「チア男子!!」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|朝井リョウ

チア男子!!(朝井リョウ)

【ネタバレ有り】チア男子!! のあらすじを起承転結でネタバレ解説!

著者:朝井リョウ 2013年2月に集英社文庫から出版

チア男子!!の主要登場人物

晴希(はるき)通称;ハル
命志院大学社会学部1年生。道場の長男として育ち、姉の晴子の初試合を観て柔道を始め続けていましたが、ケガをしたことと自分の限界を悟り、引退。同時期に柔道を辞めた幼なじみの一馬に誘われて、男子のチアリーディングチームを結成します。

一馬(かずま)通称;カズ
同大学社会学部1年生。晴希の幼なじみ。幼い頃に事故で両親を亡くしており祖母と二人暮らしでしたが、その祖母も高校1年生の冬に倒れて入院したため、それからずっと風呂なしアパートで一人で暮らしています。

晴子(はるこ)
晴希の姉。柔道の名選手で、高校ではインターハイで準優勝し、スポーツ推薦で命志院大学に入学しました。先輩だらけの団体戦チームでも一番の活躍を見せる、坂東道場希望の星。

チア男子!! の簡単なあらすじ

柔道一家に生まれたが挫折をしてしまった晴希。そんな晴希を気遣いつつも家族の問題を心の奥に抱える一馬。チアリーティング経験者だが過去のある出来事からトラウマを抱えている翔。苦労知らずで素直すぎる性格が他人を遠ざけていたが徐々に変わっていく溝口。負けず嫌いの(特に親友のイチローに負けるのが嫌いな)弦。やれば何でも器用にできるのに何かに勝つことに全く執着しないイチロー。そんな個性的な面々が、時に衝突しながらもお互いを理解し合って、チアリーティング全国選手権というひとつの目標に向かっていく青春の物語です。

チア男子!! の起承転結

【起】チア男子!! のあらすじ①

晴希と一馬の間柄

晴希と一馬は、晴希の姉である晴子が出場している柔道の団体戦の試合を応援しにきていました。

晴子以外の団体戦のメンバーは全員先輩ですが、それでもチーム内で一番強く核になっているのは紛れもなく晴子でした。

試合が終わった後、晴希は姉の晴子に勝利の祝いと賛辞のことばを送りました。

晴子は照れ隠しからか、晴希の応援は立ったり座ったりするから気が散ったと言いつつ、応援が力になったと素直に感謝の気持ちを伝え、故障している晴希の肩は必ず治るから・・・と励ますのでした。

晴希と晴子の家は大学のそばにあり、大学も自宅も都内ではあったが都会らしさはなく、古びた商店街と飲み屋街があるような土地でした。

晴希はこの街が気に入っていました。

3階建ての1階は道場、2階はトレーニングジムとシャワールーム、3階が晴希たちの住まいとなっており、どちらかどういうと道場とジムに家がくっついているというような佇まいでした。

道場は普段から近隣のこどもたちが柔道を習いに来たり、晴子が所属する命志院大学柔道部の活動拠点にもなっていました。

試合を勝利で終えて自宅に帰った晴子を、両親は手離しで喜び褒め称え、その雰囲気の中に肩を故障している晴希はなんとなく居づらい気持ちを抱えていました。

屋上でひとり考えごとをしている晴希のところに幼なじみの一馬が現れます。

いつもこういうタイミングで現れてくれるのが一馬であり、ふたりは小さい頃からよいコンビなのでした。

そんな一馬に晴希は、ずっと抱えていた気持ちを打ち明けました。

「どうして俺はこんな柔道一家に生まれたのだろう」「俺は姉ちゃんみたいに強くなれない」と。

そんな晴希に対して一馬は、晴希の柔道には晴希の柔道なりのかっこよさがあるのだと語り、センチメンタルモードに入りかけた晴希を冗談で励ましてくれるのでした。

【承】チア男子!! のあらすじ②

男子チアリーティング部、始動

晴子は申し分のない成績で命志院大学のスポーツ推薦をもらって進学しており、インターハイ出場を果たした一馬もまたスポーツ推薦をもらってはいましたがそれを断り、一般受験で特待生枠を勝ち取りました。

一方、高校時代にこれといった実績のない自分もスポーツ推薦をもらえたことについて、晴希は自分の実力ではなく実家の力による部分が大きいのではないかと感じ、大学に入ってから柔道をしているあいだもその思いは晴希の心を縛り上げていました。

そんなある日、晴希のその後の学生生活を大きく変えるきっかけとなる出来事が起こります。

それは大学に入って初めての練習試合でのことでした。

対戦相手にかけられた技をよけきれずに背中から畳に叩きつけられた晴希の右肩の上には、対戦相手が乗っかった状態でした。

一馬が応急処置をしてくれてケガ自体は順調に快復していきましたが、実力で手にしたわけではない推薦という優遇を受けた罰なのだと晴希は感じ、柔道を辞めると決意するに十分なきっかけとなったのです。

