「夏の名残りの薔薇」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|恩田陸

夏の名残りの薔薇

著者:恩田陸 2004年9月に文藝春秋から出版

夏の名残りの薔薇の主要登場人物

沢渡桜子(さわたりさくらこ)
ヒロイン。旧姓は湊。夫の隆介よりも実の弟・時光を愛している。

沢渡伊茅子(さわたりいちこ)
桜子の義理の伯母。すべてを見通す目と統率力を合わせ持つ沢渡グループの現当主。

沢渡丹伽子(さわたりにかこ)
伊茅子の妹。美容室や着付け教室を経営。

沢渡瑞穂(さわたりみずほ)
丹伽子の娘。そこそこキャリアのある舞台女優。

天知繁之(あまちしげゆき)
大学で法律や経済学を教える。 外国の推理小説に出てくる探偵のような風貌。

夏の名残りの薔薇 の簡単なあらすじ

沢渡家の当主・伊茅子によって毎年の秋にグループのホテルでお茶会が開かれていましたが、招かれざる客によって不審な事故が多発していました。

犯人は伊茅子の妹・丹伽子がひた隠しにしてきた娘で、ホテルから入所していた施設に戻る際に転落死します。

1年後の秋を迎える前に伊茅子もこの世を去ってしまい、経済的な理由からお茶会も終わりを迎えるのでした。

夏の名残りの薔薇 の起承転結

【起】夏の名残りの薔薇 のあらすじ①

3人姉妹のお茶会に出席する訳ありな姉と弟

田舎の市役所に勤めていた父親と小学校教師の母に育てられた湊桜子と時光ですが、ふたりが高校生になる頃に両親は交通事故で亡くなりました。

理系に強く大学の数学科を出た桜子は損害保険会社の数理部、外資系のシンクタンクに就職した時光はサラリーマンと評論家の二足のわらじ。

まとまった金額の生命保険と遺産もあり経済的には困らず仕事もそれぞれが順調でしたが、きょうだいは人に言えない秘密を抱えています。

桜子が沢渡隆介という男性と結婚して長男の康介を授かったあとも、時光と男女の関係を続けていることです。

隆介の実家はホテルを経営していましたが、毎年秋になると桜子と時光もお茶会へ招待されています。

沢渡グループを率いてきた長女の伊茅子、次女で舞台女優をしている娘・瑞穂が自慢な丹伽子、三女で還暦に近いのに天真な未州子。

桜子と時光の異様な関係に気づいていた伊茅子によって、ふたりは来年からこのホテルへの出入り禁止を言い渡されてしまいました。

【承】夏の名残りの薔薇 のあらすじ②

ホテル内に響き始める不協和音

夜になって客室に引き上げた桜子がひとりベッドで休んでいると、大きな音を聞いたためにロビーへ飛び出しました。

踊り場に設置されていた大きな柱時計が突然に倒れかかってきて、一歩逃げ遅れていたら丹伽子は下敷きになっていたでしょう。

さらには若い頃に流産したことがある丹伽子への嫌がらせなのか、彼女の部屋の前に落ちているのは子供用の手袋と縄跳びです。

翌朝になっても伊茅子はみんなに顔を見せることもなく、10時間以上たっても自室に閉じ籠ったままで出てません。

ノックをしても返事がないことを不審に思った隆介がフロントからマスターキーを借りて扉を開けると、伊茅子は椅子の上で崩れ落ちています。

招待客のひとりで大学の先生をしている天知繁之によると、外国製の強いタバコを吸い過ぎて一時的に意識を失っていただけで命に別状はないそうです。

先代の沢渡家当主からの付き合いがあるという天知は、桜子と時光が伊茅子の父親の隠し子であることもお見通しです。

【転】夏の名残りの薔薇 のあらすじ③

1年越しに明かされる真実

沢渡家の血を引いていた桜子と時光は幼い頃に子供のいない湊夫妻へ養子に出されましたが、両親の命を奪ったのは沢渡グループが所有するトレーラーです。

事故は居眠り運転による過失だと偽証した瑞穂のことを、桜子は殺したいほど憎んでいたと初めて告白しました。

最終日にはホテルに通じる渓谷の遊歩道で身元が分からない中年女性の遺体が発見され大騒ぎとなり、お茶会は後味の悪いままで終わりを迎えます。

2度と自分が呼ばれることはないと思っていた桜子のもとに、お茶会の招待状が舞い込んできたのは1年後の秋です。

夏のあいだに伊茅子が亡くなったために主催者は瑞穂、招待客は桜子、隆介、時光、天知、丹伽子、未州子。

表向きは伊茅子を追悼するためのパーティーという名目で集まった6人ですが、本当の目的は去年の不審な事故を起こした犯人と発見された遺体の身元を特定することでした。

遺体の顔がつぶされていたことから、天知はみんなの前ですべての謎を解き明かします。

【結】夏の名残りの薔薇 のあらすじ④

秋に降るバラのような雪がお見送り

1年前の身元の分からない女性の正体は、丹伽子の娘であり瑞穂の双子の片割れでもあります。

生まれつき知的ハンディキャップがあった彼女は流産したことになっていましたが、実際には施設に預けられていました。

縄跳びや手袋を落とした一連の騒ぎも、柱時計に抱きついて倒したのも無邪気に遊んでいたに過ぎません。

こっそりと抜け出した施設へと帰る途中で足を滑らせて亡くなりますが、その遺体の第1発見者は瑞穂です。

自分とまったく同じ顔した女性の遺体を見て、女優としてのキャリアに傷がつくことを恐れたために顔面をつぶしたのが真相でした。

伊茅子の急死以来ふたりの妹はすっかり老け込んだ様子で、沢渡グループも同族経営の見直しやコストパフォーマンスを考えなければなりません。

会計士の資格を持つ天知のアドバイスに従ってこのシーズンにはホテルを一般観光客に解放することが決まり、お茶会も今回が最後です。

夏の名残りを埋葬するバラのような白雪が舞う中、ひとりまたひとりと宿泊客たちはホテルを後にするのでした。

夏の名残りの薔薇 を読んだ読書感想

なだらかな山の斜面にひっそりと姿を現すクラシカルなホテルが物語の舞台になっていて、いやが上にも不吉な予感が高まっていきます。

巨大な館内にどっしりとそびえ立つアンティーク調の柱時計が倒れてきたりと、ロールプレイング・ゲームのようなスリルもありました。

登場キャラクターのほとんどに血のつながりがあるという衝撃的な事実と、お互いを愛し憎み合うような複雑な人間関係も忘れられません。

ただひとり血縁関係がなく純粋な傍観者であることを許された天知繁之が、張り巡らされた伏線を回収していくクライマックスも痛快です。

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