【ネタバレ有り】出会いなおし のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:森絵都 2017年3月に文藝春秋から出版
出会いなおしの主要登場人物
清美(きよみ)
会社員と主婦の二足の草鞋を履きながら生活している。どんなに忙しくても晩御飯には必ず、主食と副菜、香の物にお味噌汁を用意するのを信条としているが、子供たちが巣立ち、夫の残業が多くなった昨今は仕事終わりにデパ地下で調達することもしばしば。
藤木(ふじき)
デパ地下の総菜屋「ベジ&ヘルス」で売り場チーフをしている二十代半ばの男性。清美をクレーマーだと思いぞんざいな対応をみせる。
北里主任(きたざとしゅにん)
✖✖デパート地下食品街総菜コーナーの主任を務める五十代の女性。クレーム処理のプロ。
伸行(のぶゆき)
清美の夫。都内のアパレル会社に勤めている。中間管理職に就いてからは残業が急増し、一緒に夕食をとることは稀になっている。
出会いなおし の簡単なあらすじ
会社員と主婦の二足の草鞋をはく清美は、どんなに忙しくても毎晩の献立を主菜と副菜と香の物と味噌汁を必ず用意します。子供が家にいた時は、ドレッシングや餃子の皮まで手作りする徹底ぶりでしたが、夫が中間管理職に就き、毎晩帰りが遅くなると、こだわり抜いていた料理もお惣菜に頼るようになってきました。疲れた日の休息として食卓に並ぶようになり、あれこれデパ地下を物色するのも楽しい時間でした。そんなある日、いつものようにデパ地下でサラダを購入した清美でしたが、ある異変に気が付きます。
出会いなおし の起承転結
【起】出会いなおし のあらすじ①
会社員と主婦の二足の草鞋をはく清美は、今夜デパ地下で総菜を買うことを決意しました。
事の発端は、帰路の途中の混雑する新宿駅の地下道で、見知らぬ男から後ろから体当たりされ、よろめいた拍子に派手にバッグの中身をぶちまけてしまったからでした。
財布やスマホ、ポーチ、名刺入れ、ハンカチなどが散乱し、慌てて拾い集める清美を体当たりした張本人は、詫びるでもなく、一緒に拾うでもなく、清美を見下ろしているのでした。
三十代前後とおぼしきその男は、黒のダウンジャケットにデニムというありふれた格好をしているのですが、顔がやけに青白く、瞳には何も映っていないような異様さを放っていました。
感情の読み取れない瞳をしているその男に、我にかえった清美が苦情を言おうとした矢先、男は無言でその場を立ち去って行きます。
突き飛ばしておいて、一言の謝罪もないその男に腹を立てた清美は、私物の回収を終えると、今夜はデパ地下で総菜を買って帰ろうと心に決めたのでした。
【承】出会いなおし のあらすじ②
清美はどんなに忙しくても、晩御飯には主食・副菜・香の物に味噌汁は欠かしません。
「台所に立つ時間と家族の健康は比例する」を座右の銘に、ぬか床からドレッシング、餃子の皮まで徹底した手作りにこだわってきました。
しかし数年前から夫の伸行が中間管理職に就き、残業が急増。
一緒に夕飯をとることは稀になりました。
一人息子も日本を離れている今、料理も張り合いがなくなり、ひどく疲れた日や、今日のようにツキに見放された日は、デパ地下で総菜を調達することが増えてきました。
今晩のおかずをどれにしようかデパ地下をうろうろ歩くのも楽しく、ちょっとした解放感がありました。
今夜は多種のサラダを扱う「ベジ&ヘルス」のサラダにしようと決めた清美は、数種類あるサラダの中から〈カブとセロリの塩昆布サラダ〉を選びます。
157g518円の値段のそれをバッグに収め地下街を出ると、地上は先ほどとは雰囲気が変わっていました。
妙に騒々しく、清美がサラダを買っている間に何か起きたようです。
普段の数倍混雑した電車で帰宅した清美は、一息つく間もなく、晩御飯の準備に取り掛かります。
【転】出会いなおし のあらすじ③