柔道部の顧問と約束を取り付けた時間になり、晴希がスポーツ化学研究室を訪れドアを開けようとした瞬間、研究室の中から一馬が現れました。

なにをしているのかと晴希が問うと一馬ははぐらかして去ってしまいますが、一馬もまた柔道部を辞めるという決意を伝えにきていたことを顧問の話から知ります。

驚いた晴希は急ぎ足で一馬を追いかけ、一馬だけは柔道を続けるように説得します。

しかし一馬の決意は固く、「俺は晴希と新しいことを始める」と宣言したのでした。

一馬が人を集めて男子チアに挑戦するきっかけは彼の亡くなった両親の出逢いがチアリーティングであったことでしたが、最も大きな理由は別にあり、それはこの創部時点では誰にも明かされることはありませんでした。

【転】チア男子!! のあらすじ③

スタートライン

柔道部を辞めた晴希と一馬はふたり、いつものようにくだらない話をしながら一馬のアパートに向かっていました。

アパートに到着しふたりが一馬の部屋に入ろうとしたとき、1人の男性が後ろから声をかけてきました。

溝口渉と名乗ったその彼は、警戒した様子の晴希の表情を読み取ったのか早口でこの場所に居る理由を語り、黄色チラシに書かれていた言葉を3人は同時に口にしました。

「男子チア。」

チアとは「観客も選手も関係なく応援し、励まし、笑顔にする人」「そのために自らの努力を惜しまない人。」

それは一馬の母親が一馬に説明したリアリーダーの定義でしたが、その定義はそのまま柔道をしていたときの晴希の姿そのものだと一馬は考えたのでした。

一馬の思いを理解した晴希は「やる」と即決し、その後もさらにもう1人の応募者である遠野浩司を加え、まずは4人のメンバーで命志院大学男子リアリーティング部の幕が上がりました。

一馬が考えるスカウトの手段は、実におもしろいものでした。

大学の体育の体操の授業に潜り込んで体操経験者を探したり、テニスサークルの飲み会で参加者のカバンにメンバー募集のチラシをねじこんだり・・・そういった一馬の作戦が功を奏してなんとかメンバーが揃いました。

ヒマワリ食堂の店長がチーム名を冠したメニューを出してくれたり、周囲にも支えられながら学祭での初舞台を成功させることができました。

学祭では奇異な目で見る観客もいましたが概ね好意的な反応を得られ、この成功によって男子チアのメンバーは16名に増え、さらに女子チアのOGがコーチとして参加してくれることになり、次の目標であるチアリーティング全国選手権に向かうことになります。

こうして男子チアリーティングチーム「BREAKERS」が誕生しました。

【結】チア男子!! のあらすじ④

チアリーティングを続ける意味

16人にメンバーが増えたところでようやく全国選手権に出場する前準備が整い、メンバー達はスキルアップを目指して練習に励むことを決意しました。

男子ばかりのこのチームの課題は、筋力や身体能力に頼りすぎて技自体の習得に至っていないという部分にありました。

それを解決するにはまず基礎を固め、技に挑むのではなく完成度を高め、そのうえで「秘密兵器」が必要だとメンバーに告げました。

その「秘密兵器」となる技は、まさか自分たちが挑戦するはずもないとメンバーの誰もが思うような難易度の高い、しかも今までどこの男子チアも披露女性特有の技でした。

結果としてBREAKERSは予選を突破し本選に進みますが、その演技の出来はメンバーの誰しもが納得のできるものではありませんでした。

晴希は中途半端に距離を置いてしまった家族、とりわけ柔道を続けている姉との関係に悩み、それ以外のメンバーでも就活と練習時間とのバランスに苦労している者もおり、さらにチームの中心である一馬は入院中の祖母のことを心に抱え、練習を無断欠席するようになってしまいました。

一馬の祖母の症状は重く、すでに笑顔は失われ、孫である一馬の顔を認識することもできない様子なのでした。

一馬は見舞いに訪れたメンバー達に、なぜ自分がチアを始めようと思ったのか、本当のところを打ち明け、チアを辞めると言い出します。

しかしメンバー達はそれを許さず、これまで中心となって支えてくれた一馬を、これからはチームとして支えていく決意を伝えます。

本選に向けて練習にも指導にも熱が入るがゆえに衝突もありましたが、コーチからの提案で各個人がつけていた練習ノートを回し読みすることで、それぞれが心の内に秘めていた不安や決意などを共有したBREAKERSは強固な絆を得ることができました。

かつて彼らの演技は他チームから見ていて危なかしく「サーカス」のようだと揶揄されたこともあったが、信頼関係や感謝や恩返しの気持ちを込めた彼らの演技は紛れもなく「チアリーティング」として成立したのでした。

チア男子!! を読んだ読書感想

読み始めた頃は、よくある青春物語?と思っていたのですが、読み進めていくうちに登場人物それぞれがとても人間臭くてリアルで、引き込まれていきました。

明るく振舞っている人が実は心に辛いものを抱えていたり、他人に対する嫉妬や羨望といった感情をうまく消化できなかったり。

おそらく読み手の大方の方は登場人物の誰かしらに共感し、自分自身を投影できるのではないかと思います。

そんな彼らが、時に自分自身の力で成長していく姿、時に仲間を支え仲間に支えられて信頼関係を築いていく姿に、まっすぐなものを感じて励まされる気持ちでした。

当たり前のようで日々の生活の中で忘れがちな、そばに居る人達への感謝の気持ちや、ひたむきに何かに一生懸命取り組む心を思い出させてくれる、読んだ後に元気が湧いてくるような作品でした。

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