【ネタバレ有り】神様のボート のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:江國香織 1999年7月に新潮社から出版
神様のボートの主要登場人物
野島葉子(のじま ようこ)
離婚を機に生まれ育った東京を離れ、以来十六年の間、一人娘の草子を連れてあちこち旅をしながら暮らしている。ピアノ教師とバーの飲み屋で生計を立て、女手一つで草子を育てている。
野島草子(のじま そうこ)
葉子の一人娘。聡明で物分かりが良い。赤ん坊の頃から葉子に連れられて引っ越しを繰り返す活を送る。不倫の末に授かった子で、父親の顔を知らない。
桃井(ももい)
葉子のかつての夫で、大学で葉子にピアノを教えていた。葉子と結婚する前にも結婚しており、再婚になる。葉子と別れる条件に、東京から出ていくことを要求する。
パパ(ぱぱ)
草子の父親で、葉子のかつての不倫相手にし、最愛の人。借金を抱えにっちもさっちもいかなくなる。必ず戻ると言って葉子のもとを去る。消息不明。
神様のボート の簡単なあらすじ
葉子と娘の草子は旅がらすです。かつて葉子は骨ごと溶けるような恋に落ち、不倫の末に草子が生まれました。必ず戻ると言って消えた「あの人」を探しながら、葉子と草子は母子仲良く暮らしてきました。『あの人がいない場所に馴染むわけにはいかない』と引っ越しを繰り返す葉子。幼いころは、父親に会えると信じていた草子でしたが成長するにつれて、葉子の妄信的な考えに違和感を持つようになり……。
神様のボート の起承転結
【起】神様のボート のあらすじ①
葉子と娘の草子は旅がらすです。
かつて葉子は骨ごと溶けるような激しい恋に落ち、草子が生まれました。
当時、葉子は別の人と結婚しており、相手も家庭がありました。
そのうえ、楽器屋を営む「あの人」は借金を抱えており、首が回らない状態でした。
結局、葉子は離婚をしてまだ赤ん坊の草子を連れて、東京を離れることになりました。
それが、ただ一つの離婚条件だったのです。
「あの人」は葉子に、『信じてほしい。
一瞬でも疑わないで。
俺は必ず葉子ちゃんを探しだす。
どこにいても。
すこしのあいだ離れなくなくちゃならないけど、どこにいても一緒だし、かならず戻ってくる。
すぐに』と言い残し忽然と消えてしまいました。
葉子はこの日のことをありありと覚えています。
そして約束を必ず果たしてくれると信じています。
幼い草子に、いかに父親が情熱的で素敵な人だったか、いかに自分たちが愛し合って、どのように草子が生まれたのかを話して聞かせ、いつか必ず自分たちを探し出してくれるから、その日を「神様のボート」に乗って待っていようと言いました。
そして「あの人」に会うまでは、馴染むわけにはいかないと、葉子は行く当てもなく引っ越しを繰り返しています。
葉子は、昼間はピアノ教師、夜は飲み屋で働いて生計を立てています。
実家に頼らず、元夫にも頼らず女手一つで草子を育てながら、消えてしまった「あの人」を探し続けています。
【承】神様のボート のあらすじ②
草子は幼いときから一人で過ごすことが多かった為、年齢より大人びてしっかりした子供でした。
夜も働きに出ている葉子に文句を言ったこともありませんでしたが、引っ越しばかりで、せっかく仲良くなっても、いつかは友達とお別れしなくてはならないことは不満でした。
そんな草子に、葉子は決まって『わたしたちは旅がらすなのよ 』と言って話しました。
パパに会うまでの辛抱だとも。
草子の誕生日は決まって写真を撮りました。
いつか再会した「あの人」に草子の成長を見せれるようにと。
パパと行った旅行の話を草子に聞かせますが、小学校高学年になった草子は、その話は空想だということに薄々気が付いています。
ロマンティストな母親と違い、草子はリアリストに成長していました。
そして、引っ越しばかりの生活に疑問が生じてきます。
【転】神様のボート のあらすじ③
草子の中学校入学を前に、葉子はまた引っ越しを決めます。
幼いときは、ママさえいればどこでも楽しくやっていけた草子でしたが、近頃は、引っ越しばかりの生活にうんざりしてきます。