メインの肉豆腐を煮込み、手早く味噌汁を作り、きゅうりのぬか漬けを切り、先ほど買ってきた〈カブとセロリの塩昆布サラダ〉を皿に盛ったところで、清美は違和感を覚えます。
カブがダイコンなのです。
まさかと思い、つまんで一切れ食べてみると、やはりそれはダイコンでした。
レシートを見返すと、『カブと~』と表記されています。
これは食品偽装なのではないかと不審に思った清美は先ほどサラダを買った「ベジ&ヘルス」に電話をかけます。
長いコールの後、チーフの藤木と名乗る男が電話口に出ました。
事情を説明する清美に、カブがダイコンのわけがないと取り合わない藤木。
忙しい時間帯に、しょうもない電話をかけてきて……と嫌々対応しているのが電話口から伝わってきます。
押し問答の末、藤木が実際に試食し、ダイコンではなくカブだと証明することで一旦話がまとまりますが、今は売り場がてんてこまいなので、落ち着いたらこちらから報告すると言って電話を切られます。
ふてぶてしい藤木の対応に清美は心が晴れません。
言いがかりをつけるクレーマーだと思われているに違いなく、清美は藤木からの折り返しを待つ間、何もする気が起きず、電話をにらみ続けていました。
【結】出会いなおし のあらすじ④
一時間ほどして清美の電話が鳴りました。
しかし、電話の相手は先ほどの藤木ではなく、地下食品街総菜コーナーの北里という主任でした。
清美の指摘通り、〈カブとセロリの塩昆布サラダ〉にはカブよりも多く、ダイコンが使用されていることがわかり、謝罪の電話を寄越したのです。
クレーム処理に慣れ、流暢に事情を説明しながら一方的に話し続ける北里。
話がひと段落ついたところで、清美は何故、藤木が直接電話をかけてこないのかと問いただします。
納得のいかない清美に、『では返金するので、銀行口座を教えて下さい』と面倒くささが漏れながら語り掛ける北里に、清美はさらに腹立たしくなります。
そして、返金も謝罪もいらないので、正真正銘の〈カブとセロリの塩昆布サラダ〉を藤木と北里が家まで届けて来るよう言います。
五十分後、マンションのインターフォンが鳴りました。
そこには俯いた二十代半ばの男性と、五十代の女性が袋を抱えて立っていました。
女性が先ほどの電話のように謝罪の匠さながら詫び続けるのを制止して、サラダを受け取る清美。
北里はもう用は済んだとばかりに踵を返そうとしますが、藤木は俯いたまま動きません。
そして、口を開きます。
一切れ目に食べたのはカブだったけど、二切れ目、三切れ目、四切れ目に食べたのはダイコンだったと。
そして『疑って、すみませんでした』と清美に頭を下げます。
孤軍奮闘が報われるのを感じながら、清美は『二切れ目も食べてくれて、ありがとう』と声をかけます。
夜中に帰宅した夫を迎えた清美は、新宿で発砲事件があったことを知ります。
犯人が捕まったと報道されている映像を見て、清美はその男が、新宿の地下街で体当たりしてきた男だと気が付きます。
歯車が違えば、どうなっていたことか……と神妙な気持ちになった清美は、もうデパ地下には頼らず、明日からまたオール手作りで食卓を賑わそうと決意を新たにするのでした。
出会いなおし を読んだ読書感想
6編の短編が収録されている『出会いなおし』。
今回は主婦のデパ地下サラダ論争をめぐる『カブとセロリの塩昆布サラダ』をご紹介しました。
何気ない主婦の日常の話からはじまる本作は、カブとダイコンの食品偽装疑惑から話が大きく展開していきます。
清美をクレーマーだと決めつけ、不誠実な対応をする藤木と北里に腹立たしさを覚えるものの、最後は、忙しさに忙殺され、自分でも気がつかないうちに嫌な人間になってしまっていた藤木の再起と、信条を持って主婦をやっていた清美が、歳月が経つうちになあなあになってきた自分を戒める着地で、読んだ後、自分にも喝を入れたくなる、そんな作品です。
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