「さらさら流る」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|柚木麻子

さらさら流る(柚木麻子)

【ネタバレ有り】さらさら流る のあらすじを起承転結でネタバレ解説!

著者:柚木麻子 2017年8月に双葉社から出版

さらさら流るの主要登場人物

井出菫(いですみれ)
28歳。自分が22歳当時彼氏に撮られた裸の写真がネットにアップされていることに気がつく。

垂井光晴(たるいひみつはる)
流出した菫の写真を持っている元カレ。家庭が複雑。

野島百合(のじまゆり)
高校時代からの親友。菫の家族とも交流がある。現在は母校である女子校の教師をしている。

さらさら流る の簡単なあらすじ

菫は自分の昔の彼氏が撮った裸の画像がアップされているのに気がつきます。今は連絡もとっていない恋人がいつどうしてそんなことをしたのか疑問に思う菫。と、同時に菫は、自分の画像が自分の知らないところで存在し、全く知らない人たちに見られていることに恐怖を感じます。また自分を責める気持ちと、過去を否定したくなるような気持ちで苦しむのでした。

さらさら流る の起承転結

【起】さらさら流る のあらすじ①

過去の写真

垂井光晴は菫にとって初めての恋人でした。

大学生になってまだ間もない頃、サークルの飲み会の帰り道を二人で歩いたことがきっかけです。

埼玉に実家のある光晴は再婚した母と、腹違いの弟がおり、家庭があまりうまく行っていないことをぽつぽつと話してくれました。

暖かく自由で健やかな家庭で育った菫には、光晴の持つ屈折と物悲しい感じがとても魅力的に移りました。

大学に入って、菫は「女の子」としての役割を暗に求められるようになったことに気がついていましいた。

自分は自分でいたいのに、そうはいさせてはくれない社会の空気が菫の前にあったのです。

光晴と一緒にいると、菫はそういう空気を忘れて、自分が自分でいていいと思えたのでした。

ちょっと変わっているけれど自分を尊重してくれる両親、そして同じ両親から血を分け与えられた弟に囲まれ育った菫。

光晴は、その大事な家族のようにずっとそばにいてくれていると思っていました。

その頃から何年もたち、菫は28歳になっていました。

新卒で入社したコーヒーチェーンを経営する会社の広報部で働く菫。

会社のポスターに起用する予定のモデルのいかがわしい昔の写真が流出していると噂があったため、菫はネットでその画像を調べていました。

公の場では見るのをためらうようなサイトに載ってしまったその写真は、問題があると思うような過激なものではなく高校生時代の彼女が友人たちと水着ではしゃいでいるものでした。

