【ネタバレ有り】変身 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:東野圭吾 1993年6月に講談社から出版
変身の主要登場人物
成瀬純一(なるせじゅんいち)
本作の主人公。事件に巻き込まれ脳を損傷するが、移植手術により命を取り留める。
葉村恵(はむらめぐみ)
純一の彼女。画材屋の店員をしている。
堂元(どうげん)
東和大学教授。脳移植手術を成功させた。
京極瞬介(きょうごくしゅんすけ)
拳銃を持って強盗に入った男。追い詰められた末に自殺した。
変身 の簡単なあらすじ
成瀬純一は脳の一部に致命的な損傷を受けたが、世界初の成人脳移植手術が行われ、命を救われる。順調に回復する純一だが、手術以前とは自分の性格、趣味嗜好が変わっていくことに苦しむ。原因を探ろうとドナーの正体を突き止めるが、自分の意識が変わっていくのを止めることが出来ない。自分ではない者の衝動に動かされ、自らの大事な人を傷つけてしまいそうになった時、純一は自分が自分である内に大きな決断を下す。
変身 の起承転結
【起】変身 のあらすじ①
成瀬純一は大人しく勤勉な性格で、絵を趣味にしています。
ある日、引っ越しをしようと不動産屋を訪れていた際、拳銃を持った強盗が押し入ってきて事件に巻き込まれ、撃たれそうになった少女を助けようとして頭部に銃弾を受けてしまいます。
次に目覚めた時はベッドの上でした。
堂元という教授のもと、多くの研究者に見守られた大規模な手術が行われ、厳戒態勢で長い入院生活を送ります。
平凡なサラリーマンである自分に払えるのか入院費を気にしますが、今は秘密だがある人物からの援助を受けており、費用は気にしなくていいと告げられます。
面会が認められ、彼女である葉村恵がやってきます。
絵が趣味だった純一が画材屋に行ったときに出会ったそばかすが特徴的な純朴な女性でした。
無事を喜びスケッチブックを差し入れてくれました。
ある日、純一が夜中にうなされて目を覚ますと、今まであまり飲んだこともなく好きでもなかった缶コーヒーが飲みたいと感じます。
さらに鏡をのぞき込むと見たことのない人物が映っていると驚きますが、よく見れば自分の顔でした。
缶コーヒーをもとめ病院内を探索している時に、自分の名前と思わしきイニシャルJNと書かれた脳の一部が保管されているのを見つけてしまいます。
翌日、堂元教授に呼び出され手術の全容を知らされます。
脳を拳銃で撃ち抜かれ、植物人間化すると見られていた純一だが、奇跡的に適合するドナーが見つかり、世界初の成人脳移植手術が行われ無事成功したのです。
趣味が絵だった純一は入院中に差し入れられたスケッチブックに絵を描いていたのですが、堂元教授はその絵の画風が少しずつ変わっているのに気づきます。
純一に起こっている変化に戸惑いますが、脳機能には完全に治癒しているのは間違いなく、追加調査の必要を認めながらも純一は退院することになります。
【承】変身 のあらすじ②
退院の日、弁護士であるという上品な紳士が少女を連れてやってきました。
それは純一が強盗からかばった少女で、父親である嵯峨道彦は純一に恩を感じ、入院費を出していたのでした。
強盗は押し入った不動産屋の社長が認知もせず作った息子で、復讐としてやったのではないかとのことでした。
逃げた末に自分の胸を撃ち抜き、自殺していたことも聞かされます。
純一は彼女である恵とともに自宅に帰りますが、部屋の景色が初めて見るもののように感じてしまいます。
入院が長かったから感覚がおかしくなっているだけなんだと自分を納得させます。
しかしさらにその夜、恵の顔のそばかすを見て、そばかすなんかなければいいのにと以前は思わなかったような気持ちが頭に浮かんでくるのでした。
そんな純一の変化には恵も敏感に気づいており何か恐ろしいことが起こるのではないかと嫌な予感に震えます。
数日後、久しぶりに出社し元の職場に戻ります。
前は気にならなかった職場の無駄な部分、怠惰に働いている同僚にムカムカしてなりません。
退院祝いの席で酒に任せてその思いを伝えて、もめ事になってしまいます。
お前は変わってしまったと会社の同僚に告げられるのでした。
ある日、隣人の学生が親の仕送りでゲームばかりして怠惰に暮らしていること、しかし親に何の感謝もせずにいることを聞かされ、かっとして果物ナイフを手に学生の背中に迫ります。
たまたま電話が鳴って我に返りますが、自分はどうしてしまったのか、何者になってしまったのか苦悩します。
検査で大学を訪れた際、移植されたドナーの脳が何か影響を与えていないか堂元教授に訪ねます。
まずそんなことはありえないと告げられますが、納得いかない純一は教授が離席している隙にファイルを盗み見てドナーの身元をこっそりメモっていきます。
