【ネタバレ有り】神様のカルテのあらすじを起承転結で解説!
著者:夏川草介 2011年6月に株式会社 小学館から出版
神様のカルテの簡単なあらすじ
松本の本庄病院に勤務する栗原一止は内科医5年目の医師。夏目漱石を愛する彼は古臭い言葉を話し、どんな修羅場でも茫洋とした様を崩さない。彼は職場では救急医療もこなす貧乏くじの変人医師として、自宅のある御嶽荘では可愛い妻を持つ幸せ者の「ドクトル」として、不眠不休の忙しい毎日を送っていた。
内科病棟に入院する栗原受け持ちの37人には老人も多い。手の施しようのない患者も本庄病院では受け入れるからだ。そんな中、栗原に母校である大学病院への移動の話しが持ち上がる。最先端医療の研究に心惹かれながらも、末期癌患者の孤独な老人を切り捨てた大学病院の実態に反発を覚える栗原。進退を悩む栗原に、友人である同僚医師砂山の恋の悩みや患者の死、御嶽荘の仲間「学士殿」の自殺未遂が襲いかかる。悲しむことが不得手な栗原はそれでも、強い一面を持つ山岳写真家の妻・榛名に支えられ、なんとか日々をこなしていた。
大学病院を見学した栗原は、患者よりも医師の多い環境に驚く。大学病院と本庄病院はいろいろ真逆。大学病院に見捨てられた末期癌患者・安曇さんは本庄病院の病棟ナースの人気者だ。急変し死去した安曇さんは、栗原に一通の手紙を残す。これまで患者の死に際しては、吹き荒れる感情の嵐を表に出さずやり過ごしてきた栗原。しかし安曇さんからの手紙に慟哭する。そして栗原は、本庄病院に残り安曇さんのような人達を支える医師であることを決めるのだった。
神様のカルテの起承転結
【起】神様のカルテのあらすじ①
5年目の内科医・栗原一止は松本にある本庄病院に勤めている。医者不足の本庄病院で栗原は夜間救急外来も受け持ち、不眠不休で患者を診る中、大切な1年目の結婚記念日を忘れてしまう。夏目漱石の「草枕」をこよなく愛する栗原は時代がかった変人として名高いが、救急外来を担当すればその夜は必ず重病患者が重なる「引きの栗原」としても有名なのだ。
ようやく勤務を終えた栗原は、住み慣れた元旅館の激安アパート御嶽荘に帰宅する。栗原は御嶽荘では「ドクトル」と呼ばれ、絵描きの「男爵」、大学院生の「学士殿」と仲良くしている。折りしも妻の榛名は山岳写真家の仕事で旅立ったところ。栗原は男爵、学士殿と飲み交わし、翌朝また緊急呼び出しを受けて病院へと取って返す。
【承】神様のカルテのあらすじ②
栗原の担当する高齢の男性患者が急変して死亡する。「やはり悲しむのは苦手だ」と表に出せない辛い気持ちを持て余す栗原を救ってくれたのは、帰宅した妻の優しさだった。他にも高齢の患者の多い本庄病院で活躍する栗原に、母校の大学病院から誘いがかかる。栗原は、本庄病院から大学病院に転院し、結局見捨てられて戻ってきた末期癌の安曇さんの一件を怒っていた。医局との関係を考えた栗原は、進退について思い悩む。
一方、同僚で色黒の巨漢外科医砂山は、内科病棟の可憐なナースに恋をし、栗原に相談する。
御嶽荘でも「学士殿」が自殺未遂で搬送される事件が起こる。学士殿は、大学院生と身分を偽って放蕩していた。
【転】神様のカルテのあらすじ③
人生を悲観していた学士殿は、栗林達に励まされ実家へと帰って行った。
栗原は大学病院の見学に行き、患者よりも医師の数の方が多い環境と、最先端の医療研究の魅力に心動かされる。
本庄病院ではいよいよ安曇さんの死期が近づく。穏やかな性格で病棟ナースに人気の安曇さんの過去を聞き、栗原は心洗われる。ナースと協力して安曇さんの最後の願いを叶えた栗原に、死去した安曇さんは「天国からの手紙」を残した。そこに記されたのは、孤独に寄り添ってくれたことへの感謝。病だけを見るのではなく、心を救ってくれた栗原に対する感謝だった。思わず涙が溢れ、栗原は慟哭する。
妻と居酒屋で待ち合わせた栗原は、先客の砂山に安曇さんの死を伝える。砂山は見事意中のナースを射止め、待ち合わせているところだった。
【結】神様のカルテのあらすじ④
栗原は大学病院には行かず、本庄病院に残ることを表明する。担当患者40人という劣悪な労働環境でも、栗原は本庄病院の先輩医師のように、患者に寄り添った医療を行っていきたいと決意していた。
神様のカルテを読んだ読書感想
文豪の小説に登場するかのように時代がかった口調で主人公の医師は喋ります。そのため主人公の視点で書かれた文章も同様に文語体の表現が多く、最初は違和感を感じましたが、慣れてくるとその古風な感覚と現代医療のギャップが痛快に感じられるようになりました。
作中で重要な位置をしめる老婦人安曇さんは、ずっと「運命の神様」を恨みながら生きていました。その彼女が栗原医師と出会い、運命の転機と幸福を感じます。題名の「神様のカルテ」とは、患者からの神のように思われる医師の記録であり、栗原医師の中に積もる公には記載できない大切なことであり、人間には知りえない不思議を秘めた運命のことなのだと感じました。
この巻は、栗原医師が安曇さんに言われた自分の名前の意味を心に留め、これからも本庄病院で医師として頑張って行こうと決意するところで終わっています。悩み苦しんだ栗原医師がこの巻を通し成長し、迷いを吹っ切ったところで終わるのです。すっきりと後味の良い終わり方であり、続編への期待を感じさせる終わり方です。最初から最後まで栗原医師の熱い想いを感じることはできますが、人の生死という重いテーマを扱う作品だけに、松本平の晴れた空を思わせる結末は印象的です。
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