何の問題もなかったと報告しようと思った菫は、そこである画像を見つけてしまいます。

かつての自分が断ることができなかった菫の裸体の写真がそこにはありました。

光晴に請われて撮った22歳の自分の写真でした。

【承】さらさら流る のあらすじ②

整理のつかない苦しみ

写真を撮った直後光晴とは別れました。

お互い社会人になり余裕のなくなってきた光晴は、菫にも他人にもひどく当たり散らすようになっていたのです。

菫は写真のことを、日常生活を普通に送ることで大したことがないとやり過ごそうとしていました。

しかしふとした瞬間に、光晴への怒りとあの写真がどれだけの人にみられているのかという恐怖、みんな知っているのではないかという不安で気持ちが落ち着きません。

別れる間際は酷かったけれど、光晴とのことは菫の大事な日々でもありました。

菫の家族たちもそうなるだろうと思っていたぐらい、家族同然でもあった光晴。

だからこそ写真を撮ることを承諾してしまったのです。

写真を撮った後、やっぱり消してほしいと後悔した菫をめんどくさそうに扱い写真は消したといった光晴。

その後、酒癖の良くなかった光晴と大喧嘩をし、なにもかも恵まれてる菫にはわからないと言い捨てられ二人は終わりました。

どうすることもできない菫でしたが、地元が同じ親友の百合に再会します。

百合は菫が光晴が付き合っていた頃から、彼が好きではありませんでした。

別れた時も光晴が複雑な家庭で育ったため、彼はねじくれていたと言っていました。

誰かに話を聞いて欲しい気持ちはありましたが、正直に話すエネルギーはありませんでした。

しかし百合は菫の様子を見抜き、話を聞き出します。

現在母校の美術教をしている百合は、学校関係で知り合った弁護士に削除依頼をし、光晴を訴えようと言うのでした。

菫は心の整理がついていませんでした。

ネットにあげた光晴への怒りはありますが、あんな写真を撮らせてしまった自分にも腹が立っていたのです。

しかし百合は菫を責めず、家族に話して受け止めてもらった方が良いと言うのでした。

菫は家族に写真のことと百合と相談したことを話します。

菫の家族は菫を暖かく受け止めてくれたのでした。

【転】さらさら流る のあらすじ③

自己憐憫の男

光晴は会社をやめ、今は契約社員として塾講師をしていました。

実家とは結局疎遠でわかりあえないまま距離を置いています。

光晴は虚しくなると、いつもまじめに自分と向き合ってくれた菫と、それから自分の家庭とは全く違った彼女の家族を思い出すのでした。

尊重されて個々が生きているとわかる菫の家庭は光晴には衝撃でした。

そんなある日、菫の父親がわざわざ会いにきます。

菫の写真を拡散しただろう、と怒っていました。

写真は消したふりをして未だに持っていました。

けれども、ネットにアップした覚えはありませんでした。

光晴は大変なことになってしまったショックを受けました。

当時の光晴は菫とは別れたくなかったのです。

菫の家族も大好きで、彼らの家族になりたいと強く願っていました。

しかし菫は光晴の元から去ってしまったのです。

どうしてこんなことになったか確認すると菫の父親には言いました。

同様の件で百合も会いに来ました。

百合に罵られ、自分の甘さを実感する光晴。

光晴が謝るものの百合は冷たく「いつも自分のことしか考えていない」と言われ、家庭環境が複雑でと口にする光晴の自己憐憫を激しく批判するのでした。

光晴は菫にかわいそうなことをしてしまったと後悔するのでした。

弁護士に相談したことで現実のことと突きつけられた菫は苦しんでいました。

自分がしっかりしていれば写真を撮ることを承諾しなかったのにと自分を責めていたのです。

菫は気持ちに折り合いをつけることができませんでした。

【結】さらさら流る のあらすじ④

戻らない日々

光晴はどうして流出したか突き止めたいと思っていました。

酔っ払った時に、誰かが悪意があったかどうかわかりませんが流出させたと考えるので筋でしょう。

また百合が調べてくれた流出の時期を考えると塾講師を始めてからのことでした。

なりふり構っていられず、塾の同僚たちに事情を話す光晴。

酒乱の気がある光晴は寄っている時のことをいつも覚えていません。

周囲から掛けられる言葉に自分を棚に上げて、嫌悪感を抱く光晴。

自分が写真を撮ったことが悪いとわかっていながら、それを納得できません。

調べた結果、同僚たちとよく飲みに行く個人経営の店の店主が軽い気持ちで光晴のスマホから画像を取り、ネットにアップしたことがわかりました。

その飲み屋は光晴の生徒の親の店でした。

生徒は、酔っ払った光晴が写真をみんなに見せて周り、同様に酔っ払った父親が軽い気持ちでネットにアップしているのを見ていました。

怒る光晴に対して、相手にどれだけ酷いことをしてやったか酔っ払って自慢していたくせに、と生徒に言われてしまいます。

流出先がわかり、弁護士と生徒の父親、光晴共に話し合いが終わります。

光晴は職場を辞めました。

一方菫は百合に以前から頼まれていた裸婦画のモデルになることを決めました。

心配する百合に、自分で選択して服を脱ぐことで自分の裸を自分の物だと実感したいと言う菫。

不安もありましたが、菫は気持ちの整理がつきました。

そんな百合の絵は賞を取ります。

光晴はその絵を見に行きます。

ずっと菫にかわいそうなことをした、と思い続けていました。

しかしその絵を見て、自分は菫のことをずっと弱くてちいさな生き物だと思っていたのだと思いました。

菫は強くて、自分が弱かったのだ、と光晴は気がつくのでした。

さらさら流る を読んだ読書感想

社会と女性の個に対するテーマの多い筆者。

この作品も根底にあるのは、女性の個を重視する価値観です。

素晴らしい家庭に育った菫は、大学生になり、はじめて女性としてのあり方を要求されていることに気がつきます。

蓄積されたその社会から受けてきた価値観は、菫が自分の写真が流出していることに気がついた時に出てしまうのです。

個を尊重された家庭で育ったにもかかわらず、社会の女性の隙を糾弾する思想が彼女の中にも内在していたことに気がつきます。

それでも家族、親友に支えられ、自分を責めることや、相手を憎むでもない結末を迎えます。

この作品は対比をすることで個を重視しています。

素晴らしい家庭に育った菫、そして難しい家庭に育った光晴。

男女や自分と他人、人間は一人で生きられない中で、他人と関わらないで入られません。

そうすれば問題は発生します。

問題を相手に見出すのではなく、自分自身の中にある個を見ることで、克服していく形をとっています。

光晴は作中で、問題を克服することはできませんでしたが、最後の最後、それに気がついた片鱗を見せています。

相手を許す、ということよりも、自分との折り合いを見出すのです。

相手は変わりませんし、問題をなかったことにもできません。

けれども憎み続ければ、それは相手への執着になってしまうのでしょう。

そう簡単ではないですが、個として生きるという姿が描かれています。

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