【ネタバレ有り】百年法 上巻のあらすじを起承転結で解説!
著者:山田宗樹 2015年3月に株式会社KADOKAWAから出版
百年法 上巻の簡単なあらすじ
人類が不老処置を受け始めてから数十年。日本協和国は国力でアメリカや韓国に太刀打ちできなくなっていた。そのため政府は諸外国で実施されている「不老処置を受けてから百年後には死ななければならない」という法律、通称百年法を施行しようとしている。内務省の官僚達は法案の成立に向け奔走していた。
蘭子は偶然街で友人の娘・由基美と出会う。蘭子や由基美と違い、友人は不老処置を受けず、老衰で死去しているという。生命に期限をつける法案に国民感情は揺れていた。国民投票の結果、百年法は凍結される。それから30年、蘭子は見直された百年法の施行対象者となっていた。蘭子の息子ケンはなんとか母を生かそうとするが、母本人と、今や母の親友である由基美に止められる。その中で、ケンは自身の父が戦後の爆弾テロ「阿那谷事件」の冤罪犯であり、阿那谷という現状を打破する英雄のようなテロリストなど実在しないのだと知る。
それから更に20年。百年法の拒否者が山野に違法な村を作るようになっていた。政府は摘発を進めるが阿那谷を名乗る指導者のもと拒否者村は勢力を拡大し社会問題となっている。同時に、SMOCという病の蔓延も問題として持ち上がった。
かつて百年法の成立に尽力していた官僚・遊佐は、牛島大統領の元で首相となり独裁政権をしいている。遊佐に担ぎ上げられて絶対的強権を得た牛島は、既に遊佐と距離を置き始めた。しかし、遊佐も百年法の対象となるのに近づき、他のどんな問題よりも優先して、大統領特例を得て生き延びようとするのだった。
百年法 上の起承転結
【起】百年法 上巻のあらすじ①
戦後アメリカ主導で不老処置HAVIが一般化した2048年の日本協和国。アメリカや韓国などの諸外国に追いつくべく、内務省官僚達は生存制限法、通称百年法施行のために尽力していた。特攻隊の生き残りで内務省次官の笹原は百年法初年度適用者だが、部下の遊佐らと共に百年法のために力を尽くし、若い世代に未来を託そうと奮闘している。
百年法とは「HAVI処置後百年で死なねばならない」というもの。海外では同様の法律が既に施行されているが、日本では反対意見が根強く政府も踏み切れないでいた。また、政財界にも即百年法適用者が多く、それも施行の壁となる。
【承】百年法 上巻のあらすじ②
HAVI処置済みの蘭子は、街で偶然親友の娘・由基美と出会う。そこで蘭子は、由基美の母・美奈がHAVIを拒み老衰で死去していたと知る。未来への不安を抱える蘭子は、由基美に縋り付き、そこから親交を持つようになる。
刑事の戸毛は百年法初年度適用者だ。生き延びるため、過去のテロ事件「阿那谷事件」で有罪を受けた木場の元を訪れる。戸毛はテロリスト阿那谷を信仰する地下組織があり、そこで偽造IDを入手すれば百年法を逃れられると信じていた。事件の概要を知るだけでテロと無関係の木場は、戸毛を拒絶する。諦められない戸毛は、システムに精通する元官僚を探し始める。
蘭子の職場にも初年度適用者篠山がいた。施行に向け情緒不安定になる篠山がトラブルを起こす。騒ぎの中、蘭子は貴世と友人になる。
百年法の先行きを案じた笹原は、世に一石を投じるためメッセージを残して自決する。部下達は彼の遺志を引き継ぎ、笹原のメッセージ動画と、M文書と呼ばれる元内務省官僚が記した、不老不死社会の弊害を予測したレポートを公開する。しかし、国民投票で百年法は凍結すると決まるのだった。
【転】百年法 上巻のあらすじ③
約30年後、百年法は機能していた。蘭子の息子ケンは、寿命の迫る母を生かすため阿那谷の組織から偽造IDを入手しようとする。しかし母と由基美の猛反対で考えを改める。
安楽死を前にした蘭子は、ケンの生後間もなく安楽死した父のことを伝える。ケンの父は木場だった。だからこそ蘭子はケンに「阿那谷を名乗る偽者を信じるな」と伝えてから、死に向かう。阿那谷とは、木場の戦友で、海外のゲリラ指導者アルナータに憧れた秋水が、平和ボケした日本人に死を実感させるため作り上げたテロ組織のカリスマという偶像的人物だった。その秋水は、阿那谷としてとっくに絞首刑になっている。
更に20年後、阿那谷の名の元に集う百年法拒否者の村が社会的問題となっていた。取り締まる政府のトップは絶対的強権を持つ牛島大統領。そして百年法創設に携わった元内務省官僚・遊佐首相だった。
一方病院勤めの医師加藤医師はSMOC患者の異常増加に疑問を持ち、原因の究明に乗り出そうとしていた。
【結】百年法 上巻のあらすじ④
百年法を逃れるには莫大な額の金を払うか大統領特例の対象となるしかない。そのため、牛島は独裁者となり、結果、自分を操ろうとする遊佐に嫌気が差し遠ざけていた。
百年法適用対象となる日を間近に控え、遊佐はただ延命することだけを望んでいた。かつての意気込みを無くした遊佐を責める元部下の言葉にも耳を貸さず、遊佐は牛島の手の上で踊り、延命許可の特例を受けるのだった。
百年法 上巻を読んだ読書感想
パラレル日本が戦後アメリカ主導のもと不老社会となります。その社会で生きる人間の様子を、為政者側と、庶民の側両面から見た様子が三章に渡り細かに表現されています。
既刊の単行本を上下に分け文庫化した作品のため、この上巻は人物や事態の説明が主です。下巻に向け、数多の伏線が着々と張られていきます。百年法施行のために自決する元特攻隊員の次官、百年法の施行を恐れなんとか逃れようとする警官、母の死を看取り百年法に疑問を覚える青年や、その青年を見守る女性など、上巻の中でさえ、人間の考え方が変容していくための伏線となっています。そして、それらの伏線が大きな流れとなってどこへ向かっていくのか、気になって読み進めずにはいられない作品です。
死に際し、「死にたくない」と訴える人間と、静かに受け入れる人間の違いは何なのでしょう。百年法に反対し生きたいと願っていた人が無限の生を与えられたとたん自殺する、その心理描写に納得する反面、老いることのない姿に憧れも抱きます。有限な人生をどう生きどう死ぬか、このパラレルな世界から問いかけられているような気持ちになる一冊でした。
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