【ネタバレ有り】ヰタ・セクスアリス のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:森鴎外 1993年6月に新潮社から出版
ヰタ・セクスアリスの主要登場人物
金井湛(かねいしずか)
主人公。中国地方出身。大学卒業後に哲学者となる。
東(あずま)
金井の父の先輩。外国帰りで現在は神田小川町在住。
鰐口弦(わにぐちゆずる)
金井のルームメイト。軟派。
古賀鵠介(こがこくすけ)
金井のルームメイト。硬派。大学を出た後に役人になる。
児島十二郎(こじまじゅうにろう)
古賀の親友。軟派。卒業後に大阪で就職。
ヰタ・セクスアリス の簡単なあらすじ
金井湛は旧大名によって支配されていた中国地方の城下町で生まれ育って、父親の転勤に伴い東京の学校へ進学します。幼い頃に垣間見た大人の世界への憧れは人一倍でしたが、今一歩踏み込んでいくことができません。大好きな読書に明け暮れたり個性的な友人との交流を通して、金井は肉体的にも精神的にも成長を遂げていくのでした。
ヰタ・セクスアリス の起承転結
【起】ヰタ・セクスアリス のあらすじ①
金井湛が初めて女性の裸体が描かれた本を見たのは6歳の時で、場所は中国地方の小さな城下町です。
父親は仕事の都合で東京に行っているために、母親と2人暮らしを送っていました。
習い事を終えて屋敷町の西隣にある空き地で独りで遊んでいると、小原という夫を亡くした40歳ばかりの女性とその娘が絵草紙を見せてくれます。
男女が絡み合った姿が意味するものは理解できないものの、金井は異様な不快感に包まれてこの出来事を母親に打ち明けることはありません。
父が金井を東京の向島のお屋敷に呼び寄せたのは、11歳になって学校に通う年になった頃です。
父は息子に鉱山学を学ばせるために、本郷にあるドイツ語を教える私立学校を見つけてきました。
向島からは遠くで通うことができないために、神田の小川町に住んでいる父の知人の東という先生の家に下宿させてもらいます。
寄宿舎では男色の相手をさせられている少年がいて、金井も上級生に捕まりそうになったことが幾度となくありました。
父に相談してみたところよくあることで、人生のうちで嘗めなければならない辛酸の1つだそうです。
【承】ヰタ・セクスアリス のあらすじ②
13歳になると今まで学んでいたドイツ語を辞めて、東京英語学校に入学しました。
寄宿舎住まいとなった金井は、生徒が硬派と軟派のふたつの派閥に対立していることに気が付きます。
軟派は東北地方や中国地方から出て来たものが多く金井が6歳の時に見たような春画をコッソリと見るようなグループ、硬派は九州出身者が多く余計な本や絵などには見向きもしないグループ。
金井は色が黒くて体つきが武骨な田舎育ちでしたが、どういう訳か硬派の生徒たちに目をつけられてばかりです。
寄宿舎では2階の部屋を割り当てられて、同室者は幸いにして軟派の鰐口弦でした。
鰐口は学業の方は平凡でしたが、上級生であろうと教師であろうと屈することはありません。
鰐口と同じ部屋に居る限りは、金井も安心して好きな本を読んだり絵を見たりすることができました。
年末の試験では生徒が次々と淘汰されていき、多くの軟派が退学処分を受けます。
部屋割りも変わって、金井の新しい同室者は硬派の古賀鵠介です。
【転】ヰタ・セクスアリス のあらすじ③
古賀の部屋に恐々と引っ越しをすると、思いのほか彼は笑顔で出迎えてくれたために悪い人には見せません。
神保町の古本屋街へ散歩に誘ってくれたり、両国でウナギを奢ってくれたりしました。
古賀の友人・児島十二郎も、しばしばふたりの部屋に遊びに来ます。
お酒が大好きでガサツな古賀とは対照的に、青みがかった上品な顔立ちで有名な洋学者の12番目の子供だそうです。
次第に古賀と親しくなっていき、古賀を通じて児島とも打ち解けていきました。
3人の間には「三角同盟」が成立して、毎晩のように浅草の寄席を見に行きます。
時には吉原の遊郭まで足を運ぶこともありましたが、金井と児島にはいまだに女性との経験がありません。
19歳で大学を卒業した金井は両親の住む小菅の官舎へ、古賀は結婚して妻の実家へ、児島は就職先の本社がある大阪へ。
仲間たちがそれぞれの道のりを歩んでいく中でも、金井は居候の身で昼間から四畳半に寝転んでは本を読んでばかりです。
【結】ヰタ・セクスアリス のあらすじ④
金井がついに異性との一線をこえたのは20歳になってからで、相手は三輪崎という詩人から紹介された吉原の遊女でした。
三輪崎に頼まれて「自由新聞」の文芸欄の連載を受け持っていた金井は、社主からのお礼という名目で神田明神の側にある料理屋に招かれます。
食事の後は両親と暮らしている小菅に帰るはずでしたが、人力車が向かったのは遊郭の入り口にそびえ立つ大門です。
誘われるままに見ず知らずの女性と一夜をともにした金井でしたが、断れなかった訳ではありません。
後に国費で海外に渡って高名な哲学者となった金井は、この夜を振り返ってみると確かに性欲が理性的な判断を上回っていました。
2回の結婚を経験して今年に高等学校を卒業する予定の息子には、父親のようにはなって欲しくありません。
金井は自らの若き日の思いつづった手記の表紙に、「ヰタ・セクスアリス(性的生活)」とタイトルを書き込んで誰にも読まれることのないように机の中に投げ込むのでした。
ヰタ・セクスアリス を読んだ読書感想
明治の後期に発表された途端に発禁処分となった本書ですが、21世紀になって読み返してみると思春期の青年の胸の内が丁寧に描かれていて感情移入できました。
6歳で春画を見たおませな少年ながらも自らの理想が高過ぎてなかなか一線をこえることができない主人公の金井湛は、今の時代で言えば草食系男子と言えるのでしょうか。
初めて足を踏み入れた寄宿舎での手荒い歓迎や、ボーイズラブめいた出来事まで仄めかされていてユーモラスです。
破天荒な古賀鵠介と上品な児島十二郎と過ごす、10代最後の青春には心温まるものがあります。
吉原のお歯黒川を人力車に乗って渡るシーンには、純真な少年時代が終わる一抹の寂しさを感じました。
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