母親のことは変わらず大好きで、愛情も感じていますが、妄信的に父親のことを探している姿に違和感を覚えるようになります。
それでも新しく住み始めた逗子はなかなか快適で、入部した美術部も居心地が良く、順調な中学校生活を送ります。
すっかり大人っぽくなった娘に、葉子は『家出したくなったら、連絡さえくれればしてもいいのよ』と声をかけます。
自分がかつてそうだったように。
草子は『考えとく』とだけ言います。
休みの日は二人で散歩し、ピアノ教室は盛況で、バーのマスター夫妻も感じが良く、逗子の居心地が良くなってくればくるほど、葉子は早くここから出ていかなければと感じるようになります。
その気配を察知した草子は、中学を卒業するまで引っ越しはしたくないと真剣に訴えます。
了承した葉子でしたが、いずれは逗子から出てい行く気なのは変わりません。
そして、夏が過ぎ、十一月になり、草子から高校は寮がある学校に進学したいと打ち明けられます。
突然の申し出に動揺を隠せない葉子。
頭ごなしに反対する葉子に、草子は自分は現実を生きたいと顔を歪めて泣き出してしまいます。
何を言われているのかさっぱりわからない葉子に、草子は小さな声で謝ります。
『なにをあやまるの?』と問いかける葉子に、『ママの世界にずっと住んでいられなくてごめんなさい。
』と泣きじゃくりながら謝るのでした。
【結】神様のボート のあらすじ④
寮を反対し、学費も進学手続きも払わないと突っぱねた葉子でしたが、草子が近い将来、自分の元を離れてしまうことは覚悟していました。
草子は進学を希望している高校は偏差値が高いので、学校から帰ると勉強して過ごしました。
葉子は根詰めて勉強する草子にどうにか休憩をとらせたがりました。
草子は、母が幼いときのように絵や読書に没頭していて欲しいのだとわかっていましたが、勉強することはやめませんでした。
険悪な雰囲気は、葉子の寮承諾によって解消されたかに思われました。
草子は高校に合格し、予定通り寮に入りました。
家を出る日、自分で決めたことながら、草子は悲しくてたまりませんでした。
自分がママの意見に耳を貸さなかったのも、ママが意見も曲げたのも、初めてのことでした。
逗子を離れようと考えていた葉子でしたが、草子が出て行ってから気力が湧きません。
逗子に来てから勤めていたバーを辞め、ピアノ教師も身が入りません。
何も考えたくない葉子は食べることも眠ることもせず、ひたすらピアノを弾いて過ごしました。
やつれていく母が心配な草子。
そして夏休み前に、葉子から手紙が届きます。
そこには夏休み、東京にいるおじいちゃんとおばあちゃんの家を訪ねるようにと書かれていました。
用事を済ませたら迎えに行くとあり、草子は初めておじいちゃんとおばあちゃんと対面します。
その頃葉子は、別れた元旦那の桃井先生の家を訪ねていました。
東京に帰ってくる許しを得る為です。
桃井先生と言葉を交わし、家を後にする間際、「あの人」が十年以上前に訪ねてきたことを知らされます。
草子を迎えに行き、残りの夏休みは逗子の家で二人で過ごしました。
そして、新学期が始まると草子は戻って行きました。
葉子は近頃、死について考えます。
そして現実とも夢ともわからないぼんやりとした時間を過ごします。
そこには「あの人」がいて、骨が溶けるほど愛し合います。
神様のボート を読んだ読書感想
愛に生きようとする母親と、その傍らで成長していく娘の物語が、淡々としたテンポで紡がれていく『神様のボート』は、愛に満ちていながら、もの悲しい作品です。
ロマンティストな母親とは対照的にリアリストに成長していく娘・草子。
草子が見る世界が成長するにつれて客観性を持って行くのに対し、母親の葉子はいつまで経っても変わらない世界で生きています。
草子から突き付けられる現実という刃にまいってしまう葉子が痛々しく、母を傷つけてしまうとわかっていても止められない草子の優しさも胸に痛いです。
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