たちの中でも特に美しい女性・紗友子からメールアドレスが記された封筒を手渡されました。
連絡先を教えてくれたファンには早く手を出したほうがいい、自分の旬が冷めてしまってからではもう遅い。
先日のバラエティー番組で共演した一発屋のお笑いタレントの男性から言われた言葉を思い出したKは、紗友子にメールを送って新大阪駅から歩いて10分弱のシティーホテルで密会をします。
【承】成功者K のあらすじ②
タワーホテルの高層階に位置するレストランで食事をしていたKは、好恵から別れ話を切り出されました。
密着ドキュメントの収録で北九州にいった時に、女性とホテルに入っていくところを目撃されてネットに書き込まれていたようです。
ここ数カ月で毎日のように外で人と会いチヤホヤされてきたことで、家の中で独りでいる時間に耐えきれません。
失恋の痛みと虚無感を埋めるかのように高部清美や坂本可奈代、さらにはファンレターに書かれていた連絡先を頼りに次から次へと相手を探します。
恋愛トークショーにゲスト出演した時に出会ったのが、ファッション雑誌でモデル業をこなしながら女優としても売り出し中の篠枝富美那です。
ルックスに恵まれながら飾り気のない彼女の性格に好感を持ったKは積極的にアプローチをしますが、一緒に食事をするだけで終わりました。
めずらしくプラトニックな期間を楽しんでいたKですが、少しずつ原因の分からない頭痛に悩まされていきます。
【転】成功者K のあらすじ③
印税や出演料に株取引でも負け知らずなKの資産は、気がついたら1億円に達していました。
新車価格にして2600万円のメルセデス・ベンツをキャッシュで購入したのは、公共の交通機関で移動する煩わしさを感じていたからです。
電車の車内では乗客から指を差されたりりスマートフォンのカメラを向けられたりすることが日常的になり、外出する際には帽子とマスクが欠かせません。
収入が増えてゆとりが生まれたKは、今まで住んでいた1Kの部屋から広さが4倍で家賃は5倍になるマンションに引っ越します。
年末年始の激務を理由に会うことを逃げ回っていた紗友子からは、「会ってくれないと、どうにかしてしまいそう」という脅しとも取れるメールが届きました。
Kが相談した相手は同じ大学付属校に通っていた友人で、法科大学院で学んだ後に弁護士になった山路です。
勤め先の事務所がある桜上水に近い焼き鳥屋さんで待ち合わせをして、乾杯とお互いの近況報告もそこそこに紗友子とのトラブルを切り出しました。
【結】成功者K のあらすじ④
山路はすべては妄想で中学生の時と変わってないと笑うだけで、アルコールの勢いに任せて殴りかかってきたKを哀れむように見つめるばかりです。
次の日に雑誌対談とドッキリ番組の収録の前に見ばえを良くするために新宿のインポートブランド専門店へ買い物にいきましたが、クレジットカードの使用が止められています。
現金を下ろすために近くにある銀行のATMに向かいますが、預金残高はわずか30万円程度しか残っていません。
マンション近くの月決め駐車場に停めておいたはずのベンツは見当たらずに、お台場のスタジオには電車で行くことにしました。
スタジオのエントランスで撮影できていた富美那に話しかけますが、出待ちをしているファンと間違われてしまいます。
芥川賞の受賞からもうすぐ丸1年が過ぎますが、そのあいだ1冊の新作も発表していません。
この1年間の特殊な体験をもとにした作者本人を連想させる主人公で、「成功者K」と名付けた小説の執筆を決意するのでした。
成功者K を読んだ読書感想
出版不況にあえぐ文学界と浮き沈みの激しい芸能界の、知られざる内幕が描かれていて興味深いです。
ある日突然に名声を得た主人公がメディアに踊らされていく様子もリアリティーがあふれていて、フィクションなのか実話なのか疑ってしまうかもしれません。
肝心の執筆活動にはまるで身が入らずに、欲望をむき出しにして暴走していく姿には迫力があります。
手に入れたものが少しずつこぼれていくような、後半の展開も不思議です。
久しぶりに帽子を脱いでマスクを外した素顔のままで人混みの中へと消えていく、ラストの後ろ姿にも哀愁が漂っていました。
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