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無惨の記憶に残る縁壱
無惨は身体中に浮かび上がった古傷を見て、縁壱を初めて目にした瞬間を思い出していました。
無惨の目に縁壱は初め”弱く”映りました。縁壱には覇気も闘気も憎しみも、殺意さえも感じられませんでした。そんな縁壱が無惨の首を刎ね、切り刻むなど想像できるはずがありません。それだけでなく、縁壱が残した全身の傷が何百年も細胞を灼き続けるなど、神や仏でも予想だにしなかっただろうと無惨は思います。”本当の化け物”とは自分ではなく、縁壱の事だと無惨は内心毒づきました。
古傷として見えるようになった無惨の急所
丹治郎は無惨の身体に浮かび上がった古傷を目掛けて攻撃を繰り出します。夜明けまで五十分というこの段階で古傷が露わになった事は、傷を隠せないほど無惨には余裕がなくなったのだと丹治郎は考えました。
無惨が確実に弱っていると判断した丹治郎は、一気に攻め込みます。”みんなで繋いだ一秒が無惨をここまで追い詰めた”のだと実感し、丹治郎の胸には熱いものが込み上げました。「絶対倒すから 俺最期までちゃんとやるから」と、丹治郎はみんなの思いを背負って既に限界を迎えている身体を突き動かします。
縁壱の残した古傷は、無惨の身体の上を動きます。丹治郎はその動く傷の下に、無惨の脳と心臓があるに違いないと考えました。目に見える古傷を狙うなら、無惨の攻撃に押されて”透明な世界”が感知できなくとも急所を狙えます。
丹治郎は鏑丸のサポートにも限界があると思い、伊黒をどう支援するか考えを巡らせました。そして”愈史郎の目”があると思いつき、伊黒の為に札を拾おうとします。ちょうどその時、かすがいがらすが夜明けまで四十分と告げました。
思いがけない無惨の逃亡
無惨はかすがいがらすを一瞥しました。その後一瞬の隙に後ろへ退き、そのまま丹治郎に背を向け逃亡します。
丹治郎は予想外の事態に面食らいました。慌てて目の見えない伊黒に声を掛けて知らせます。伊黒は無惨が逃亡したと聞き、驚きつつも納得していました。無惨は誇りを持った侍でもなければ、感情で行動する人間でもないのです。改めて冷静に考えれば、逃亡という手段に出ても可笑しくない相手でした。
伊黒は無惨が生きることだけに固執した生命体である事を思い知りました。一切の抵抗なく逃げ去り、無惨が遠ざかっていく様子が感じ取れます。
丹治郎も必死に無惨を追いました。「負けるのか?こんな負け方あんまりだ」と丹治郎は死んでいった仲間達を思って、やるせない気持ちで一杯になります。
無惨は道に転がる死体の上を走り、どんどん丹治郎達から離れていきます。仲間の亡骸が無惨に踏みつけにされた瞬間を目にした丹治郎は、悔しさと怒りで顔が歪み一筋の涙が頬を伝いました。
突然、無惨の背に複数の刀が飛んできました。間一髪の所で無惨はその刀を切り刻みます。十数メートル先では丹治郎が片っ端から仲間の刀を拾い、無惨に向かって投げつけていました。
無惨は斬撃を受けるよりも刀が身体に深く突き刺さるほうが危険だと考えました。無惨が丹治郎の次の投擲から逃れようと気を取られた時、真上から伊黒が襲い掛かります。伊黒の刀はうなじから喉ぼとけにかけて無惨の首を貫きました。
鏑丸と視界を共有した伊黒
伊黒の攻撃によって無惨の動きは止まり、丹治郎もその場に追いつきました。丹治郎は愈史郎の血鬼術が使える札を、伊黒に向かって差し出しました。鏑丸と視界を共有するよう伝えます。
あと少しで手渡せるという所で、無惨の大きな一撃が二人を襲いました。一瞬で地割れが起こり足場が崩れます。愈史郎の札が丹治郎の指をすり抜け、虚しくも遠くへ吹き飛ばされます。丹治郎は諦めずに伊黒へ指示を出しました。大股三歩右へ飛ぶように言われた伊黒はすぐに反応しますが、対象が小さすぎてどこにあるかわかりません。「鏑丸 頼むーっ!!」と丹治郎が叫び、伊黒と鏑丸は何とか札を手にしました。
鏑丸の見え方は人間と異なりましたが、視界が開かれた事で伊黒は格段に戦いやすくなりました。伊黒は無惨を挟んで戦うよう、丹治郎に立ち回りを指示します。「絶対にここから逃がすな 二人ならできる!!」と伊黒が丹治郎を勇気づけました。
無惨は二人の執着心に苛立ちながら、自分が息切れしていると気が付きます。無惨の肉体に限界が近づいていました。
禰豆子の右目に異変
禰豆子は呼吸を乱し右目を手で押さえながら、丹治郎のいる方角を見つめます。禰豆子が押さえていた手を離すと右目には涙が溢れていました。禰豆子の目は左右で明らかに様子が異なりました。第196話へ続きます。
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