堂元教授は本人にはああ言ったものの、純一は明らかに変身途中であり、今後どうなって行くのか予測不可能であると考えます。
【転】変身 のあらすじ③
純一は大学関係者であると身分を偽ってドナーの父親に会いに行きます。
しかしドナーは元の自分に近いおとなしい人物で、今の自分に起こってる心理的変化とは一致しないことを知ります。
もし自分の中に目の前の男の息子の一部が入っていたら何か感じるものがあるのではないか、ドナーは本当は別の人物なのではないかという考えに至ります。
さらに暴力的になっていく純一を恐れ、彼女である恵も離れて行ってしまいます。
今の自分が彼女に愛情を持っていないことも確かであり、引き止めることができません。
今は堂元教授の助手として働いている橘直子に以前は感じなかった魅力を感じるようになっていました。
娘の命の恩人ということで、嵯峨道彦から食事の誘いを受けます。
橘直子を誘い、二人で嵯峨邸に招待されます。
嵯峨の娘がピアノを引くのを聞き、昔はさっぱりだった音楽的な感覚が自分に目覚めていることに気づきます。
そして世間話の中で、純一の頭を撃った銃撃犯である京極瞬介が、生前は音楽の道を志していたことを聞かされます。
純一はある一つの考えに到達し行動に移ります。
まずは理由は言わずに銃撃事件を担当していた刑事を訪ね、京極の家族の居場所を聞き出します。
彼の母は亡くなり、今は彼の双子の妹が居るとのことでした。
会いに行った時に直感的に目の前の女性が自分と関係のある人物だと確信します。
妹もどこかで会ったことがあるような不思議な感覚を純一に感じているようでした。
ドナーの正体を確信した純一は、大学を訪ね堂元教授に詰め寄ります。
どうしても脳移植を成功させたいお偉方が存在し、奇跡的に適合する京極の脳を使わざるを得なかったことを白状します。
今までの自分がなくなったとしても死ぬよりは良いのではないかという堂元の訴えに、純一は失望します。
【結】変身 のあらすじ④
純一は助手である直子と付き合うようになっていました。
しかし直子の行動から何か不審なものを感じ取った純一は、研究材料である自分に取り入っているのではないかという疑問に囚われてしまいます。
ある日、こっそり直子の行動を監視した純一は自分の想像が真実であったと知ります。
純一の感情は爆発し、直子を絞め殺してしまします。
純一はすべてが失われる前に自分にけじめをつけることに決め退職届を出します。
自宅に戻ると恵が戻ってきていました。
二人で逃避行のような生活をしていると突然、絵のインスピレーションが純一に訪れ、恵の裸体をモチーフに一心不乱に筆を走らせます。
そんな生活にも終わりが来ます。
京極である自分が恵を殺そうとしたのです。
しかしその時、心が大きく拒絶し純一であった頃の心が戻ってきます。
彼女を殺そうとした自分がこのままで居るわけにはいかないと考えた純一は、自分自身を取り戻すため大学に向かいます。
京極を取り去るには移植した脳の部分を取り去ってもらうしか無いと再手術を堂元に申し込みますが、そんなことをすると植物人間になってしまう、自分にはできないと断られてしまいます。
他の脳のスペアはないのかと尋ねると、奇跡的な確率で見つかったドナーのため、残念ながら他には存在しないと告げます。
その言葉に二度と移植が行われないと安心した純一は、拳銃で自分の脳を撃ち抜いたのでした。
純一の人生を狂わせた償いに、堂元は全力を尽くし命だけは救うことができました。
彼が最後に描いた何枚もの絵は話題性とともに高い評価を受け、その延命費に充てられました。
植物状態ながらしばらくの短い人生を、献身的に世話をする恵と共に過ごしました。
多くの絵は手放しましたが、恵は一枚だけ手元に残していました。
それは逃亡時最後に描かれた一枚で、しっかりとそばかすが描き込まれた葉村恵の姿が描かれていました。
変身 を読んだ読書感想
映画化、ドラマ化、漫画化までされている東野圭吾の初期の代表作。
脳移植によってドナーの性格に侵されていく人間の変化と苦しみを描いたサスペンス作品。
自分の意識が少しずつ別の人物に置き換わっていく感覚がありえない状況とはいえリアルに描かれていて、純一の苦悩や、恐ろしい行為に及んでいるのが自分だという恐怖が伝わってきます。
自分が自分でなくなっても生きていた方がいいのかというのは難しい問題ですが、変わってしまった自分がかつて大事にしていたものに害をなす存在となってしまうのはあまりに悲しいことだと思います。
救いがないようで少しの救いが存在する切ないラストが素晴らしいです。
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