「「ワタクシハ」」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|羽田圭介

ワタクシハ

著者:羽田圭介 2011年1月に講談社から出版

「ワタクシハ」の主要登場人物

山木太郎(やまきたろう)
主人公。高校時代からプロのギタリストとして活躍。大学卒業後の進路は未定。

佐藤恵(さとうめぐみ)
太郎の彼女。 夢はアナウンサー。

小早川(こばやかわ)
太郎のバンド仲間。担当はボーカル。いま現在はイタリアへ留学中。

永井(ながい)
太郎のバンド仲間。 ベース担当。トラブルを起こして消息は不明。

宮台由紀夫(みやだいゆきお)
北海道からミュージシャンに憧れて上京。 得意な楽器はベース。

「ワタクシハ」 の簡単なあらすじ

高校生の時に天才ギタリストともてはやされた山木太郎も大学生に入ってからは鳴かず飛ばずのために、就職活動をスタートします。

大手の企業からは不採用が突き付けられる中で、ただ1社だけ内定があったのは長野に本社を置く食品機械会社です。

太郎は平日にはサラリーマンとして働きつつ、週末だけギタリストとしてバンド活動を続けていくのでした。

「ワタクシハ」 の起承転結

【起】「ワタクシハ」 のあらすじ①

天才ギタリストの就活

山木太郎が安物のギターを持参して、オーディション番組「ジャパニーズ・ドリーム」に応募したのは高校2年生の時です。

ギタリスト部門で4316人中1位になり半年後にはメジャーデビューを果たして、バンドのCDは30万枚売れて紅白歌合戦にも出場しました。

ベーシストの永井が違法な薬物の所持で逮捕されて、ボーカリストの小早川がイタリアへ留学したためにバンドはわずか1年足らずで活動休止へと追い込まれてしまいます。

付属の高校だったために受験勉強をする必要もなく大学に進学できましたが、ここ2年間は裏方としての演奏や地方への営業ばかりで自分名義のCDはリリースしていません。

就職活動を意識するようになったのは大学3年生の時で、同じサークルで出会って付き合い始めた佐藤恵がアナウンサーの採用試験を受けたからです。

太郎も記念受験のつもりで面接を受けてみましたが、派手な服装と「ワタクシハ」という言葉使いが慣れないためにか1次試験で落ちてしまいました。

【承】「ワタクシハ」 のあらすじ②

選ばれる側から選ぶ側へ

大企業の社員としての安定した身分に憧れていく一方で、太郎はギタリストという不安定な職業も諦めきれません。

長らく連絡を取っていなかったメンバーへメールを送って、バンド活動の再開を呼び掛けていました。

去年の夏から東京に帰っていたのに気まずくて連絡できなかったという小早川と、1週間後にさっそく打ち合わせを始めます。

永井と偶然にも鉢合わせをしたのは会社説明会の帰りで、靖国通りの横断歩道の前でプラカードを持つアルバイトをしているようです。

不祥事を起こしてバンドを脱退した永井は、日雇いの仕事を転々としていて今ではベースを弾いていません。

永井に見切りをつけた太郎と小早川は、レコード会社を通じて新メンバーを募集しました。

約1500人の応募者の中からデモテープの選考で200人まで絞って、最終審査には太郎も面接官として加わります。

全員一致で選ばれたのは実家が北海道で酪農家だという、デビュー当時の太郎とそっくりな宮台由紀夫という青年です。

【転】「ワタクシハ」 のあらすじ③

未開路を進んでみる

テレビ局からラジオ局に大手の広告代理店、メーカーや証券会社にコンサルタント。

特に業種を絞ることもなく漫然と面接を受け続けている太郎ですが、いまだに1社も内定をもらえていません。

恵も全国ネットのキー局の採用試験は全滅のため、地方の放送局に狙いを絞っていました。

徳島県までアナウンサー選考を受けに行くという恵を八重洲口のバスターミナルまで見送りにきた太郎が、ロータリーで見たのはギターケースの形をした電気自動車です。

不思議なデザインの車に興味が沸いてきた太郎は、大学の図書館でレファレンスサービスを利用して新聞や学術論文を徹底的に調べてみました。

製造元は有名な自動車メーカーではなく、長野県にある中規模の食品機械の製造設計を請け負う会社です。

ホームページにアクセスしてみましたが去年に立ち上げたばかりのようで、2カ月前を最後に更新も止まっていて採用情報も載っていません。

これまでのように就活サイトを通じてではなく、手紙と電話のやり取りで面接の機会を取り付けてもらいます。

【結】「ワタクシハ」 のあらすじ④

平日はサラリーマンで週末はギタリスト

東京から長野までは長距離バスで2時間程度かかり、一次面接で社長と対面できた太郎はギターの腕前ではなく日商簿記3級の資格をアピールしました。

太郎がこの会社の採用選考を通過して内定をもらったのは、新しいベーシストの宮台が加入してから初めての野外フェスへの出演が決まった日のことです。

バンドの再始動というプロジェクトに真剣なチームワークを見せてくれたスタッフや、かつての情熱を今でも忘れていない小早川を裏切ることはできません。

就職が決まって長野の社宅に引っ越した太郎は、月曜日から金曜日まではサラリーマンとして働くことにします。

週末になるとローンを組んで買った国産のワゴン車を走らせて名古屋市まで移動して、そこから夜行バスに乗って東京へ向かうのが最短ルートです。

いつものようにバス後方の窓際の席に座った太郎は、持ち込んだギターケースを通路側の席に置いて車窓から夜景を眺めます。

明日は野外公園がありますが、名古屋の系列局で天気予報を担当している恵によるとよく晴れるとのことです。

「ワタクシハ」 を読んだ読書感想

今時の大学生たちの就職活動の悩み事や苦労が、リアリティーを追及したタッチで描かれていました。

10代でギタリストとしての名声をすべて手に入れてしまった主人公・山木太郎に、20歳を過ぎてから突き付けられる厳しい現実がほろ苦いです。

長めの髪にポイントパーマをかけて、グレーのスーツの下に黒いスタッズを打ったベルトを巻いて一般企業の面接にいく破天荒さに笑わされます。

自意識が過剰でスター気分が抜け切らない太郎が、ようやくありのままの自分と向き合っていく姿に好感が持てました。

社会人とミュージシャンとの二足のわらじを、長野と東京を行き来しながら両立させるラストも清々しいです。

コメント